旅行会社やDMO、自治体観光課が旅行・観光業界のシステムを検討し始めると、旅行会社向けの予約・造成システム、DMO向けの地域データ基盤、交通機関と連携する周遊促進の仕組み、多言語インバウンド対応まで、性質の異なる製品やサービスが候補に挙がり、どこから比較すればよいか分かりにくくなりがちです。選定の出発点は、自社・自地域がどの業務領域に課題を抱えているかを最初に切り分けることにあります。特に、旅行会社の基幹刷新とDMOの地域データ連携を同時に検討しているケースでは、比較の土台となる評価軸をそろえておかないと、部門ごとに異なる基準で製品を評価してしまい、意思決定が長期化しがちです。
本記事では、旅行・観光業界のシステムを選定する前に整理すべき自社・地域の課題、4つの種類、比較すべき評価軸、既存基盤活用とフルスクラッチ・ハイブリッドの選び分け、RFPや比較表の作り方、デモ・PoCの進め方を解説します。これから自社・自地域に合う仕組みを検討する担当者の方が、比較の軸をそろえ、具体的な進め方を組み立てられる内容です。
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・旅行・観光業界のシステム開発の完全ガイド
旅行・観光業界のシステム選定前に整理すべき自社・地域の課題

最初に行うべきは製品カタログを集めることではなく、旅行会社としての予約・造成業務、DMOとしての地域データ連携、交通機関との接点、多言語インバウンド対応のうち、どこに問題が集中しているかを特定することです。課題を一文で説明できるようになれば、比較対象に含める製品と、検討から外してよい機能が見えやすくなります。
予約・造成業務のボトルネックを確認します
航空券、宿泊、現地アクティビティをそれぞれ別々に手配し、旅程として組み合わせる作業を担当者が手作業で行っている場合、旅行会社・OTA基幹の整備が課題になります。検索から見積提示までにかかる時間、外部システムへの照会をどこまで自動化できているか、繁忙期のアクセス集中にどこまで耐えられているかを確認すると、必要なシステムの範囲が見えてきます。ダイナミックパッケージングを外部委託せず自社基幹で完結させたい場合、GDS・BSPとの接続実績を持つ開発会社がどれだけ限られているかも、あわせて把握しておく必要があります。
地域データの分断と交通・インバウンド対応を分けて考えます
地域内の宿泊・飲食・交通・体験事業者が使うシステムがばらばらで、観光地全体の状況を横断的に把握できていない場合はDMOの地域データ連携が課題です。一方、周遊ルートの提案や交通機関との連携がまだ手つかずであれば周遊促進(MaaS)が、多言語での案内や決済ができていなければインバウンド対応が、それぞれ別の課題として浮かび上がります。複数の課題が同時に存在する地域も多いため、どれを最優先にするかを決めてから比較を始めることが重要です。国土交通省の観光DX優良事例集で紹介されている福井県のように、県全域を一度に対象にするのではなく、特定エリアから着手して実績を積み上げる進め方も、課題の切り分けと合わせて検討しておくと、後の比較検討がスムーズになります。
旅行・観光業界のシステムの4つの種類

旅行・観光業界のシステムは、旅行会社・OTA基幹型、DMO・地域データ連携型、交通機関連携(MaaS)・周遊促進型、多言語インバウンド対応型という4つの種類に大別できます。実際の製品や取り組みは複数の性質を併せ持つこともあるため、分類名よりも、自社・自地域が最優先する業務を標準機能でどこまで処理できるかを確認することが大切です。自地域・自社がどの種類を重視すべきかを最初に決めておくと、後続の評価軸での比較作業が大幅に効率化されます。
旅行会社・OTA基幹型
航空券・宿泊・現地アクティビティを組み合わせて旅程として販売するダイナミックパッケージングや、GDS・BSPとの連携を中心とするタイプです。旅行会社やOTAとして、旅程の造成・見積・決済までを一気通貫で扱いたい企業に向いています。検索から見積提示までの応答速度や、繁忙期のアクセス集中への耐性は、この型を検討するうえで欠かせない確認事項になります。
DMO・地域データ連携型と交通機関連携(MaaS)・周遊促進型
DMO・地域データ連携型は、地域内の宿泊・飲食・交通・体験事業者のデータを横断的に束ね、観光地経営のダッシュボードとして活用するタイプです。地域のPMSを統一する方式と、既存システムを残したままRPA等でデータを抽出する方式があります。交通機関連携(MaaS)・周遊促進型は、AIカメラ等の動的データを使って混雑を避ける周遊ルートを提案したり、交通チケットや入場管理と連携したりするタイプで、地域のハードウェア投資を伴うことが多い点が特徴です。兵庫県城崎温泉のように地域のPMSを統一する事例と、福井県のように既存システムを残したままRPAでデータを抽出する事例の両方があり、地域内のシステム状況や事業者の合意形成のしやすさによって、向き不向きが分かれます。
製品・アプローチを比較する評価軸

候補となる製品やアプローチは、業務カバー範囲、外部連携の実績、事業者間の合意形成支援、多言語・インバウンド対応、拡張性とデータ移行性、運用・保守体制、コスト構造という軸で比較します。同じ質問を各候補へ提示し、回答の根拠までそろえることで、説明の分かりやすさではなく適合度で判断できます。評価軸を先に固定しておくことで、営業担当者の説明の巧拙に左右されず、後から見返しても判断根拠をたどれる比較記録になります。
業務カバー範囲と外部連携の実績を確認します
予約・造成、地域データ収集、周遊促進、インバウンド対応のうち、どこまでが標準機能で、どこからが追加開発になるかをまず確認します。GDS・BSP、地域内のPMS、交通機関のチケットシステムといった外部連携について、対象データ、接続方式、仕様変更時の対応実績まで確認すると、導入後の隠れた保守コストを見積もりやすくなります。特に、繁忙期のアクセス集中や外部システムの障害時に、どこまで自動的にリトライ・復旧してくれるかは、資料だけでは分かりにくいため、デモの場で具体的なシナリオを使って確認することが望まれます。
事業者間の合意形成支援と多言語・インバウンド対応を確認します
DMOの地域データ連携では、技術的な機能以上に、地域の宿泊・飲食・交通・体験事業者がデータ提供に合意してくれるかどうかが導入の前提条件になります。データ分析の説明会開催や新商品企画の伴走支援まで対応できる体制があるかを確認することが重要です。多言語・インバウンド対応については、独自アプリを新規開発する方式なのか、Google MapやWeChatミニプログラムのような既存プラットフォームへの相乗りを前提にした方式なのかで、必要な開発規模が大きく変わります。箱根町がGoogle Mapのビジネスプロフィール活用で対応コストを圧縮した事例のように、自地域が独自アプリの開発にどこまでコストをかけるべきかも、評価軸のひとつとして検討しておく価値があります。
既存基盤活用とフルスクラッチ・ハイブリッドの選び分け

旅行・観光業界のシステムでは、全国観光DMPのような既存基盤を活用する方法と、独自にフルスクラッチで開発する方法、両者を組み合わせるハイブリッドという3つの進め方があります。どれを選ぶかは、代替の効かない独自機能がどこにあるかによって決まります。この判断を誤ると、既製の基盤で十分だった業務にまで多額の開発費を投じてしまったり、逆に独自性が必要な業務を無理に標準機能へ押し込めてしまったりするリスクがあります。
既存基盤の活用が向くケースです
日本観光振興協会が提供する全国観光DMPのような基盤は、地域独自のデータと掛け合わせるだけで観光地経営のダッシュボードを整えられるため、資金やノウハウが十分でない地域に向いています。多言語インバウンド対応も、Google MapのビジネスプロフィールやWeChatミニプログラムといった既存グローバルプラットフォームへの相乗りによって、開発規模を抑えながら実現しやすくなります。初期投資を抑えられる分、機能のカスタマイズ範囲には制約があるため、自地域が本当に必要とする機能が標準提供されているかを事前に確認しておくことが大切です。
フルスクラッチとハイブリッドが向くケースです
旅行会社・OTAとして独自の予約フローやダイナミックパッケージングを持ちたい場合や、地域独自の税制・料飲集計ロジックをシステム化したい場合は、既製の基盤だけでは対応しきれず、フルスクラッチが選ばれやすくなります。地域の情報集積基盤やインバウンド向けUIには既存プラットフォームを活用し、既存PMSからのデータ抽出や地域独自の計算ロジックだけを個別開発するハイブリッド型は、期間とコストの両面で現実的な選択肢として実務上よく採用されています。フルスクラッチを選ぶ場合は、初期の開発費用だけでなく、GDS・BSPや地域内PMSといった外部システムの仕様変更に追随し続ける保守体制まで、契約前の見積もりに含めておく必要があります。
比較表・RFPの作り方

比較表やRFPには、機能の有無だけでなく、実際の業務シナリオと合格条件を明記します。旅行会社であれば実在するツアーの造成パターン、DMOであれば実在する地域事業者の数と種類を前提に記載すると、候補製品の回答の精度が上がります。
RFPに記載すべき項目です
対象部署、利用者数、連携する地域事業者数または旅行会社の取扱旅程数、現行の業務フロー、解決したい課題を記載します。そのうえで、旅行会社であればGDS・BSP連携の要否、DMOであれば地域内システムの統一状況、周遊促進であれば連携予定のハードウェアや交通機関を明示します。非機能要件には、権限管理、操作ログ、障害時対応、データ保管場所、エクスポート形式を含め、各要件を「必須」「望ましい」「将来」の3段階に分けると、要件過多で候補を失う事態を避けられます。旅行会社であれば繁忙期の想定同時アクセス数、DMOであれば地域事業者からのデータ提供に必要な説明資料の有無まで記載しておくと、各社からより実態に即した回答を得やすくなります。
共通の質問で証拠まで残して比較します
「GDS連携に対応」という回答だけでは、標準機能で完結するのか、追加開発が必要なのかが分かりません。「デモで確認」「仕様書で確認」「契約条項で確認」のように確認方法まで記録し、未確認の項目には点数を付けずに保留します。この方法であれば、営業説明の分かりやすさに評価が引っ張られにくく、選定後の認識違いも防げます。評価者によって基準が揺れないよう、あらかじめ採点シートのフォーマットを統一し、複数人でクロスチェックする体制を整えておくことも有効です。
デモ・PoCの進め方

旅行・観光業界のシステムのPoCは、動作確認以上に、事業者間の合意形成や外部システムとの実接続テストという、技術以前の条件を検証することに重きが置かれます。
事業者の合意形成と外部接続の安定性を検証します
DMOの地域データ連携であれば、県全域を一度に稼働させるのではなく、一部エリアに限定した先行導入で、地域事業者からデータ提供の合意を得られるかを確認します。旅行会社・OTA基幹であれば、GDS・BSPとの実データ接続でダイナミックパッケージングが安定して稼働するか、検索から見積提示までの応答時間が許容範囲に収まるかを確認します。ニセコエリアの体験アクティビティ一元予約・精算のように、複数事業者間の精算を自動化する機能を検証する場合は、実際の精算ルールを使って計算結果が事業者の期待と一致するかまで確認する必要があります。
Go/No-Go判断のポイントを事前に決めます
技術面では外部API連携の安定稼働とデータ精度、事業面では対象エリア・対象事業者からの合意形成、投資対効果の面では送客増加や業務効率化が投資に見合うかという3つの観点で、Go/No-Goの判断基準をあらかじめ決めておきます。判断基準を後付けにすると、PoCの結果が良くても悪くても、次の意思決定が属人的になりやすくなります。3つの観点のいずれかで基準を満たさない場合は、無理に全面導入へ進まず、対象範囲を絞った再PoCや、既存基盤の組み合わせ方の見直しを検討することが望まれます。
旅行・観光業界のシステム導入前に確認しておきたいポイント

候補を絞った後も、規模の大小だけで判断せず、外部連携の実績や事業者との合意形成、運用体制まで含めて確認することで、導入後に稼働が止まるリスクを抑えられます。
小規模な地域でも段階的な導入から始められます
地域全体を一度に対象にするのではなく、一部エリアでの先行導入から始め、実績を材料に他エリアへ展開する進め方は、規模の小さな地域でも採用しやすい方法です。既存基盤を活用すれば、大規模な初期投資をかけずに着手できます。
外部連携の実績を持つ開発会社かどうかを確認します
GDS・BSP、地域内のPMS、交通機関のチケットシステムといった外部連携は、旅行・観光業界特有の難易度を伴います。初期開発費だけでなく、法改正や外部システムの仕様変更への対応込みのトータルコストで判断し、地域・事業者間の合意形成まで伴走できる体制があるかを確認することが重要です。過去の導入実績を確認する際は、件数の多さだけでなく、自社・自地域と近い規模・業態での実績があるかどうかを重視してください。
まとめ

旅行・観光業界のシステムの選定では、旅行会社としての予約・造成、DMOとしての地域データ連携、交通機関との連携、多言語インバウンド対応のうち、自社・自地域の最優先課題を特定し、4つの種類から方向性を選びます。そのうえで業務カバー範囲、外部連携の実績、事業者間の合意形成支援、多言語対応、拡張性、運用体制、コスト構造という評価軸で候補を比較し、実際の業務シナリオを使ったPoCで事業者の合意形成と外部接続の安定性まで確認することが重要です。
既存基盤とフルスクラッチの選択は独自機能の有無で決めます
全国観光DMPのような既存基盤やGoogle Map等のグローバルプラットフォームは、資金やノウハウが十分でない地域・企業にとって現実的な出発点になります。一方、旅行会社・OTAとして独自の予約フローを持ちたい場合や、地域独自の税制・集計ロジックをシステム化したい場合は、既製の基盤だけでは対応しきれず、フルスクラッチやハイブリッドの構成が必要になります。判断に迷う場合は、まず既存基盤やグローバルプラットフォームでどこまで対応できるかを検証し、そこで対応しきれなかった部分に絞ってフルスクラッチを検討する順序が、投資対効果の面でも合理的です。
具体的な候補製品も比較材料に加えてください
評価軸に沿って候補を絞り込む際は、実際にどのような製品やサービスが存在するかを知っておくことも判断の助けになります。具体的な候補を確認したい場合は、旅行・観光業界のシステムのパッケージ・クラウド製品一覧を参照すると、共通の評価軸で比較しやすくなります。既製の基盤や製品では独自の予約フローや地域特有のロジックに対応できない場合、riplaはフルスクラッチ開発の立場から、要件整理から外部連携を含む構築まで支援しています。
▼全体ガイドの記事
・旅行・観光業界のシステム開発の完全ガイド
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
