農業のシステムとは?|考え方/特徴/仕組み/目的を解説

農地ごとの生育状況や収穫量の見込みを、担当者の経験と紙の作業日誌だけで把握している農業法人や農家は少なくありません。圃場が広がり、担当する品目や区画が増えるほど、天候の急変や労働力不足への対応が後手に回りやすくなります。圃場の環境データ収集から生育・収穫の管理、生産履歴の記録、経営管理までを一つの基盤でつなぎ、経験や勘に頼らない農業経営を支える仕組みが、農業のシステムです。

本記事では、農業のシステムの基本的な考え方と特徴、圃場データの収集から出荷までの仕組み、主要機能、導入目的、他の業務システムとの違いを順に解説します。農業のシステムという言葉を初めて知った担当者の方でも、自社の圃場規模や経営形態に照らして必要な仕組みかどうかを判断できるよう、実際の農業経営の業務フローに沿って整理します。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・農業のシステム開発の完全ガイド

農業のシステムとは何か?全体像と特徴

農業のシステムの全体像を確認する担当者

農業のシステムは、単に圃場の温度や湿度を測定するだけの仕組みではありません。IoTセンサーによる環境データ、GISと連携した圃場・区画情報、作業日誌に基づく生産履歴、収穫量の予測データ、経営や補助金申請に関わる会計情報までを一つの基盤で扱う点が特徴です。稲作・野菜・畜産など対象とする品目によって、重視される機能の比重は変わります。

対象は圃場の生育データだけでなく経営情報全体です

施設園芸であれば温湿度や日射量を取得し環境制御装置と連動させる機能が中心になり、水田であれば筆=区画単位の作付計画やほ場水管理が中心になります。いずれの場合も、現場で集めたデータをその場限りで終わらせず、生産履歴や経営会計につなげて初めて、農業のシステムとしての価値が生まれます。

たとえば、ある圃場で収量が伸び悩んだ場合、環境データと作業記録、収穫実績を突き合わせられれば、水やりの時期が問題だったのか、施肥量が原因だったのかを後から検証できます。データが別々の帳票やメモに分散していると、こうした振り返りは担当者の記憶に頼らざるを得ません。

現場のハードウェアと通信環境が前提条件になります

農業のシステムを検討するうえで無視できないのが、現場設置機器の耐久性です。統合環境制御装置は落雷の影響を受けやすく、ほ場に設置するIoTセンサーは砂埃や湿度、散布される農薬の影響で故障しやすいという指摘があります。オフィス向けの業務システムと同じ感覚で機器選定を進めると、想定より早い故障や交換対応に直面することがあります。

また、山間部や離島、広大な水田地帯では通信回線が十分に整っていない場合があり、常時オンラインを前提とした設計では、圃場によってはデータが送信できない事態が起こり得ます。オフライン時に計測値を一時保存し、通信が回復した際にまとめて送信できるかどうかは、導入前に確認しておきたい観点です。

メーカーごとの規格の違いがデータ連携を左右します

農業機械やセンサーはメーカーによって測定方法や通信規格が異なることが多く、複数メーカーの機器を組み合わせると、データの形式がそろわず比較や連携が難しくなる場合があります。既存の農機と新しく導入するシステムがうまくつながらないという相談も珍しくありません。

そのため、農業のシステムを選ぶ際は、機能の豊富さだけでなく、自社が現在使っている機器やセンサーとどこまでデータを橋渡しできるかを具体的に確認する必要があります。

農業のシステムの仕組みと業務フロー

圃場データ収集から出荷までの業務フロー

一般的な農業のシステムでは、圃場や区画の登録から始まり、環境・気象データの収集、作付計画、日々の作業記録、収穫、出荷計画、経営集計という順にデータをつないでいきます。工程ごとに情報を個別管理するのではなく、同じ圃場・ロットを軸に前工程の記録を次工程で参照できる点が特徴です。

圃場登録とセンサー・気象データの収集から始まります

最初に、圃場ごとの所在地、面積、栽培品目、輪作の履歴などを登録します。施設園芸では温湿度や日射量を取得するセンサーを設置し、統合環境制御装置と連動させます。水田や露地では、気象データと合わせて生育状況を定期的に記録します。

この段階で圃場の基本情報が整理されていないと、後工程で収穫量を予測する際にも、どの区画がどの条件で栽培されているかを毎回確認し直す手間が生じます。

作業日誌と生産履歴がロット単位でつながります

播種、定植、防除、収穫といった各工程の作業内容を、ロット番号や区画にひも付けて記録します。JGAPやGLOBALG.A.P.などのGAP認証に対応する場合、いつ・どの畑で・誰が・どの農薬や肥料を・どれだけ使用したかを正確に記録し、出荷ロットから栽培履歴を逆にたどれる状態を作ることが求められます。

農薬の希釈倍率が基準値を超えていないかをシステム側で計算し、超過が疑われる場合に警告を出す機能を持つ製品もあります。監査や取引先からの照会があった際に、帳票をワンクリックで出力できれば、担当者が過去の記録を探し回る負担を抑えられます。

収穫実績が出荷計画とJA・物流の連携に生かされます

収穫量は天候によって日ごとに変動しやすく、農産物は小ロット多頻度で出荷される傾向があります。JA系統の物流と商系の物流が別々に動いていると、収穫見込みの共有が遅れ、配車や出荷計画の調整に時間がかかることがあります。

現場の変革は、必ずしも高度なAIの導入から始める必要はありません。電話やFAX、個人のメッセージアプリでばらばらに届いていた出荷報告を、決まった時刻までに共通のフォーマットへ入力するという運用に統一するだけでも、配車や出荷計画の精度が上がった例が報告されています。生産履歴システム側の収穫見込みデータが、JAや運送の配車計画にAPIでつながる設計であれば、現場のアナログな改善が、より広い範囲の業務効率化につながります。

農業のシステムの主要機能

農業のシステムの主要機能

農業のシステムの機能は製品によって幅がありますが、大きく分けると、圃場・環境データの収集と制御、生産履歴・トレーサビリティ管理、収穫量予測と出荷計画、経営管理・補助金対応の四つに整理できます。自社がどの工程で最も手間や抜け漏れを抱えているかから、必要な機能を絞り込むと検討が進めやすくなります。

圃場・環境データの収集と統合環境制御を支援します

施設園芸では、温湿度、日射量などのデータを取得し、換気扇や暖房、灌水設備を自動制御する機能が中心になります。水田では、ほ場水管理システムによって水門の開閉を遠隔・自動で行い、見回りの回数を減らす仕組みが使われています。

画像解析の技術を使い、病害虫の兆候を早期に見つけ、ドローンによる防除の範囲や量を最適化する機能を備えた製品もあります。ただし、こうした解析の精度は、対象となる品目や地域の栽培条件によって差が出るため、自社の作物での実績を確認することが欠かせません。

生産履歴・トレーサビリティ機能でGAP認証に対応します

播種から収穫までの作業記録をロット単位で蓄積し、GAP認証の要求事項に沿った帳票を出力できるかどうかは、輸出や大手小売との取引を見据える生産者にとって重要な確認点です。

現場での入力しやすさも見落とせません。炎天下や手袋をしたままでも操作できる大きなボタン、音声入力への対応など、高齢の生産者でも扱いやすいUIかどうかが、記録の継続率に直結します。

経営管理・補助金申請の帳票作成を支援します

種苗費、農薬費、肥料費など農業特有の勘定科目を扱う農業簿記や、収穫物の自家消費に関する処理、経営所得安定対策などの交付金を雑収入として計上する処理は、一般的な会計システムだけでは対応しきれない場合があります。

みどりの食料システム戦略推進総合対策や農地利用効率化等支援交付金といった補助事業では、規模別の費用対効果や実績データを事業計画書に反映する必要があり、圃場データや作業記録を集計してそのまま資料化できる機能があると、申請作業の負担を軽減できます。

導入目的と期待できるメリット

農業のシステム導入の目的を整理する会議

農業のシステムを導入する目的は、記録のデジタル化だけではありません。労働力不足を補い、経験や勘に頼っていた判断を裏付けるデータを蓄積し、次の作付けや経営判断に生かせる状態を作ることにあります。

労働力不足を補い作業時間を削減します

自動操縦の田植機やロボットトラクターなどの活用によって、これまで10人で行っていた田植え作業を5人程度まで減らせたという事例や、ほ場水管理システムの導入によって水管理にかかる作業時間が7割以上削減されたという事例が報告されています。ただし、こうした効果は圃場の形状や規模、地域の営農条件によって差が出るため、自社の作業実態に置き換えて効果を見積もる必要があります。

ロボットトラクターは1台あたりおよそ1,000万円、農業用ドローンはおよそ100万〜130万円、高性能な田植機はおよそ300万円という価格帯が示されることがあり、投資判断には初期費用と削減できる労働時間・人件費を照らし合わせる視点が欠かせません。

経験・勘に頼らない技術継承を支えます

熟練した生産者の判断は、長年の経験に基づく暗黙知であることが多く、後継者や新規就農者へそのまま引き継ぐことは容易ではありません。環境データや作業記録、収穫実績を蓄積しておけば、なぜその時期にその作業を行ったのかという根拠を、数値として残すことができます。

これにより、担当者が交代した場合でも、圃場ごとの特性や過去の対応をシステム上で確認しながら引き継ぎを進められます。属人化していた判断の一部を、組織の共有財産として残せることは、農業のシステムを導入する大きな目的の一つです。

農業現場特有の導入の壁とシステムの役割

農業現場特有の課題を確認する担当者

農業のシステムは工業や商業向けの業務システムと比べて、現場環境そのものが導入のハードルになりやすいという特徴があります。高額な導入費用と費用対効果の見合いにくさ、高齢化とITリテラシー、品目・地域の多様性という壁を理解したうえで導入を検討することが重要です。

小規模・多品目ゆえ費用対効果が見合いにくい場合があります

農業法人の経営規模や品目構成は多様で、大規模な単一品目の経営であれば投資回収を描きやすい一方、小規模かつ多品目の経営では、同じ機能を一律に展開しても費用に見合う効果が得られにくい場合があります。

そのため、まず費用対効果が出やすい工程を一つに絞り、そこで得られた削減時間や品質改善を確認してから、対象範囲を広げていく進め方が現実的です。

高齢化とITリテラシー不足が定着の壁になります

農業の現場では高齢の生産者が新しい技術を学ぶ負担が大きく、システムを導入しても現場で使われないまま形骸化してしまうことがあります。推進役となる人材の育成が急務とされているのも、こうした背景があるためです。

画面の文字サイズやボタンの配置、音声入力の対応など、操作面での配慮に加えて、社内で誰が使い方を教え、誰が問い合わせに答えるかという運用体制を用意しておくことが、定着の分かれ目になります。

気候・土壌・品目の多様性が一律展開を難しくします

同じ農業のシステムであっても、気候や土壌、栽培する品目が地域ごとに大きく異なるため、ある産地で成果を上げた設定や運用方法が、別の作物や地域ではそのまま機能しないことがあります。

そのため、他社の成功事例をそのまま自社に当てはめるのではなく、自社の作物や圃場条件に合わせてパラメータや運用ルールを調整できる製品かどうかを、導入前に確認する必要があります。

他の業務システムとの違い

農業のシステムと他システムの違い

農業のシステムは、会計システムや一般的な生産管理システムと機能が重なる部分があります。ただし、それぞれの中心的な管理対象や前提とする変動要因は異なります。既存システムをすべて置き換えるものと考えず、どこまでを農業のシステムが担い、どこから既存システムへ連携するかを整理することが重要です。

会計システムとは扱う勘定科目と申請業務が異なります

一般的な会計システムは、仕訳、債務、決算などを幅広く扱いますが、種苗費や農薬費、肥料費といった農業特有の勘定科目や、収穫物の自家消費計上、交付金の雑収入処理までは標準機能でカバーしきれないことがあります。

農業のシステムが圃場データや作業記録を集計し、会計システムへ必要な情報を渡す役割分担にすれば、どちらか一方に無理に機能を詰め込まずに済みます。

工業向けの生産管理システムとは前提となる変動要因が異なります

工場の生産管理システムは、設備の稼働率や生産計画の精度を管理対象とすることが多く、比較的コントロールしやすい環境を前提としています。一方、農業のシステムが扱う対象は、天候や生育状況といった、企業側で完全にはコントロールできない変動要因を含みます。

そのため、収穫量予測や出荷計画についても、確定した数値ではなく幅を持った見込みとして扱い、天候急変時に計画を柔軟に見直せる運用を前提に設計する必要があります。

農業のシステム導入前に確認しておきたいポイント

農業のシステムに関する質問を確認する担当者

農業のシステムを導入するかどうかは、経営規模だけで決まるものではありません。現場のハードウェア環境や通信条件、GAP認証の要否、既存の農機との連携まで含めて整理することで、導入後に使われないシステムを防ぎやすくなります。

小規模農家でも導入効果は見込めますか

経営規模が小さくても、記録の分散や後継者への技術継承が課題であれば検討する価値があります。一方、単一品目で作業範囲が限られ、既存の紙の日誌で十分に管理できているなら、無理に導入範囲を広げる必要はありません。

既存の農機やセンサーを買い替える必要がありますか

必ずしもすべてを買い替える必要はありません。ただし、メーカーごとにデータ形式や通信規格が異なる場合があるため、既存の機器からどこまでデータを取り込めるか、対応できない場合の代替手段があるかを事前に確認することが重要です。

GAP認証の取得だけを目的に導入するべきですか

GAP認証対応は農業のシステムが持つ機能の一つですが、それだけを目的にすると、収穫量予測や経営管理など他の機能が使われないまま終わることがあります。認証取得と合わせて、どの業務課題を解決したいかを明確にしておくと、機能を無駄なく活用できます。

まとめ

農業のシステムの要点をまとめる担当者

農業のシステムは、圃場の環境データ収集から生育・収穫管理、生産履歴、経営管理までを一つの基盤でつなぐ仕組みです。ハードウェアの耐久性や通信環境、メーカー間の互換性、高齢化やITリテラシー、品目・地域の多様性といった農業特有の壁を理解したうえで、自社の課題に合わせて導入範囲を検討することが重要です。

システムは経営判断を支える基盤であり万能ではありません

収穫量予測や環境制御の精度は品目や地域条件によって差があり、GAP認証への対応も、システムを導入するだけで自動的に満たされるものではありません。自社の栽培体系や経営規模に合わせて、必要な機能と運用ルールを設計することが欠かせません。

現状の圃場業務を可視化することから始めます

まずは、どの圃場でどの作業にどれだけの時間がかかっているか、記録の抜け漏れがどこで起きているかを整理してください。既製のクラウドサービスで標準化できる部分と、自社の栽培体系や基幹システムに合わせた独自開発が必要な部分を切り分けることが、導入検討の第一歩になります。既製SaaSでは吸収しきれない業務要件がある場合、riplaはフルスクラッチ開発の立場から、既存の農業機械や基幹システムとの連携を含む構築を支援しています。具体的な選び方や評価軸は、農業のシステムの選定ポイント・選び方・種類で解説しています。

▼全体ガイドの記事
・農業のシステム開発の完全ガイド

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

ブログ|株式会社riplaをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む