システムのモダナイゼーションとは?|考え方/特徴/仕組み/目的を解説

老朽化した基幹システムに手を入れようとするたびに影響範囲の特定に時間がかかり、簡単な機能追加ですら大掛かりな検証が必要になる――そうした状況に頭を悩ませる情報システム部門は少なくありません。ブラックボックス化した既存システムを、クラウドや最新のアーキテクチャを前提に段階的に作り替え、事業の変化に追従できる基盤へと生まれ変わらせる取り組みが、システムのモダナイゼーションです。

本記事では、システムのモダナイゼーションの基本的な考え方と特徴、レガシー化が引き起こす課題ともたらされる仕組み、代表的な5つのアプローチ、段階移行という進め方、導入目的、クラウド移行やDX推進など隣接する取り組みとの違いを順に解説します。これからモダナイゼーションの検討を始める担当者の方が、自社のどの領域から着手すべきかを判断できるよう、実務の流れに沿って整理します。

システムのモダナイゼーションとは何か?全体像と位置づけ

システムのモダナイゼーションの全体像を確認する担当者

システムのモダナイゼーションとは、老朽化したハードウェアや言語、アーキテクチャに依存した既存システムを、クラウドネイティブな技術や現代的な開発手法を前提に作り替え、変化に追従できる状態を維持し続ける取り組みを指します。単発のバージョンアップやサーバー更改とは異なり、業務ロジック、データモデル、運用体制までを見直しの対象に含む点が特徴です。IPA「DXレポート」が指摘する「2025年の崖」の議論を機に、経営課題として扱われる機会が増えています。

老朽化した基盤の作り替えそのものを指します

モダナイゼーションが対象にするのは、稼働から10年、20年と経過し、開発当時の担当者が退職して仕様の全体像を把握できる人がいない、といった状態のシステムです。COBOLで書かれたメインフレーム上の基幹システムのように、動作はしているものの改修のたびに影響範囲の調査に時間がかかる状態を、クラウド環境や現代的な言語・アーキテクチャへ置き換えることで解消します。

対象になるのは基幹システムに限りません。周辺の業務システムであっても、法改正や事業拡大のたびに改修コストが跳ね上がる状態が続いていれば、モダナイゼーションの検討対象になります。

対象はアプリケーションだけでなくデータと運用体制にも及びます

見落とされがちですが、モダナイゼーションはアプリケーションのコードを書き換えるだけでは完結しません。データモデル(テーブル設計)を放置したままアプリだけを刷新しても、データの整合性や処理性能の問題は解消されないため、必要に応じてデータモデルの再設計も範囲に含めます。稼働後の監視体制やコスト管理(FinOps)といった運用面の設計まで含めて初めて、モダナイゼーションは効果を発揮します。

対象範囲を線引きする際は、「動いているシステムに触れたくない」という現場の心理も考慮する必要があります。長年トラブルなく稼働してきたシステムほど、刷新に踏み切る理由を社内で説明しにくくなりますが、稼働実績があることと、将来にわたって保守し続けられることは別の問題です。現状維持のコストと将来のリスクを可視化し、対象範囲の判断材料として関係者間で共有することが、着手の第一歩になります。

レガシー化がもたらす課題と「2025年の崖」

レガシー化した基幹システムの課題を分析する担当者

システムのモダナイゼーションが注目される背景には、レガシー化した基幹システムを放置することの経済的な損失があります。IPAの「DXレポート」では、多くの企業でIT予算の8〜9割以上がレガシーシステムの維持管理費に費やされているという構造が指摘されています。新しい取り組みに投資する余力が失われ、事業の変化に追従できなくなる状態が、モダナイゼーションが解決しようとしている課題です。

技術的負債が保守コストと変更リスクを膨らませます

長年の改修が積み重なったシステムでは、ドキュメントが実態と一致しなくなり、担当者の記憶や勘に頼って改修範囲を判断する場面が増えます。こうした「技術的負債」が積み上がるほど、小さな機能追加であっても影響範囲の調査に時間がかかり、保守コストが増大します。

加えて、開発当時の言語やミドルウェアに精通した技術者が高齢化・退職していくことで、システムを保守できる人材そのものが不足するリスクも高まります。属人化した状態のまま放置すると、改修の可否を判断できる人がいなくなる事態にもつながります。

経産省が指摘する「2025年の崖」という試算

経済産業省が示した試算では、レガシーシステムを放置した場合、2025年以降に年間最大12兆円という、現在の経済損失の約3倍にあたる規模の損失が生じる可能性があるとされています。この数字自体を過度に強調する必要はありませんが、放置のコストが自然に減ることはなく、むしろ増え続ける構造にある点は、モダナイゼーションの検討を先送りしにくい理由になっています。

モダナイゼーションを実現する5つのアプローチ

5つのモダナイゼーション手法を比較検討する会議

レガシーシステムの刷新方法は一つではありません。一般的には、リホスト、リプラットフォーム、リファクタリング、リビルド、リプレースという5つのアプローチ(いわゆる5R)に整理され、対象システムの重要度や求める効果によって組み合わせて選択します。どの手法にも一長一短があり、優劣ではなく適材適所で使い分ける考え方が基本になります。

リホストとリプラットフォームは基盤の入れ替えを優先します

リホスト(リフト&シフト)は、既存のコードやデータ構造をほぼ変更せず、稼働環境だけをクラウドへ移す手法です。サポート終了(EOS)への対応など、短期間での基盤刷新が求められる場面に向いています。リプラットフォームは、アプリケーションの基本構造を維持したまま、OSやデータベースをクラウドのマネージドサービスへ置き換え、あるいはコンテナ化する手法で、リホストよりも運用効率の改善効果を見込みやすくなります。

リファクタリングとリビルドはコードとアーキテクチャそのものを見直します

リファクタリングは、外部から見た挙動(ビジネスロジック)を維持したまま、内部のコード構造を整理し、必要に応じてマイクロサービス化などを進める手法です。既存の仕様を壊さないための回帰テストが欠かせません。リビルド(リアーキテクチャ)は、既存資産をいったん廃棄し、クラウドネイティブな設計でゼロから作り直す手法で、柔軟性や拡張性を最大化できる一方、影響範囲と投資規模が最も大きくなります。

リプレースは自社開発をせずSaaS・パッケージへ移行する選択です

リプレースは、自社で開発・保守を抱える代わりに、既製のSaaSやパッケージ製品へ切り替える手法です。開発コストを抑えられる一方、自社の業務プロセスを製品の標準機能(Fit to Standard)に合わせる社内調整や、既存データのクレンジングに想定以上の時間がかかりやすい点には注意が必要です。各アプローチのどれが自社に合うかを判断する評価軸は、システムのモダナイゼーションの選定ポイント・選び方・種類で整理しています。

段階移行(インクリメンタル方式)という進め方の特徴

段階的なシステム移行のスケジュールを確認する担当者

モダナイゼーションを進める際、最も避けるべきとされるのが、対象システムを一度にすべて刷新する「ビッグバン方式」です。テスト範囲が膨大になり、不具合が発生した際の原因特定が難しくなるため、業務への影響が小さい領域から段階的に移行する「インクリメンタル方式」が鉄則とされています。

一括刷新はテスト規模の膨張とエラー特定の困難を招きます

大規模な基幹システムを一度に切り替えようとすると、あらゆる業務パターンを一度に検証する必要が生じ、テスト工数が想定を超えて膨らみがちです。稼働後に不具合が起きた場合も、どの変更が原因かを特定しにくく、業務への影響が長期化するリスクがあります。段階的な移行であれば、問題が起きても影響範囲を限定でき、原因の切り分けもしやすくなります。

アセスメントから運用定着までを段階的な工程で進めます

一般的な進め方としては、現状のシステム構造・依存関係・データモデルを可視化するアセスメントに数か月、着手する対象の優先順位付けと手法選定にさらに数か月をかけたうえで、業務影響の小さい周辺領域から実装を進めます。稼働後も一定期間は運用最適化のフェーズとして扱い、監視体制の定着や教育を続けることで、刷新の効果を安定させます。

導入目的と得られる効果

モダナイゼーション導入の目的を整理する会議

モダナイゼーションの目的は、単にシステムを新しくすることではありません。保守運用コストを継続的に下げられる状態を作り、技術者不足のリスクを解消し、事業の変化に合わせて機能を追加し続けられる基盤を持つことにあります。

保守運用コストの削減にはFinOpsの設計が欠かせません

データベースをクラウドのマネージドサービス化したり、サーバーレス化によって完全従量課金を実現したりすることで、パッチ適用や監視といった運用作業を自動化し、保守運用コストを大きく引き下げられる可能性があります。ただし「とりあえずクラウドへ移す」だけでは、オンプレミス時代の過剰なサーバー構成をそのまま引き継いでしまい、コストが期待どおり下がらないケースも見られます。稼働前からコスト最適化(FinOps)や性能監視の設計を組み込み、稼働後6〜12か月程度は継続的にリソースの見直しを行う運用が重要になります。

技術者不足の解消と事業競争力の確保につながります

レガシー言語に精通した技術者の高齢化・退職は、多くの企業に共通する課題です。現代的な言語やクラウド環境へ移行することで、新しい技術者を確保しやすくなり、属人化していた保守体制を組織的な体制へ移行しやすくなります。加えて、変化に追従しやすい基盤を持つことで、新機能の投入スピードを高め、事業の競争力そのものを底上げする効果も期待できます。

クラウド移行・DX推進・スクラッチ再開発との違い

モダナイゼーションと他の取り組みの違いを整理する担当者

モダナイゼーションは、クラウド移行やDX推進、フルスクラッチによるシステム再構築といった言葉と混同されることがあります。それぞれ目的や対象範囲の粒度が異なるため、自社が何を実現したいのかに応じて言葉を整理しておくと、社内外での認識のずれを防げます。

クラウド移行(リフト&シフト)は手法の一つという位置づけです

クラウド移行という言葉は、しばしばリホスト(リフト&シフト)とほぼ同じ意味で使われます。モダナイゼーションはこのクラウド移行を含む、より広い概念であり、コードの内部構造やアーキテクチャの見直しまで踏み込む点が異なります。単にサーバーの置き場所を変えるだけでは、モダナイゼーションが目指す保守性・拡張性の向上までは実現しないことがあります。

DX推進とはIT基盤刷新か事業変革かという焦点が異なります

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を使って事業モデルや顧客体験そのものを変革する、より広い経営レベルの取り組みを指すことが一般的です。モダナイゼーションは、その土台となるIT基盤そのものを刷新する技術的な取り組みであり、DXを進めるための前提条件として位置づけられることが多くなります。老朽化した基盤のままでは、DXで構想した新しい施策を迅速に実装できないため、両者は補完関係にあります。

フルスクラッチ再構築は5Rの中のリビルドに相当します

既存資産を廃棄してゼロから作り直すフルスクラッチ開発は、モダナイゼーションの選択肢の一つである「リビルド(リアーキテクチャ)」に相当します。すべてのモダナイゼーションがフルスクラッチを意味するわけではなく、リホストやリプラットフォームのように既存資産を活かす選択肢も含まれる点は、混同しやすいため注意が必要です。

システムのモダナイゼーション導入前に確認しておきたいポイント

モダナイゼーション導入前の疑問を確認する担当者

モダナイゼーションは、対象システムの重要度や現状の技術的負債の大きさによって、適した進め方が大きく変わります。着手前に整理しておきたい代表的な論点を確認します。

対象範囲は最初から広げすぎず限定して構いません

全社のシステムを一度に見直す必要はありません。影響範囲が小さく、効果を測定しやすい周辺システムから着手し、段階的に対象を広げる進め方でも十分に効果を積み上げられます。むしろ最初から対象を広げすぎると、前述のビッグバン方式に近いリスクを抱えることになります。

移行手法によって適したパートナーの専門性が異なります

リホストやリプラットフォームはクラウド基盤の知見が中心になりますが、リファクタリングやリビルドでは、既存の業務ロジックを正確に読み解く分析力と、新しいアーキテクチャの設計力の両方が求められます。COBOL資産の自動変換など特定領域に強みを持つ支援会社もあるため、対象システムの特性に応じてパートナーを見極める必要があります。

稼働後の運用体制まで含めて計画する必要があります

刷新したシステムを安定的に運用するには、監視設計やコスト最適化の知見、クラウド運用のスキルを持つ人材が欠かせません。運用担当者のリスキリングを行わないまま稼働だけを迎えると、刷新した基盤が「新しいブラックボックス」になってしまうリスクがあるため、稼働前の段階から運用設計と教育を計画に組み込みます。

まとめ

モダナイゼーションの要点をまとめる担当者

システムのモダナイゼーションは、老朽化した基盤をクラウドや現代的なアーキテクチャに合わせて作り替え、事業の変化に追従できる状態を維持し続ける取り組みです。リホスト、リプラットフォーム、リファクタリング、リビルド、リプレースという5つのアプローチを、対象システムの重要度に応じて使い分け、ビッグバン方式を避けて段階的に進めることが、納期とリスクをコントロールする鉄則になります。

モダナイゼーションはコストと人材のリスクに向き合う取り組みです

保守運用コストの継続的な削減、技術者不足への対応、事業の変化に追従できる開発体制の確保という複数の目的を同時に満たそうとする点が、単なるシステム更改とモダナイゼーションの違いです。

現状のシステム構造を可視化することから始めます

まずは対象システムの依存関係やデータモデルを可視化し、どの領域から着手すべきかを見極めることが出発点になります。標準的なクラウドサービスや自動変換ツールで対応できる領域がある一方、業務ロジックが複雑に絡み合った基幹領域では、既存資産を読み解いたうえでの個別設計が必要になります。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、レガシー資産の分析からクラウドネイティブなアーキテクチャへの再構築、既存システムとの連携までを支援しています。具体的にどのようなクラウドサービスやツールがモダナイゼーションを支援しているかは、システムのモダナイゼーションのパッケージ・クラウド製品一覧で紹介していますので、あわせてご参照ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

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