勘定奉行や給与奉行といった奉行シリーズを長年オンプレミス型で運用してきた企業では、サーバーの老朽化対応や法改正のたびに発生する保守負担、社内に閉じたシステムゆえの連携のしづらさが課題として顕在化しつつあります。特にオンプレミス型の最新モデル「奉行11」は2025年2月末で販売を終了しており、保守サポートも2027年4月末で打ち切られる予定であるため、多くの既存ユーザーが移行のタイミングを検討し始めています。奉行クラウド導入とは、OBC(オービックビジネスコンサルタント)が提供するクラウド型の奉行シリーズ「奉行クラウド」を採用し、会計・人事給与・販売仕入在庫などの基幹業務をSaaSとして利用開始する取り組みを指します。
本記事では、奉行クラウドという総称ブランドの位置づけと製品ラインナップ、クラウド移行が求められる背景、DX SuiteやAPI連携による仕組み、Azureを基盤としたセキュリティの考え方、オンプレミス版との違いや移行時の注意点を順に解説します。奉行11ユーザーとして移行時期を検討している担当者の方にも、これから奉行クラウドの導入を新規に検討する担当者の方にも、判断材料となるよう整理しています。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・奉行クラウド導入の完全ガイド
奉行クラウドとは何か|総称ブランドとしての位置づけ

奉行クラウドは、OBCが2018年に日本マイクロソフトとの連携を強化して発表したクラウドサービスブランドで、Microsoft Azure基盤上で提供されています。会計に特化した「勘定奉行」だけでなく、人事給与、販売・仕入在庫管理までを含む「奉行iクラウド」群全体を指す総称であり、単一の製品名ではありません。まずは、奉行クラウドがどのような製品群で構成され、どのような立ち位置のサービスなのかを整理します。
会計に限らない製品ラインナップで構成されます
奉行クラウドの中核をなすのは会計業務を担う勘定奉行iクラウドですが、これに加えて、販売管理と仕入・在庫管理をまとめて扱う商蔵奉行iクラウド、給与計算や社会保険手続を担う給与奉行iクラウド、固定資産管理に特化した固定資産奉行iクラウドといった、業務領域ごとのモジュールが用意されています。中堅・成長企業やグループ企業、IFRS対応や海外子会社管理が必要な企業向けには、上位ブランドとして奉行V ERPクラウドも用意されており、事業規模の拡大に応じて段階的に上位モデルへ移行できる構成になっています。
これらのモジュールは、経理・販売管理・人事労務の情報をシームレスに連携させる「DX Suite」という仕組みを通じてつなげられます。会計だけを個別に導入する場合と比べて、部門をまたいだデータのやり取りを自動化しやすくなる点が、単体の会計ソフトとは異なる奉行クラウドの特徴です。
奉行Smartマルチクラウドという別の選択肢もあります
奉行クラウドとよく似た名称のサービスに、奉行Smartマルチクラウドがあります。これはMicrosoft Azure、AWS、富士通FJcloud-Vなど、顧客が選んだクラウドインフラ(IaaS)上で、奉行システムと既存のカスタマイズシステムを同時に運用できるサービスで、SaaS版の奉行クラウドとは別物です。奉行クラウドがOBCによって一元管理されるオールインワン型であるのに対し、奉行Smartマルチクラウドは自社が選んだ基盤上で運用の自由度を保ちながらクラウド化したい企業向けの選択肢という位置づけになります。本記事では基本的にSaaS版の奉行クラウド(奉行iクラウド)を中心に解説します。
クラウド移行が求められる背景|奉行11の販売終了とサポート終了

オンプレミス型の最新モデルである奉行11シリーズは、2025年2月末をもって販売が終了しています。保守サポートについても2027年4月末で終了する予定であり、この期限が既存オンプレミスユーザーにとって奉行クラウドへの移行スケジュールを検討するうえで最大の制約条件になっています。
保守契約は年単位のため計画的な検討が必要です
奉行11の保守契約は年単位の契約となっており、契約期間の途中で解約しても返金は行われません。そのため、保守サポートが終了する2027年4月末を待たずに、契約更新のタイミングに合わせて移行時期を検討することが推奨されています。移行の要否を判断せずに保守期限が近づくと、検討期間そのものが十分に取れなくなる恐れがあるため、早めに社内の検討体制を整えることが実務上のポイントになります。
OBC公式の移行推奨プロセスは5段階で構成されます
OBCが案内する移行の流れは、調査票への回答、環境チェック、社内での検討、見積り、クラウド移行の実施という5段階で構成されています。環境チェックの段階ではオンラインセミナーで講師の支援を受けられるほか、移行ガイドブックやオンラインデモ、電話サポートも提供されており、初めて移行を検討する担当者でも段階を追って進めやすい設計になっています。自社のデータ構成や利用中のオプション機能を洗い出したうえで、この流れに沿って検討を進めると、抜け漏れの少ない移行計画を立てやすくなります。
奉行クラウドの仕組みと主要機能

奉行クラウドの仕組みを理解するうえで欠かせないのが、モジュール間の連携とAPIによる外部システムとの接続です。会計・販売管理・人事労務がどのようにつながり、どこまでを自動化できるのかを押さえておくと、自社に必要な範囲を見極めやすくなります。
DX Suiteが経理・販売管理・人事労務をつなぎます
DX Suiteは、奉行iクラウドの各モジュールが持つデータを横断的につなぐ統合の仕組みです。たとえば、商蔵奉行iクラウドで確定した売上・仕入のデータを勘定奉行iクラウドの仕訳に反映させたり、給与奉行iクラウドで計算した人件費を会計側の帳票に取り込んだりする際、モジュールをまたいだ二重入力を減らせる可能性があります。ただし、連携できる項目や自動化の範囲はモジュールの組み合わせによって異なるため、自社が導入予定のモジュール同士で、どこまでが標準連携でどこからが個別設定になるのかを事前に確認しておくことが重要です。
Azure API Managementによる外部システム連携も可能です
奉行クラウドは、APIを利用して外部システムから仕訳のもととなるデータを自動的に取り込み、仕訳起票を自動化する仕組みを備えています。この接続はAzure API Managementを通じて実現されており、勤怠管理システムや販売系の自社システムなど、奉行クラウド以外のシステムとの連携を検討する際の技術的な基盤になります。API連携の具体的な範囲や項目は、接続したいシステムの仕様によって変わるため、連携を前提に導入を検討する場合は、双方のAPI仕様を突き合わせたうえで実現可能性を確認する必要があります。
セキュリティと責任分界点|Azure基盤の考え方

奉行クラウドはMicrosoft Azureを基盤として提供されており、データは国内データセンターで管理・運用されています。クラウドサービスを利用するにあたっては、どこまでをベンダー側が担い、どこからを自社側が担うのかという責任分界点の考え方を理解しておくことが欠かせません。
データは暗号化・隔離のうえ3重化構成で保護されます
奉行クラウドのデータは、東日本をメインとし西日本をバックアップとする3重化構成で管理されており、他の利用企業のデータとは隔離されたうえで暗号化されています。通信はSSLによって保護され、財務報告やセキュリティに関する内部統制の認証であるSOC1 Type2・SOC2 Type2の報告書も取得されています。Azure自体もデジタル庁が選定するガバメントクラウドサービスプロバイダーの一つであり、ISMAPに登録されている点も、選定時の判断材料になります。
インフラはOBC・Azure側、運用ルールは自社側が担います
クラウドサービス全般に共通する考え方として、サーバー、OS、ネットワーク、物理的なセキュリティといったインフラ部分はOBCおよびAzure側が管理し、ID・パスワードの管理やアクセス権限の設定、入力するデータの内容そのものについては利用企業側が責任を持つ、という責任共有モデルが採用されています。この考え方はMicrosoft Azureが示す「クラウドでの責任共有」の枠組みに準拠したもので、奉行クラウドを導入した後も、自社側で権限設計やパスワードポリシーを適切に運用する必要がある点は変わりません。
オンプレミス版との違いとデータ移行の注意点

奉行クラウドは、機能面だけでなくデータの互換性という点でも、オンプレミス版とは同じメーカーが手がける別製品と捉えるのが実務上は適切です。移行を検討する際には、仕様の違いとデータコンバートの手順を事前に把握しておく必要があります。
複数会社管理やデータ領域の分割に制限があります
クラウド版では、1契約につき管理できるのは1社のみで、オンプレミス版のような複数会社管理はできません。また、データ領域は1つに限られ、会計年度ごとにデータ領域を分けて保持する運用も行えません。加えてデータサイズには上限が設けられているため、長期間分の取引データを一括で保持してきた企業ほど、移行前にデータ量と保持方針を確認しておく必要があります。
移行前にはデータコンバート事前確認ツールでの確認が必要です
データを移行する際は、事前に「データコンバート事前確認ツール」を使って、既存データがクラウド版へ問題なく変換できるかどうかを確認する必要があります。OBCインストラクターによるデータコンバート代行サービスも用意されており、1領域あたり55,000円からの料金で依頼できますが、商蔵奉行系のデータを扱う場合はコンバート前の事前指導を別途申し込む必要がある点に注意してください。会計だけを先行して移行すると、給与奉行や商蔵奉行との連携が従来のAPI連携からCSVによる手動連携に後退するケースがあるという指摘もあり、複数モジュールを段階的に移行する場合は、連携方式がどう変わるのかも合わせて確認しておくと安心です。
導入目的と他システムとの違い

奉行クラウド導入の目的は、単に会計ソフトをクラウド化することだけではありません。サーバー運用の負担を減らし、法改正への対応を継続的に受けられる状態を作りながら、事業の成長に応じて機能を拡張できる基盤を用意することにあります。
サーバー保守が不要になり自動アップデートを受けられます
オンプレミス型では、自社サーバーの購入費用や更新投資、電気代・空調・保守要員の人件費といったインフラ運用コストが継続的に発生します。クラウド化によってこうしたサーバー関連の負担がなくなるほか、法改正への対応や機能追加もベンダー側で自動的に適用されるため、担当者が個別にバージョンアップ作業を行う必要がなくなります。オンプレミス版の年間保守費用がソフトウェア価格のおよそ15〜20%程度とされていたことと比べると、クラウド化によるコスト構造の変化は、移行を検討する企業にとって重要な論点の一つです。
事業拡大に応じて奉行V ERPクラウドへ段階的に移行できます
奉行クラウドは、勘定奉行iクラウドなど中小企業向けのモジュールから始め、事業が拡大しグループ会社管理やIFRS対応が必要になった段階で、上位ブランドの奉行V ERPクラウドへステップアップできる構成になっています。具体的な製品ごとの機能や料金の違いについては、奉行クラウド導入の選定ポイント・選び方・種類で詳しく整理していますので、自社に合う規模のモジュールを見極める際の参考にしてください。
奉行クラウド導入前に確認しておきたいポイント

奉行クラウドの導入を具体的に検討する段階では、移行のタイミングだけでなく、対象とするモジュールの範囲や、外部コンサルティングを利用するかどうかも合わせて整理しておく必要があります。ここでは、実務上よく論点になる確認事項を整理します。
既存の奉行11ユーザーは保守期限からの逆算が出発点です
すでに奉行11を利用している企業では、保守サポートが終了する2027年4月末までの残り期間から逆算してスケジュールを立てることが出発点になります。保守契約が年単位である以上、契約更新のタイミングに合わせて移行するのか、期限直前まで待つのかによって、社内の準備期間や繁忙期との兼ね合いが大きく変わります。決算期や年末調整の時期を避けて移行時期を設定できるよう、早い段階でOBCの調査票に回答し、環境チェックを受けておくことをおすすめします。
自社対応と外部コンサル利用では費用感の幅が大きく異なります
データコンバートだけであれば、OBCインストラクターによる代行サービスを55,000円程度から利用できますが、業務プロセスの見直しまで含めた本格的な移行支援を外部のコンサルティング会社に依頼する場合は、コンサルティング費用や移行作業費、研修費などを含めて100万円から400万円程度、期間にして半年から1年程度を要するとされる例もあります。自社だけで完結できる範囲と、専門家の支援が必要な範囲を早い段階で切り分けておくと、想定外のコスト増を避けやすくなります。
複数モジュールを段階導入する場合は連携方式の変化に注意します
勘定奉行だけを先に移行し、給与奉行や商蔵奉行を後から移行するという段階的な進め方も可能ですが、その間はモジュール間の連携がAPI連携ではなくCSVによる手動連携に一時的に後退する場合があります。全モジュールを同時に移行する体制が取れない企業では、どの期間、どの業務がどの連携方式になるのかを事前に整理し、関係部門へ周知しておくことが、移行期間中の混乱を避けるうえで重要です。
まとめ

奉行クラウド導入とは、会計・人事給与・販売仕入在庫などを含む奉行シリーズのクラウド版を採用し、SaaSとして利用を始める取り組みです。奉行11の販売終了・保守終了という期限を背景に、サーバー運用の負担を減らしながら、DX SuiteやAPI連携によるモジュール横断の仕組みを活用できる点が、オンプレミス版との大きな違いになります。
クラウド化は運用負担を減らす一方でデータ移行の検討が必要です
クラウド化によってサーバー保守や自動アップデートの負担は軽減されますが、複数会社管理やデータ領域の制限など、オンプレミス版とは異なる仕様を前提にデータ移行を計画する必要があります。導入前には、自社が保有するデータ量や会社数の構成が、クラウド版の仕様に収まるかどうかを確認することが欠かせません。
まずは保守期限とモジュール範囲の整理から始めます
奉行11をすでに利用している企業は保守期限からの逆算を、これから新規に導入する企業は自社に必要なモジュールの組み合わせを整理することから始めてください。標準機能で対応できる範囲が大きい一方、独自の帳票フォーマットや基幹システムとの深い連携が必要な場合は、既製のクラウド製品だけでは吸収しきれないこともあります。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、奉行クラウドと既存システムとの連携要件の整理や、標準機能では対応しきれない業務要件に合わせたシステム構築を支援しています。
▼全体ガイドの記事
・奉行クラウド導入の完全ガイド
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
