SaaSの必要機能や標準機能の一覧について

SaaS(Software as a Service)の開発や導入を検討するとき、最初に直面するのが「自社のSaaSに、どんな機能が必要なのか」という機能要件の整理です。SaaSは単なるWebアプリではありません。1つのシステムを多数の企業に貸し出し、月額や年額のサブスクリプションで継続課金し、企業ごとにデータを分離し、利用状況を分析しながら解約を防ぎ、事業として成長させていく「ビジネス基盤」そのものです。だからこそ、単機能のアプリを作る感覚で機能を選ぶと、リリース後に「課金が回らない」「解約が止められない」「企業が安心して使えない」という致命的な欠落が露呈します。

本記事は、SaaSが備えるべき必要機能・標準機能を、(1)プラットフォーム基盤機能、(2)認証・セキュリティ機能、(3)テナント向けフロント機能、(4)自社向け管理機能、(5)外部連携機能という5つの層で体系的に解説する「機能特化」の記事です。マルチテナント設計やサブスクリプション課金、SSO・RBAC、オンボーディング、MRR/ARRレポート、API/Webhookまで、SaaS事業基盤として何が標準で何が必須かを具体的に整理します。読み終えるころには、自社の要件定義に直結する「SaaS機能チェックリスト」が頭の中に描けるはずです。なお、SaaS開発の全体像をまだ把握していない方は、まずSaaS開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。

プラットフォーム基盤機能(マルチテナント・課金)

SaaSのプラットフォーム基盤機能(マルチテナント・課金)のイメージ

プラットフォーム基盤機能とは、SaaSを「ビジネスとして成立させる」ための土台です。一般的なWebアプリが「1社・1ユーザー群のための機能」を作るのに対し、SaaSは「多数の企業に同じシステムを貸し出し、継続課金で売上を立てる」ことが前提になります。この違いが、SaaS固有の基盤機能を生み出します。ここを軽視すると、見た目は動くのに「事業として回らない」システムになってしまいます。

マルチテナント設計とデータ分離の基盤機能

SaaSの根幹をなすのが、マルチテナント設計です。これは1つのシステム(アプリケーション)を複数の企業(テナント)で共有しながら、各企業のデータを論理的・物理的に分離して扱う仕組みを指します。A社のユーザーがログインしてもA社のデータしか見えず、B社のデータには一切アクセスできない。この分離が完璧に機能することが、SaaSの大前提です。テナントごとに別々のシステムを立てるのではなく、1つの基盤で多数の企業に提供するからこそ、SaaSは低コストで多くの顧客にサービスを届けられます。

このデータ分離が甘いと、他社のデータが見えてしまう情報漏えい事故に直結します。だからこそ、テナントを識別するキーの設計、データベースの分離方式(テナントごとに行で分けるか、スキーマで分けるか、データベースごと分けるか)、アクセス制御の徹底は、SaaSの設計段階で最優先に詰めるべき必須事項です。マルチテナントは「あれば便利な機能」ではなく、これがなければSaaSとして成り立たない土台そのものだと理解してください。テナント単位のカスタマイズ(ロゴやドメインの出し分け)も、ここに付随する基盤機能になります。

サブスクリプション課金とトライアル制御機能

SaaSのもう一つの心臓部が、サブスクリプション課金機能です。月額・年額の継続課金、プラン別の料金体系(ベーシック・スタンダード・エンタープライズ等)、利用人数に応じたシート課金、使った分だけ請求する従量課金など、SaaSの収益モデルをそのまま機能に落とし込む必要があります。プランのアップグレード・ダウングレード時の日割り計算、年額一括払いと月額払いの切り替え、請求書の自動発行といった処理も、課金機能の重要な構成要素です。この課金が正確に回らなければ、SaaSは売上を立てられません。

さらにSaaS固有なのが、トライアルとフリーミアムの制御機能です。14日間の無料トライアル後に自動で有料へ移行させる、無料プランでは機能を一部制限する、上限を超えたら有料プランへ誘導するといった制御は、SaaSの顧客獲得の生命線です。こうした課金まわりは地味に見えて開発負荷が重く、決済(課金)機能だけで80〜200万円かかります。会員登録・ログイン機能の30〜80万円と合わせ、基盤機能だけで相応の投資が必要になるため、自社の収益モデルに本当に必要な課金パターンを見極めて仕様化することが、コスト管理の出発点になります。

認証・セキュリティ機能(SSO・RBAC・監査ログ)

SaaSの認証・セキュリティ機能(SSO・RBAC・監査ログ)のイメージ

SaaSは他社の業務データを預かるサービスである以上、認証・セキュリティ機能の充実が、企業に選ばれるかどうかを直接左右します。とくに法人向け(BtoB)のSaaSでは、導入企業の情報システム部門がセキュリティ要件を厳しくチェックします。ここの機能が弱いと、機能や価格がどれだけ優れていても「セキュリティ審査を通らない」という理由で導入を見送られます。SaaSの認証・セキュリティは、事業拡大の前提条件だと考えてください。

SSO・SAML/OAuthとロールベースアクセス制御

法人向けSaaSで標準機能として求められるのが、SSO(シングルサインオン)への対応です。導入企業はすでにMicrosoft EntraやGoogle Workspace、Oktaといった認証基盤を使っており、SAMLやOAuthといったプロトコルでSSO連携できることを条件にするケースが増えています。SSOに対応していれば、利用企業の社員は普段のアカウントでそのままログインでき、パスワードの個別管理も不要になります。これは利便性だけでなく、退職者のアカウントを一括停止できるなど、セキュリティ統制の面でも企業に強く求められる機能です。

もう一つの必須機能が、ロールベースアクセス制御(RBAC)です。同じテナント内でも、管理者・一般ユーザー・閲覧専用といった役割ごとに、使える機能や見られるデータを細かく制御する仕組みです。誰がどの操作をできるかを役割で管理できなければ、企業は安心して全社展開できません。管理者がユーザーを招待・削除し、権限を付与・剥奪できるユーザー管理機能も、RBACと一体で提供すべき標準機能になります。多要素認証(MFA)も、近年は標準として期待される水準に達しています。

監査ログとデータ分離・コンプライアンス機能

監査ログ機能も、法人向けSaaSでは欠かせない標準機能です。誰が・いつ・どのデータにアクセスし・何を変更したかを記録し、後から追跡できる仕組みは、利用企業の内部統制や情報セキュリティ監査に対応するために必要になります。とくに金融・医療・人事といった機微なデータを扱うSaaSでは、監査ログがないと導入審査を通過できません。操作履歴の記録、ログのエクスポート、一定期間の保管といった機能を、最初の設計に織り込んでおくことが重要です。

これらの認証・セキュリティ機能は、前述のマルチテナントのデータ分離と一体で設計する必要があります。SSOで認証されたユーザーが、RBACで許可された範囲だけを、自社テナントのデータに限ってアクセスでき、その全操作が監査ログに残る。この一連の流れが破綻なく動くことが、企業に信頼されるSaaSの条件です。これらは「あれば便利」ではなく、法人向けSaaSでは事業拡大に必須の機能群だと位置づけてください。どこまでをローンチ時点で備え、どこからを成長後に拡充するかは、ターゲット顧客のセキュリティ要件次第であり、要件定義の段階で見極めるべき重要事項です。詳しくは『SaaSのRFP/要件定義書/提案依頼書について』もあわせてご覧ください。

テナント向けフロント機能(オンボーディング・可視化)

SaaSのテナント向けフロント機能(オンボーディング・利用可視化)のイメージ

テナント向けフロント機能とは、利用企業(テナント)のユーザーが日々使う画面の機能です。基盤と認証が「事業を成立させる土台」だとすれば、フロント機能は「契約してもらい、使い続けてもらう」ための機能です。SaaSはサブスクリプションである以上、最初に契約して終わりではなく、毎月使われ続けて初めて売上が継続します。フロント機能の質が、解約率(チャーン)を左右する最大の要因になります。

オンボーディングと初期設定を支援する機能

SaaSで意外に軽視されがちなのが、オンボーディング機能です。契約直後のユーザーが「何から始めればよいか」で迷うと、そのまま使われずに解約される「立ち上がり時のチャーン」が発生します。これを防ぐのが、初回ログイン時のセットアップガイド、入力すべき項目を順に案内するステップ表示、サンプルデータの自動投入、操作のツアー表示といった機能です。利用企業が最初の成功体験(プロダクトの価値を実感する瞬間)に最短で到達できるよう導く機能は、SaaSの定着率を大きく押し上げます。

あわせて、利用企業の管理者が自社のユーザーを招待し、初期設定を済ませる管理画面も、テナント向けフロントの重要機能です。SaaSは導入企業が自分たちで設定して使い始める「セルフサーブ」が基本になるため、自社で完結できる設定機能が整っているほど、導入のハードルが下がります。オンボーディングは「あれば便利」に見えて、実は契約後の定着を決める準必須機能だと捉えるのが正解です。

ダッシュボードと利用状況の可視化機能

テナント向けフロントの中心となるのが、ダッシュボードです。利用企業がログインして最初に見る画面で、自社の重要な数値や状況がひと目で分かるように可視化します。SaaSの価値は「使うことで何かが改善する」点にあるため、その改善や成果をダッシュボードで見せられるかどうかが、継続利用の動機を左右します。グラフやサマリー数値で「使い続けるメリット」を実感させる機能は、解約防止の観点でも極めて重要です。

さらに、利用企業の管理者向けに「自社が今どれだけ使っているか」を見せる利用状況の可視化機能も有効です。アクティブユーザー数、利用しているシート数、契約プランに対する使用量などを表示すれば、管理者はプランの最適化や社内展開の判断ができます。チャットやリアルタイムの通知といった機能を加える場合、リアルタイムチャット機能は150〜400万円規模の開発負荷になります。フロント機能は華やかで目を引きますが、優先順位を付けないと費用が膨らむため、「契約後の定着に直結する機能」から実装するのが賢明です。

自社向け管理機能(契約・解約・MRR/ARR分析)

SaaSの自社向け管理機能(契約・解約・MRR/ARR分析)のイメージ

自社向け管理機能とは、SaaSを提供する自社(運営側)が、事業を運営・成長させるために使う管理画面の機能です。ここがSaaSと単発のアプリ開発を最も強く分ける部分です。SaaSは「作って売って終わり」ではなく、契約が積み上がり、解約を抑え、収益を伸ばし続ける「ストック型ビジネス」です。その経営判断を支えるのが、この自社向け管理機能であり、SaaS事業基盤としての本質がここに表れます。

顧客・契約管理と解約(チャーン)管理機能

自社向け管理機能の基盤となるのが、顧客・契約管理機能です。どのテナント(顧客企業)が、どのプランを、いつから、いくらで契約しているかを一元管理します。契約の開始・更新・プラン変更・停止といったライフサイクルを正確に追跡できなければ、請求のミスや、契約状態とサービス提供の不整合が起きてしまいます。テナントごとの契約状況・課金状況・利用状況を運営側が把握できる管理画面は、SaaS運営の生命線です。

そしてSaaSで決定的に重要なのが、解約(チャーン)管理機能です。どの顧客が、いつ、どんな理由で解約したかを記録し、解約率の推移を可視化します。SaaSはストックビジネスなので、新規獲得を続けても解約が多ければ売上は積み上がりません。利用頻度が落ちている、ログインが減っているといった「解約の兆候」を検知し、カスタマーサクセスが先回りして手を打てるようにする機能は、SaaSの収益を守る要です。解約管理は「あれば便利」ではなく、事業の存続に関わる必須機能だと考えてください。

MRR/ARRレポートと利用分析機能

SaaSの経営を数値で支えるのが、MRR/ARRレポート機能です。MRR(月次経常収益)やARR(年次経常収益)は、サブスクリプション事業の健全性を示す最重要指標です。新規契約による増加、アップセルによる拡大、解約・ダウングレードによる減少を分解して、収益がどう動いているかを可視化します。この数値を見て初めて、自社のSaaSが成長しているのか、解約に侵食されているのかを正しく判断できます。これらのレポートは、運営側の管理機能として標準で持っておきたい要素です。

あわせて、テナント横断の利用分析機能も価値があります。どの機能がよく使われ、どの機能が使われていないか、どんな利用パターンの顧客が解約しやすいかを分析できれば、プロダクト改善や解約防止施策の根拠になります。こうした分析機能は最初から完璧に作る必要はなく、まずは契約・課金・解約という事業の根幹を押さえ、分析の高度化は成長に合わせて拡充するのが現実的です。重要なのは、SaaSは「自社向け管理機能こそ事業の心臓部」だという視点を、機能選定の最初から持つことです。

外部連携機能とコストを抑える機能の切り分け

SaaSの外部連携機能とコストを抑える機能切り分けのイメージ

SaaSの価値を広げるのが、外部連携機能です。SaaSは単独で完結するより、利用企業がすでに使っている他のツールと連携できるほど、業務に組み込まれ、解約されにくくなります。連携は「あれば便利」から「乗り換えコストを生む武器」へと位置づけが変わってきています。同時に、機能を盛り込むほど費用が膨らむため、必須と便利を切り分ける考え方が、SaaS開発のコスト管理では欠かせません。

API・WebhookとiPaaS連携の機能

外部連携の中核となるのが、API(外部からSaaSのデータや機能を呼び出すための窓口)とWebhook(SaaS内でイベントが起きたときに外部へ通知する仕組み)です。利用企業が自社の他システムとデータをやり取りしたり、業務を自動化したりするには、整理されたAPIが公開されていることが前提になります。法人向けSaaSでは「APIがあるか」が導入判断の条件になることも多く、連携を見据えるなら早い段階でAPI設計を意識すべきです。Webhookがあれば、契約変更やデータ更新といったイベントを外部システムにリアルタイムで伝えられます。

さらに、ZapierやMakeといったiPaaS(SaaS同士をノーコードでつなぐ連携プラットフォーム)への対応も、連携機能を広げる現実的な手段です。自社ですべての連携を個別開発しなくても、iPaaS経由で多数のSaaSとつながれるようにしておけば、開発コストを抑えながら連携の幅を広げられます。ただし外部連携は、ターゲット顧客が本当に求めているかを見極めることが大切です。誰も使わない連携を先回りで作り込むと、開発費だけが膨らみます。連携機能は「顧客の要望に応じて段階的に拡充する」のが、コストと効果のバランスが良い進め方です。

必須機能と「あれば便利」を切り分ける考え方

5層の機能を把握したうえで、最後に大切なのが「必須機能」と「あれば便利な機能」を切り分ける作業です。SaaSは機能を盛り込むほど費用が膨らむため、すべてを最初から作ろうとすると予算が破綻し、立ち上げも遅れます。マルチテナント・データ分離・サブスクリプション課金・解約管理といった、これがないと事業が回らない機能は必須。一方、高度な利用分析、凝ったダッシュボード、多数の外部連携などは、顧客の声を聞きながら後から追加できる「あれば便利」に分類できます。

この切り分けの威力を示すのが、AI駆動開発によるコスト圧縮です。市場相場700〜1500万円(13〜18人月)規模の開発を、AIコード自動生成と発注体制の工夫により、実質8人月・約500万円に圧縮した実績があります。必須機能に絞ってまず最小構成(MVP)で立ち上げ、収益と顧客の声を見ながら機能を拡充していく。この段階的なアプローチが、限られた予算でSaaS事業を立ち上げる現実解です。なお、運用フェーズも見据える必要があり、SaaSの運用保守費は初期開発費の年間15〜20%が目安です。機能をどうRFPや要件定義書に落とし込むかは、関連記事で詳しく解説しています。

まとめ

SaaS機能のまとめイメージ

SaaSに必要な機能は、プラットフォーム基盤(マルチテナント・サブスクリプション課金)、認証・セキュリティ(SSO・RBAC・監査ログ・データ分離)、テナント向けフロント(オンボーディング・ダッシュボード)、自社向け管理(契約・解約管理・MRR/ARR分析)、外部連携(API/Webhook・iPaaS)の5層で整理すると漏れがありません。とりわけ、マルチテナント設計とデータ分離、サブスクリプション課金、解約(チャーン)の可視化こそが、単機能アプリとSaaS事業基盤を分ける決定的な違いであり、事業が回るかどうかを決めます。課金機能だけで80〜200万円かかるなど基盤は重い投資ですが、必須と便利を切り分けて優先順位を付ければ、限られた予算でも事業を立ち上げられます。

機能の検討は、一覧を眺めるだけでは完結しません。自社の収益モデル・ターゲット顧客のセキュリティ要件・事業フェーズに照らして「事業が回らなくなる機能はどれか」を見極め、MVPで立ち上げて要件定義へと落とし込むことが不可欠です。AI駆動開発を活用すれば、市場相場700〜1500万円規模を実質約500万円に圧縮した実績もあります。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、SaaS事業基盤としての機能の洗い出しと、自社の事業モデルに合わせた機能設計を一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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