Ruby on Rails(以下Rails)の採用を検討するとき、もっとも参考になるのは「実際の事業会社がどのようにRailsで立ち上げ、成長に合わせてどう作り替えてきたのか」という具体的な事例です。Railsは「短期間でWebサービスを立ち上げられる」生産性の高さで知られますが、その肩書きだけでは、自社のプロダクトに10年単位で耐えられるのかは判断できません。本記事は、Railsの導入事例・開発事例・成功事例、そしてモノリス肥大化からの移行事例までを、媒体名つきの一次情報とともに発注企業の視点で掘り下げる「事例特化」の解説記事です。
クックパッドが100万行を超えるRailsモノリスをマイクロサービス化した話、メルカリWebが4年がかりで作り替えた二重運用の現実、BaseconnectがRailsからGoへ移行した判断、STORESがRailsとSpringを併用する設計など、国内事業会社の生々しい事例を取り上げます。フレームワークとしてのRailsを「どう導入し、どう育て、いつ別技術へ移行すべきか」という発注・経営判断の軸で読み解いていきます。Railsの全体像をまだ把握していない方は、まずRuby on Rails開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。
Ruby on Railsの代表的な導入・成功事例

Railsの成功事例には、はっきりとした共通点があります。それは「フレームワークとしての開発速度を武器に、競合より早く市場へプロダクトを出し、検証サイクルを高速で回した」という点です。ここでは、発注企業の視点から見て参考になる導入パターンを、媒体名つきの一次情報とともに具体的に見ていきます。
クックパッド・メルカリがRailsで急成長した立ち上げ事例
国内を代表するWebサービスの多くが、立ち上げ期にRailsを採用しています。クックパッドは長年にわたりRailsを中核に据えて巨大なレシピサービスを運営してきましたし、メルカリもWebアプリケーションをRailsで構築して急成長を遂げました。これらに共通するのは、フリマやレシピ投稿のように「とにかく早く機能を出してユーザーの反応を見たい」事業特性に、Railsの開発速度が完璧に噛み合った点です。
Railsが立ち上げに強いのは、フレームワークが「設定より規約(CoC)」と「DRY(同じことを繰り返さない)」という思想で設計されているからです。データベースのテーブルとモデルを自動的に対応づけるActiveRecord、画面・モデル・コントローラーの雛形を一気に生成するscaffold(スキャフォールド)といった仕組みにより、ベンダーは定型作業に時間を奪われず、事業独自のロジックに集中できます。発注企業にとって、これは「同じ予算でより多くの機能検証ができる」という直接的なメリットになります。
ただし重要なのは、これらの企業が「Railsで成功した」だけでなく「成功してユーザーが増えた結果、後述するモノリス肥大化という次の課題に直面した」という点です。立ち上げの成功事例は、必ずその後のスケール課題とセットで読む必要があります。発注側が学ぶべきは「Railsで素早く立ち上げる」判断と「成長後にどう作り替えるか」という二段構えの計画なのです。
GitHub・ShopifyというグローバルRails大規模運用の事例
「Railsは小規模向けで大規模には耐えない」という言説をよく耳にしますが、世界的なサービスがRailsを大規模運用し続けている事実は、その見方が一面的であることを示しています。世界最大のソースコード管理サービスであるGitHubや、世界規模のECプラットフォームであるShopifyは、いずれもRailsを基盤に据えて巨大なトラフィックを捌いています。これは「Railsだから大規模に向かない」のではなく「設計と運用次第で大規模にも耐える」ことの証明です。
発注企業がこの事例から読み取るべきは、「フレームワーク単体の限界」と「設計・運用の巧拙」を分けて考える視点です。同じRailsでも、適切にモジュール分割し、重い処理を非同期化し、データベースを適切に分割すれば大規模に耐えますし、無計画にコードを積み上げれば数年で破綻します。つまり成否を分けるのはRailsという選択そのものよりも、それを扱うベンダーの設計力なのです。
この観点は、発注先を選ぶ際の評価軸に直結します。「Railsで作れます」というベンダーは数多くいますが、「将来の肥大化を見越して最初からモジュール境界を意識した設計ができる」ベンダーは限られます。成功事例を表面的に「Railsを使ったから成功した」と捉えるのではなく、「規模に応じた設計をしたから成功した」と読み解くことが、発注判断の精度を高めます。技術選定の判断軸については、本記事と対をなすメリット・デメリットの記事で詳しく解説しています。
モノリス肥大化からの移行・マイクロサービス化事例

Railsの事例で発注企業がもっとも学ぶべきは、成功談ではなく「成長の末に直面したモノリス肥大化と、その移行プロジェクト」です。ここでは国内事業会社が公開している移行事例を、媒体名と定量的な事実とともに紹介します。
クックパッド100万行・メルカリ4年がかりの分割事例
転職メディアAMBIが伝える事例では、クックパッドが100万行を超えるモノリシックなRailsアプリケーションをマイクロサービス化していった取り組みが紹介されています。100万行という規模は、機能追加のたびに思わぬ箇所に影響が及び、テストにも膨大な時間がかかる状態を意味します。クックパッドはこれを段階的にサービス分割し、巨大な一枚岩を扱いやすい単位へ解きほぐしていきました。
メルカリ(Mercari Engineering)の事例では、WebアプリケーションをRailsから4年がかりでマイクロサービス化した過程が公開されています。ここで発注企業が直視すべきは「4年がかり」という期間の重さです。移行期間中は旧システムと新システムを並行稼働させる必要があり、その間はインフラコストも開発リソースも実質的に二重にかかります。移行は「新しい技術に乗り換える」という軽い話ではなく、数年単位の体力勝負だという現実が、この事例から読み取れます。
これらの事例の本質は「Railsを選んだのが失敗だった」ではありません。むしろ「Railsで素早く立ち上げて事業を成功させたからこそ、次のスケール課題に投資できる体力がついた」という順序です。発注側が学ぶべき教訓は、最初から完璧なアーキテクチャを狙うのではなく、フェーズに応じて作り替える前提で計画を立てることです。移行の隠れコストや二重運用のリスクについては、本記事と対をなす失敗特化の記事で詳しく掘り下げています。
BaseconnectのRails→Go移行と独自ツール開発事例
企業情報データベース「Musubu」を運営するBaseconnect(Baseconnect Tech blog)は、RailsからGoへの移行という具体的な技術判断を公開しています。注目すべきは、単に言語を乗り換えただけでなく、移行を成立させるために独自ツールを開発した点です。Go向けのDIコンテナ「dicon」を自作し、テスト用のモックを自動生成する仕組み(impast/mocker)を整備することで、テスト効率を高めながら移行を進めました。
さらに同社は、APIレスポンスのHash構造をプレーンなクラスにマッピングする「Response Layer」を設けるなど、Railsで当たり前に使えていた便利機能をGoの世界で再現するために相応の作り込みを行っています。この事例が発注企業に教えるのは、「Railsから別言語への移行は、言語を覚えれば済む話ではなく、Railsが暗黙に提供していた生産性を自前で再構築するコストが伴う」という現実です。
Railsの生産性は、ActiveRecordやscaffoldのような「至れり尽くせり」の仕組みに支えられています。Goは実行性能や並行処理に優れる一方、Railsほど開発を自動化してくれません。だからこそBaseconnectは独自ツールでその差を埋めました。発注側が移行を検討する際は、「移行先の言語性能」だけでなく「Railsの生産性をどう代替するか」までを見積もりに含めることが、現実的な判断につながります。
RailsとSpringを併用する技術選定の事例

移行は「すべてを捨てて作り直す」だけが選択肢ではありません。Railsを得意領域に残しつつ、別フレームワークを適材適所で併用する事例も、発注判断の参考になります。ここではRailsとSpringを併用する国内事例を見ていきます。
STORESのRails×Spring実務比較事例
STORES(STORES Product Blog)では、Ruby on RailsとJavaのSpring双方を実務で扱った経験の比較が公開されています。RailsとSpringはどちらも「定番のフルスタックフレームワーク」ですが、思想が異なります。Railsは規約に従えば設定を最小化できる生産性重視、Springは型安全性とエンタープライズ向けの堅牢な仕組みを重視する設計です。同社が両方を扱っている事実は、「一つのフレームワークですべてを賄う」のではなく、サービスの性質に応じて使い分ける現実的な選択を示しています。
リクルート(リクルート テックブログ)でも、SpringとRailsでサービスを分割しながら運用する事例が見られます。新規性が高くスピードが求められる領域はRails、堅牢性や既存資産との整合が重要な領域はSpring、というように、フレームワークの特性に応じた住み分けが行われています。発注企業にとって重要なのは、「自社の全システムを一つの技術で統一しなければならない」という思い込みを外すことです。
こうした併用事例から学べるのは、技術選定が「RailsかSpringか」という二者択一ではなく、「どの機能をどの技術で作るか」という組み合わせの設計だという点です。ただし併用には、複数技術を扱える人材の確保や、システム間連携の運用コストといった負担も伴います。発注側は、併用がもたらす最適化の利点と、運用が複雑になる欠点を天秤にかけて判断する必要があります。
リクルートのGo導入とRails併存から見る適材適所
リクルートのテックブログでは「Go言語を使って1年」を振り返る記事が公開されており、Railsで培った資産を残しながら、新しい領域でGoを導入していく現実的な進め方が示されています。これは「RailsかGoか」という排他的な選択ではなく、「Railsの強みが活きる領域は残し、Goの並行処理や実行性能が必要な領域は切り出す」という共存のモデルです。
この適材適所の考え方は、API設計とも深く結びつきます。マネーフォワードやウォンテッドリー(Findy Engineer Lab)の事例では、用途に応じてgRPCとRESTを使い分けたり、Amazon SNSとGoでお知らせ機能のフォールトトレランスを高めたりと、機能ごとに最適な技術を組み合わせています。一方で「Goは関数型のfilter/mapが標準で揃っておらず記述量が増える」といった現場のリアルも語られており、移行先にも固有の不便さがあることが分かります。
これらの大企業の事例に共通するのは、「一度選んだ技術に固執しない」柔軟さと、「移行や併用には相応のコストがかかる」という冷静な現実認識です。発注企業がこうした事例を自社に翻訳する際は、「うちの規模ならまずRailsで素早く作り、必要が生じてから一部を切り出す」という段階的なロードマップを描くのが、最も再現性の高い成功パターンと言えます。
まとめ

Railsの事例を発注企業の視点で振り返ると、成功の鍵は「Railsの圧倒的な開発速度で素早く事業を立ち上げ、市場検証を最優先する」一方、「クックパッドの100万行分割やメルカリの4年がかりの作り替えが示すとおり、成長後のスケール課題を最初から前提に計画する」ことにあります。GitHubやShopifyの大規模運用が証明するように、Railsは設計次第で大規模にも耐えますが、無計画な積み上げは肥大化を招きます。
BaseconnectのRails→Go移行やSTORES・リクルートの併用事例が教えてくれるのは、「技術選定は一度きりではなく、事業フェーズに応じた継続的な意思決定だ」という本質です。移行には独自ツールの開発や二重運用といった隠れたコストが伴いますが、それは「Railsで成功したからこそ訪れる課題」でもあります。riplaは、こうした事例の学びを自社のロードマップに翻訳し、最適な技術選定から開発・保守・移行までを一気通貫で支援します。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
