MVP開発の必要機能や標準機能の一覧について

MVP開発(実用最小限の製品=市場に投入して検証する最小プロダクトの開発)を検討するとき、もっとも頭を悩ませるのが「どの機能をMVPに盛り込み、どの機能を捨てるべきか」というスコープ(機能範囲)の定義です。MVPは「最小限の製品」と言われますが、機能を削りすぎれば検証したいコア価値が伝わらず、逆に盛り込みすぎれば開発費が膨らみ、何が支持されたのか分からなくなります。この絞り込みの匙加減こそが、MVP開発の成否を分ける最大の論点であり、ここを誤ると「最小限ではない、ただの中途半端な製品」ができあがってしまいます。

本記事は、MVPに盛り込むべきコア機能の絞り込みと、スコープ定義の考え方を、発注企業の視点から体系的に解説する「機能・スコープ特化」の記事です。MVPで検証すべき対象(コア価値1機能)の見極め方、MoSCoW法による機能の優先度付け、市場投入に最低限必要な機能群、そして「作らない機能」を明確にする重要性まで、一次データとあわせて具体的に整理します。読み終えるころには、自社のMVPに必要な機能を取捨選択する「ものさし」が手に入るはずです。なお、MVP開発の全体像をまだ把握していない方は、まずMVP開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。

MVPで検証するコア価値1機能の見極め方

MVPで検証するコア価値1機能の見極め方のイメージ

MVPの機能スコープを定義する出発点は、「このプロダクトで検証したい事業仮説は何か」を一文で言い切ることです。仮説が「中小企業の労務担当者は、煩雑な手続きをWeb上で完結できれば対価を払う」であれば、MVPに必要なのはその手続きを完結させる機能だけです。デザインの作り込みや周辺機能は、この検証には不要です。検証する価値を一点に絞り込むことが、MVPのコア価値1機能を見極める第一歩になります。

事業仮説からコア機能を逆算する考え方

コア機能は、機能の一覧を眺めて選ぶものではなく、検証したい仮説から逆算して導き出すものです。名刺管理のEightが「名刺をスマホで撮影してデータ化する」という一点に絞り、利用者180万人・名刺3億枚に成長したのは、ユーザーがもっとも困っていた価値を見抜き、それだけを最小プロダクトにしたからです。仮にEightが連絡先共有やメッセージ機能まで最初から作り込んでいたら、開発は長引き、何がユーザーに刺さったのかも曖昧になっていたでしょう。

逆算の手順はシンプルです。まず仮説を立て、その仮説が正しければユーザーが必ず行う「一連の最短行動」を描きます。その行動を成立させるのに不可欠な機能だけがコア機能であり、それ以外は「あれば便利だが、なくても検証できる」機能に分類されます。この線引きを曖昧にすると、機能が際限なく増えていきます。MVPの機能設計は、足し算ではなく引き算の発想で進めることが、検証を最速にする秘訣です。なお、コア機能を要件定義書やRFPにどう落とし込むかは、別記事『MVP開発のRFP/要件定義書/提案依頼書について』もあわせてご覧ください。

PoCやプロトタイプの検証対象との違い

機能スコープを正しく定義するには、MVPが検証する対象と、PoC・プロトタイプが検証する対象の違いを理解しておく必要があります。PoCが検証するのは「技術的に作れるか(技術精度)」であり、AIの認識精度や外部システムとの連携可否といった技術リスクを潰すための最小機能だけを備えます。プロトタイプが検証するのは「使いやすいか(UI/UX)」であり、画面遷移や操作感を確かめるための見た目重視の試作です。これらは必ずしも市場に投入されません。

これに対しMVPが検証するのは「市場で使われるか・売れるか(事業価値)」です。したがってMVPの機能は、技術や操作感の確認だけでは足りず、実際のユーザーが価値を受け取り、対価を払う(あるいは継続利用する)ところまでを成立させる必要があります。同じ「最小限」でも、PoCは技術の最小、プロトタイプは体験の最小、MVPは事業検証の最小、と検証対象が異なるのです。この違いを取り違えると、「動くけれど市場では誰も欲しがらない機能」を作り込んでしまいます。MVPの機能は、あくまで事業仮説の検証から逆算することを忘れないでください。

MoSCoW法でMust機能を選定する

MoSCoW法でMust機能を選定するイメージ

コア価値が定まったら、個々の機能を優先度で仕分けする実務に入ります。ここで威力を発揮するのがMoSCoW法です。MoSCoW法は、機能をMust(必須)・Should(重要)・Could(あれば良い)・Won’t(今回は作らない)の4段階に分類するフレームワークで、MVPの機能スコープを肥大化させないための定番の手法です。とくにMVPでは、Must以外を思い切って後回しにする胆力が求められます。

Must(必須)を絞り込む基準

Mustに分類すべきは、「これがなければ検証そのものが成立しない機能」だけです。判断基準は明快で、「その機能を削ったら、検証したい仮説を確かめられなくなるか?」と問い、答えがイエスならMust、ノーならMust以外です。たとえばマッチングサービスのMVPなら、登録・検索・申込みという一連の最短導線がMustであり、レビュー機能やお気に入り機能、高度なフィルタはMustではありません。Mustを最小限に保つほど、開発は速く、安く、検証も明快になります。

Mustの絞り込みでよくある失敗が、「念のため」という言葉で機能を追加してしまうことです。「念のため通知機能も」「念のため管理画面も充実させて」と積み上げるうちに、MVPは肥大化し、リリースは遅れ、費用は膨らみます。検証段階では、運用を回すための最小限の管理機能はあっても、作り込んだダッシュボードや高度な分析機能はまず不要です。WebアプリのMVPは小規模100〜300万円が相場ですが、Mustを正しく絞れば、この下限に近づけられます。Mustの定義は、予算とスピードを直接左右する意思決定です。

「Won’t(作らない機能)」を先に明言する

MoSCoW法でもっとも見落とされがちで、かつ最も重要なのがWon’t、つまり「今回は作らないと明確に決める機能」の定義です。何を作るかを決めるのと同じくらい、「何を作らないか」を関係者で合意しておくことが、スコープの暴走を防ぎます。Won’tを言語化せずに進めると、開発の途中で「やっぱりこの機能も」という追加要望が次々に出て、当初の予算と期間を簡単に超えてしまいます。

Won’tの明言は、開発会社との契約面でも効果を発揮します。「作らないもの」を要件定義書やRFPに明記しておけば、後から追加機能を求める際の費用ルールも事前に取り決められ、想定外の追加費用を防げます。MVPは「作らない決断の集合体」と言っても過言ではありません。あれもこれも入れたくなる気持ちを抑え、Won’tリストを堂々と掲げることが、市場投入までの時間を短縮し、検証を最速にします。Won’tの取り扱いや追加費用の取り決めは要件定義の核心でもあるため、関連記事もあわせてご覧ください。

市場投入に最低限必要な機能群

市場投入に最低限必要な機能群のイメージ

コア価値1機能だけでは、市場に投入して検証を回すことはできません。ユーザーがその価値にたどり着き、体験し、結果を計測できるようにする「最低限の周辺機能」が必要です。ただしこれらも、あくまでコア価値の検証を成立させるための最小限にとどめ、作り込みは厳禁です。ここでは、市場投入のために実務上欠かせない機能群を整理します。

ログイン・決済など基盤機能の費用感

多くのMVPで必要になるのが、ユーザー認証(ログイン)と、価値検証に必要な決済機能です。ただしこれらは「お金が動くか」を検証する場合に限って必須であり、無料で使ってもらって利用率を測るタイプの検証なら、決済は後回しにできます。費用感としては、ログイン機能は開発会社に依頼すると20〜40万円、決済機能は50〜100万円が目安です。一方、個人フリーランスに依頼すればログインは5〜10万円、決済は15〜30万円と、会社の2〜5分の1程度に抑えられる場合もあります。

こうした基盤機能は、ゼロから自前で作るより、既存の認証サービスや決済代行サービスを組み合わせるほうが、はるかに速く安く済みます。MVP段階では、独自の認証基盤や決済システムを作り込む必要はほとんどありません。SmartHRが半日のLPと約2万円の広告で需要検証を済ませた事例が示すように、検証の目的によっては、ログインも決済も不要なケースすらあります。基盤機能を入れるかどうかも、「その機能がないと検証が成立しないか」という基準で判断してください。

検証データを取る計測機能を必ず入れる

MVPで絶対に削ってはいけない機能が、検証データを取るための計測機能です。MVPの目的は仮説検証なので、ユーザーが何人登録し、何人がコア機能を使い、どこで離脱したかというデータが取れなければ、検証そのものが成立しません。アクセス解析ツールの埋め込み、主要なユーザー行動のイベント計測、コンバージョン(登録・購入・継続利用)の記録は、コア機能と同格のMustとして扱うべきです。

計測機能を軽視すると、「リリースしたものの、何が良くて何が悪かったのか分からない」という最悪の事態に陥ります。せっかく市場に投入しても、データが取れなければ次の意思決定ができず、MVPの意味が失われます。製造業のFAQシステムが利用率95%という明確な指標で本格展開を判断できたのも、利用率を計測できる仕組みがあったからです。検証指標を事前に決め、それを測る計測機能をMVPの必須機能に含める。この一手間が、MVPを「ただ作っただけ」で終わらせない決定的な分かれ目になります。

ノーコード・生成AIで機能を安く実装する

ノーコード・生成AIで機能を安く実装するイメージ

MVPの機能を絞り込んだら、次に考えるのは「その機能をいかに安く速く実装するか」です。近年は、ノーコード/ローコードツールや生成AIの活用により、MVPの実装コストを大きく圧縮できるようになりました。検証段階のプロダクトに、本番品質の作り込みは必ずしも必要ありません。機能を最小化したうえで、実装手段も軽量化することで、検証のスピードと費用対効果はさらに高まります。

実装コストを50〜75%削減する選択肢

ノーコードツールを使えば、MVPは50〜200万円程度で構築できる場合があります。さらに、生成AIを活用して7割を自作し、残り3割を専門家が支援する体制を組めば、従来200〜500万円かかっていたMVPを50〜150万円(50〜75%減)で実現できるケースもあります。生成AIツールの利用料は月20〜50ドル程度であり、これらを組み合わせることで、検証フェーズの費用を劇的に抑えられます。機能を絞り込んだうえで実装手段も軽量化すれば、限られた予算でも複数の仮説を検証できます。

ただし、ノーコードや生成AIにも限界があります。複雑なビジネスロジックや、既存システムとの密な連携、高い性能・セキュリティが求められる機能は、ノーコードの標準機能では実現しきれないことがあります。また、検証後に本開発へ移行する際、ノーコードで作ったものをそのまま本番に使えるとは限りません。だからこそ、「どの機能はノーコードで足り、どの機能は作り込みが必要か」を、コア価値の検証目的に照らして見極めることが大切です。実装手段の選択も、機能スコープ定義と一体で考えるべき論点です。

本開発への移行を見据えた機能設計

機能を最小化するからといって、本開発への接続を無視してよいわけではありません。検証がうまくいけば、MVPは本開発へ進みます。その際、MVPで得た知見やデータ構造が、本開発にスムーズに引き継がれる設計になっているかが重要です。MVPと本開発の体制が分断され、知識が断絶すると、本開発で一から作り直しになり、せっかくの検証コストが無駄になります。

そのため、機能設計の段階でも「この検証で何を学び、それを本開発にどう活かすか」という次フェーズの視点を持っておくことが望まれます。コア価値1機能に絞りながらも、検証で得たデータや要件を本開発に引き継げる形で残しておく。これは、MVPから本開発・本番移行までを一気通貫で見られる伴走型のパートナーであれば、自然に担保できる部分です。riplaはフルスクラッチ受託と伴走型開発の立場から、MVPの機能絞り込みから本開発への接続までを、知識を断絶させずに支援しています。機能のスコープ定義は、検証の最速化と本開発への橋渡しを両立させる設計判断です。

まとめ

MVP機能スコープ定義のまとめイメージ

MVPに盛り込むべき機能は、網羅性ではなく「検証したい事業仮説に直結するか」で選びます。検証したい仮説からコア価値1機能を逆算し、MoSCoW法でMust(なければ検証できない機能)とWon’t(今回は作らない機能)を先に確定し、市場投入に最低限必要な導線と計測機能だけを備える。これがMVPの機能スコープ定義の鉄則です。ノーコードや生成AIを活用すれば、従来200〜500万円のMVPを50〜150万円(50〜75%減)で実装できる場合もあり、機能の最小化と実装手段の軽量化を組み合わせれば、検証のスピードと費用対効果を大きく高められます。

機能設計の核心は、足し算ではなく引き算です。「何を作るか」と同じ熱量で「何を作らないか」を決め、検証を最速にすることが、MVP開発を成功に導きます。riplaはフルスクラッチ受託と伴走型開発を組み合わせ、機能の絞り込み・スコープ定義から本開発への接続までを、知識を断絶させずに支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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