ITシステムは導入して終わりではなく、安定して稼働し続けてこそ価値を生み出します。その安定稼働を支えているのが「維持運用」、つまり監視・定時処理・バックアップ・アラート対応といった日々のオペレーションです。しかし、これらの業務は属人化しやすく、担当者の経験と勘に頼った運用になりがちで、何から手をつければよいのか分からないという声を多くいただきます。
本記事では、ITシステム維持運用の具体的な進め方を、日常運用の定常フローに沿って解説します。あわせて、官公庁の維持管理業務委託仕様書で定められたRTO(目標復旧時間)1時間・4時間といったシビアな数値要件や、SLA/SLMによる品質管理、ZabbixやDatadog、RPAを使った運用自動化、さらにDevOpsやSREの考え方を取り入れた「攻めの運用」への進化まで、現場で本当に使える形で網羅します。この記事を読めば、自社の維持運用をどう設計し、どう改善すればよいかが具体的に見えてくるはずです。
ITシステム維持運用とは?運用と保守の違いから理解する

ITシステム維持運用とは、稼働中のシステムを安定した状態に保ち続けるための日常的な業務全般を指します。維持運用を正しく進めるには、まず「運用」と「保守」という言葉の違いを押さえることが出発点になります。両者は混同されがちですが、業務の性質も求められるスキルもまったく異なります。
「運用」は現状維持、「保守」は変更対応
運用とは、システムを今ある状態のまま正常に動かし続けるための定常業務です。サーバーやネットワークの稼働監視、夜間バッチなどの定時処理、データのバックアップ取得、アラート発生時の一次対応などが該当します。日々決められた手順を確実にこなし、異常の兆候をいち早く検知することが運用の本質です。
一方、保守とは、システムに手を加える変更を伴う業務を指します。障害が起きた際の原因調査と修正、OSやミドルウェアのアップデート適用、ハードウェアの交換、法改正に伴うプログラム改修などが保守の領域です。運用が「変えずに守る」業務であるのに対し、保守は「変えて直す」業務だと整理すると、両者の役割分担が明確になります。維持運用というキーワードでは、このうち運用、すなわち日常オペレーションが主役となります。
維持管理・運用管理との階層関係
維持運用の位置づけをさらに正確に理解するために、関連する用語との階層関係も整理しておきます。最上位には「維持管理」があり、これはIT資産としてのライフサイクル全体を見据え、ハードウェア更新計画や資産台帳、ライセンス管理を含めてライフサイクルコスト(LCC)を最適化する包括的なフレームです。
その下に「運用管理」があり、運用計画やインシデント管理、構成・設定管理といった管理プロセスのガバナンスを担います。そして最も現場に近い実働レイヤーが、本記事のテーマである日常の維持運用です。維持管理が「中長期の経営的視点」、運用管理が「プロセス設計とガバナンス」、維持運用が「日々の手を動かすオペレーション」と捉えると、3者の違いが立体的に見えてきます。経産省の「システム管理基準」やIPAの「共通フレーム2013」でも、運用プロセスと保守プロセスは明確に区別して規定されています。
ITシステム維持運用の進め方|日常運用の5ステップ

維持運用は、思いつきで対応するのではなく、決められたサイクルに沿って回すことで安定します。ここでは、日常運用を「監視→定時処理→バックアップ→アラート対応→記録・報告」という5つのステップで進める方法を解説します。この流れを定着させることが、属人化を防ぎ運用品質を一定に保つ鍵となります。
ステップ1・2:稼働監視と定時処理
維持運用の起点は、システムの稼働監視です。サーバーのCPU・メモリ・ディスク使用率、ネットワークの疎通、アプリケーションの応答時間、各種サービスのプロセス生死などを常時監視し、正常な状態を「ベースライン」として定義しておきます。何が正常かを定義できて初めて、異常を検知できるようになります。
次に、定時処理の実行です。日次・週次・月次のバッチ処理、データ集計、レポート生成、システム間連携などが代表例です。これらはスケジュールどおり確実に完了したかを必ず確認します。バッチが失敗したまま放置されると、翌日以降の業務データに連鎖的な影響が出るため、処理結果のチェックは運用の重要な日課です。実行ログを残し、異常終了時のリカバリ手順をあらかじめ手順書化しておくことが、安定運用の前提になります。
ステップ3:バックアップとリストア検証
3つ目のステップが、データのバックアップです。日次のフルバックアップや差分バックアップを取得し、世代管理を行います。重要なのは、バックアップを取得するだけで満足しないことです。実際に障害が起きた際にデータを復元できなければ、バックアップは存在しないのと同じです。
そのため、定期的にリストア(復元)テストを実施し、バックアップから実際にデータを戻せることを確認しておく必要があります。あわせて、どこまでのデータ損失を許容できるかを示すRPO(目標復旧時点)と、どれだけの時間で復旧するかを示すRTO(目標復旧時間)を業務影響度に応じて設定します。このRPO・RTOの数値こそが、後述するSLA設計の土台となります。
ステップ4・5:アラート対応と記録・報告
4つ目はアラート対応です。監視で異常を検知したら、あらかじめ定めたエスカレーションフローに沿って一次対応を行います。重要なのは、アラートの重大度を切り分け、すべてに同じ温度感で対応しないことです。緊急対応が必要な重度障害と、様子見でよい軽微な警告を区別し、対応の優先順位を明確にしておくと、現場の疲弊を防げます。
最後のステップが、記録と報告です。発生した事象、対応内容、所要時間、原因、再発防止策を必ず記録します。これは官公庁の維持管理業務委託仕様書でも、全介入活動について「開始・終了時間、所要時間、理由、再発防止策」の記録提出が義務づけられているほど重要なプロセスです。記録を残すことで対応がブラックボックス化するのを防ぎ、定期報告の材料にもなります。なお、同仕様書では定期報告を年4回(3月・6月・9月・12月末)と定める例があり、報告頻度の設計においても参考になります。
運用自動化による省力化の進め方

日常運用を人手だけで回し続けると、担当者への負荷集中と属人化が避けられません。24時間365日の監視体制を少人数で支えようとすれば、いずれ限界が訪れます。そこで鍵となるのが、運用の標準化と自動化です。ここでは、省力化を実現するための具体的な進め方を解説します。
監視ツールとRPAの活用
自動化の第一歩は、監視ツールの導入です。ZabbixやDatadogといった監視プラットフォームを使えば、サーバーやネットワーク、アプリケーションの状態を一元的に可視化し、閾値を超えた際に自動でアラートを通知できます。これにより、担当者が画面に張り付いて目視確認する必要がなくなり、異常時のみ人が動く運用へとシフトできます。
さらに、定型的な作業はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や運用自動化プラットフォームに任せます。たとえば、定時のログ収集、ディスク容量逼迫時の不要ファイル削除、サービス再起動といった一次対応を自動化すれば、夜間や休日の人的対応を大幅に減らせます。まずは手順が明確で繰り返し発生する作業から自動化対象に選ぶのが、失敗しないコツです。
手順の標準化とROIの考え方
自動化の前提として欠かせないのが、運用手順の標準化です。担当者ごとにやり方がばらばらでは、自動化どころか引き継ぎすら困難になります。作業手順書(ランブック)を整備し、誰が対応しても同じ品質になる状態をつくってから自動化を進めると、効果が安定します。標準化はそれ自体が属人化解消の有効な打ち手でもあります。
自動化への投資判断には、ROI(投資対効果)の視点を持つことが大切です。たとえば、月間で40時間かかっている定型作業を自動化し、ツール導入と構築に初期費用と月額費用がかかるとしても、削減できる人件費と機会損失の回避額を積み上げれば、多くの場合1年以内に投資を回収できます。ツール導入費と削減人件費を数字で比較したシミュレーションを用意しておくと、経営層への説得材料にもなります。
SLA/SLMで運用品質を定義・管理する

維持運用を「なんとなく回す」状態から脱却し、品質を可視化・管理するには、SLA(サービス品質保証)とSLM(サービスレベル管理)の考え方が欠かせません。特に運用を外部に委託する場合、SLAを明文化しておくことが、トラブルやブラックボックス化を防ぐ最大の防衛線になります。
官公庁仕様に学ぶ具体的な数値の物差し
SLAを設定する際、多くの担当者が悩むのが「どの数値を基準にすればよいか」という点です。ここで参考になるのが、官公庁の維持管理業務委託仕様書に定められたシビアな数値要件です。ある自治体案件では、障害発生時に再委託先が「1時間以内に現地到着・対処開始」し、さらに「対応開始から1時間以内に内容と予想作業時間を報告」することが求められています。
加えて、「初期報告から原則4時間以内に完全復旧」という規定例もあります。これらの数値は、自社のSLAを設計する際の具体的な物差しとして活用できます。主なSLA項目としては、以下のような指標が挙げられます。
・システム稼働率(例:99.9%以上)
・障害一次対応の着手時間(例:受付から1時間以内)
・障害復旧時間(RTO)(例:4時間以内)
・定期報告の頻度(例:年4回または毎月)
業務の重要度に応じてこれらの数値を設定し、合意することで、運用品質が客観的に測れるようになります。
SLMによる継続的な見直しサイクル
SLAは一度決めて終わりではありません。設定した数値が実態に合っているか、過剰な品質要求になっていないかを定期的に見直すのがSLM(サービスレベル管理)です。具体的には、月次や四半期ごとに実績値を測定し、SLAの達成状況をレビューします。達成できていない項目があれば原因を分析し、運用体制やツールの改善につなげます。
また、SLA未達時のペナルティ条項をあらかじめ取り決めておくことも、委託先の品質を担保するうえで有効です。ただし、ペナルティを厳しくしすぎると委託先が萎縮し、かえって柔軟な対応が得られなくなることもあります。罰則よりも、定期的な見直しの場を設けて改善を促す関係性を築くほうが、長期的には安定した運用につながります。このPDCAのサイクルを回し続けることが、SLMの本質です。
DevOps・SREによる「攻めの運用」への進化

従来の維持運用は、トラブルが起きたら対応する「守りの運用」が中心でした。しかし近年は、運用そのものを継続的に改善し、システムの価値向上に貢献する「攻めの運用」への進化が進んでいます。その中心にあるのが、DevOpsとSREという考え方です。
DevOpsとSREの基本的な考え方
DevOpsとは、開発(Development)と運用(Operations)を分断せず一体化し、システムの改善を継続的に回していく文化と手法です。従来は開発チームと運用チームが対立しがちでしたが、両者が協力して頻繁にリリースと改善を行うことで、安定性と俊敏性を両立させます。維持運用の現場にとっては、運用で得た知見を開発側にフィードバックし、システムをより運用しやすく改善していく流れがポイントになります。
SRE(サイトリライアビリティエンジニアリング)は、運用をソフトウェアエンジニアリングの手法で高度化するアプローチです。手作業を減らす自動化(トイルの削減)や、許容できる障害の範囲を数値で定めるエラーバジェットといった考え方を用いて、信頼性を工学的に管理します。これらの考え方を取り入れることで、維持運用は単なるコストセンターから、事業価値を生む活動へと位置づけが変わっていきます。
予測保守とデータ活用による先回り運用
攻めの運用を象徴するのが、予測保守の考え方です。従来の予防保守が「定期的に手を入れて故障を未然に防ぐ」のに対し、予測保守は監視で蓄積したデータを分析し、障害が起きる前に兆候を捉えて先回りで対処します。ISO/IEC 14764などの規格上は予防保守に内包される概念ですが、AIやデータアナリティクスの発展により、実務では独立した技術ドメインとして確立されつつあります。
たとえば、ディスク使用量の増加傾向から枯渇時期を予測して事前に増設したり、過去のエラーログのパターンから障害の予兆を検知したりといった運用が可能になります。日常運用で記録してきた監視データやログを資産として活用することで、トラブルが起きてから動く運用から、トラブルを未然に防ぐ運用へと進化できます。これが、維持運用が目指すべき最終的な姿だといえます。
まとめ|維持運用は仕組み化で安定する

ITシステムの維持運用は、監視・定時処理・バックアップ・アラート対応・記録報告という5つのステップを定常サイクルとして回すことが基本です。これらを手順書で標準化し、ZabbixやDatadog、RPAといったツールで自動化することで、属人化を防ぎながら少ない人手でも安定した運用を実現できます。さらに、SLA/SLMによって品質を数値で管理し、官公庁仕様書のRTO1時間・4時間や年4回の定期報告といった具体的な物差しを取り入れれば、運用品質を客観的に担保できます。
そして、DevOpsやSRE、予測保守の考え方を取り入れることで、維持運用は「守り」から「攻め」へと進化し、事業価値に貢献する活動へと変わります。自社だけで体制を整えるのが難しい場合は、運用に強い専門パートナーへの委託も有力な選択肢です。費用や発注の進め方、会社選びについては、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
