ITシステム保守監視の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

ITシステムの安定稼働を支える「保守監視」は、サービス停止や情報漏洩といった重大なトラブルを未然に防ぐための生命線です。しかし、24時間365日という終わりのない監視業務は、「ひとり情シス」や少人数のIT部門にとって大きな負担となり、夜間・休日のアラート対応による疲弊や、肝心な重大障害の見落としといった問題を引き起こしがちです。何から手をつければよいのか分からず、属人化したまま運用を続けているという企業も少なくありません。

本記事では、ITシステム保守監視を「監視体制をどう作り、どう回すか」という視点から、現状棚卸しから監視設計、有人監視と自動監視の組み合わせ、MSP委託か内製かの判断、そして移管時の並走期間まで、進め方の全体像を工程順に解説します。自動化率80%という実例や「5分間継続したら通知」といった現場の閾値チューニングのコツも交えながら、読み終えたあとには自社の保守監視を着実に前進させるための具体的な道筋が描けるよう構成しています。

ITシステム保守監視の全体像と役割

ITシステム保守監視の全体像

ITシステム保守監視とは、サーバーやネットワーク、アプリケーションが正常に稼働しているかを継続的に見張り、異常の予兆や障害を検知して対応する一連の活動を指します。進め方を考える前に、まずは「保守」と「監視」がそれぞれ何を担い、どのような体制で成り立っているのかを押さえておくことが、後工程の設計を誤らないための土台になります。

「保守」と「監視」が担う範囲の違い

保守監視という言葉はひとまとめに語られがちですが、両者の役割は明確に異なります。「監視」は、システムの状態をリアルタイムで観測し、CPU使用率やメモリ、ディスク容量、レスポンスタイムなどの指標が正常範囲を超えていないかを見張る「気づく」役割を担います。一方の「保守」は、監視によって検知された異常への対応や、定期的なパッチ適用、バックアップ、ハードウェアの交換といった「手を打つ」役割を担います。

この区別が曖昧なまま体制を組むと、「アラートは鳴っているが誰も対応しない」「対応はするが何を監視すべきか決まっていない」といった機能不全が起こります。進め方を設計する際は、監視で「何を見るか」と保守で「どう対応するか」をセットで定義することが欠かせません。とりわけ近年は、監視で得たログやメトリクスを保守の改善に活かす循環をどう作るかが、運用品質を左右する重要なポイントになっています。

有人監視と自動監視の組み合わせ方

24時間365日の監視を実現する方法は、大きく「有人監視」と「自動監視」の2つに分かれます。有人監視は、専任のオペレーターが監視センターでモニターを見続け、異常を検知したら手動で一次切り分けやエスカレーションを行う方式です。確実性が高い反面、人件費がかさみ、夜間や休日のシフト勤務による担当者の負担が課題となります。

自動監視は、監視ツールがあらかじめ設定したしきい値に基づいて異常を検知し、通知やチケット起票、場合によっては一次対応までを自動で行う方式です。実際の運用現場では、アイレットの「cloudpack」がアラート全体の約80%を社内システムで自動処理し、人間が対応するのは残りの20%にとどめているという事例があります。中小企業でもネットワーク監視ツールの導入と異常検知の自動化により、トラブル対応工数を最大で約8割削減した例が報告されています。現実的な進め方としては、定型的で頻度の高い事象は自動監視に任せ、判断を要する複雑な事象に有人監視のリソースを集中させる「ハイブリッド型」が主流となっています。

ITシステム保守監視の進め方5ステップ

ITシステム保守監視の進め方ステップ

保守監視の体制づくりは、思いつきでツールを導入するのではなく、現状把握から始めて段階的に積み上げることが成功の鍵です。ここでは、現状棚卸しから監視設計、ツール選定、運用ルール整備、そして継続的な改善までの5つのステップに分けて、具体的な進め方を解説します。

ステップ1:現状棚卸しと監視対象の選定

最初に行うべきは、自社が保有するITシステムの全体像を可視化する現状棚卸しです。どのサーバーがどの業務を支えているのか、ネットワーク構成はどうなっているのか、クラウドとオンプレミスがどう混在しているのかを洗い出します。この棚卸しが甘いと、後の監視設計で「重要なシステムが監視対象から漏れていた」という致命的な抜け漏れが生じます。

続いて、洗い出した資産に対して監視の優先順位を付けます。ここで重要なのは、「すべてを同じレベルで監視しよう」と考えないことです。売上に直結する基幹システムやサービス提供の根幹を担うサーバーは厳重に監視し、停止しても業務影響が小さいシステムは監視レベルを下げる、というメリハリを付けます。監視対象を過剰に広げると、後述する「アラート疲労」を招き、かえって重大障害を見落とす原因になるため、ビジネス影響度を基準とした取捨選択が肝心です。

ステップ2:監視設計と閾値の決定

監視対象が定まったら、次は「何を、どの基準で異常と判断するか」を設計します。具体的には、CPU使用率・メモリ使用率・ディスク空き容量・ネットワーク疎通・アプリケーションの応答時間・プロセスの死活など、監視項目ごとにしきい値を決めていきます。この閾値設計こそが、保守監視の品質を大きく左右する最重要工程です。

現場でよくある失敗は、監視ツールのデフォルト設定である「CPU使用率80%で通知」をそのまま使ってしまうことです。一瞬のスパイクでCPUが80%を超えただけで通知が飛ぶと、本当は問題のない事象でアラートが鳴り続けます。これを避けるための実践的なコツが、「継続時間」を条件に加えることです。たとえば「一瞬のスパイクは無視し、80%超が5分間継続したら通知する」というルールにするだけで、無意味なアラートを大幅に減らせます。閾値は一度決めて終わりではなく、運用しながら現実のシステム挙動に合わせて調整していく前提で設計することが大切です。

ステップ3:監視ツールの選定と導入

監視設計が固まったら、それを実現する監視ツールを選定します。ツール選びでありがちな失敗が、「多機能な統合ツールを選んでおけば安心」という考えで、自社の規模に合わないオーバースペックなツールを導入してしまうことです。高機能なツールは運用に専門知識を要し、使いこなせないまま費用だけがかさむケースが珍しくありません。

監視ツールは「スーパーカーと乗用車」に例えると分かりやすくなります。Datadogのような高機能ツールは、スーパーカーのように高速で高セキュリティですが、扱うには知識が必要で価格も高めです。一方、Site24x7のようなツールは、乗用車のように設定が簡単で安価ですが、セキュリティ面はやや控えめになります。近年はSaaS型の監視ツールでスモールスタートし、必要に応じて拡張していくアプローチが主流です。サーバー台数が少なくビジネス影響度が限定的な段階ではOSSのZabbixなどで十分なこともありますが、台数や運用工数が増えてくると有料SaaSへ移行する損益分岐点が訪れます。自社のフェーズを見極めてツールを選ぶことが、コストと品質のバランスを取る要になります。

ステップ4:運用ルールとエスカレーションの整備

ツールを導入しても、アラートが鳴ったときに「誰が、いつ、何をするか」が決まっていなければ監視は機能しません。そこで、検知から対応までの運用ルールを整備します。中心となるのが、サポート体制の階層化です。一般的に、L1(一次対応)はアラート検知とプレイブックに沿ったトリアージ、L2(二次対応)は詳細なログ分析や一時復旧、L3(三次対応)は根本原因の解決やアーキテクチャ変更を担います。

この階層化には「80/20ルール」という考え方が役立ちます。L1が問題全体の約80%を処理し、残りのうち約80%をL2が引き取り、最終的に20%以下の難度の高い問題のみをL3の専門家が対応する、という分担です。あわせて、各役割の責任範囲を明確にするRACIマトリクス(実行責任・説明責任・相談先・報告先)を整備しておくと、いざ障害が起きたときに「誰が判断するのか」で混乱せずに済みます。特に複数のベンダーやクラウドが絡む環境では、責任分界点を文書で明文化しておくことが後のトラブル防止に直結します。

ステップ5:レビューと継続的な改善

保守監視は導入して終わりではなく、運用しながら磨き続けるものです。月次や四半期ごとに、検知したアラートの件数、誤検知の割合、平均修復時間(MTTR)、稼働率といった指標をレビューし、閾値や運用ルールを見直します。SLA(サービス品質保証)として「インシデント応答30分以内」「稼働率99.9%以上」などの客観的なKPIを設定しておくと、改善の効果を数値で確認できます。

継続的な改善の効果は決して小さくありません。あるサービスでは、再発防止フローの徹底と二次運用チームによる恒久的な改善活動(半期で30件以上)を積み重ねた結果、目標としていた正常対応率99.9%を上回る99.99%を達成し、アラート対応時間を累計10,000時間以上削減したという実績があります。PDCAを回し続ける体制こそが、保守監視を「鳴り止まないアラートに振り回される状態」から「安定して回る仕組み」へと変えていきます。

内製か委託(MSP)かの判断ポイント

保守監視の内製と委託の判断

保守監視の進め方を考えるうえで避けて通れないのが、「自社で監視するのか、それともMSP(マネージドサービスプロバイダー)に委託するのか」という判断です。経済産業省は2030年にIT人材が最大で約79万人不足すると試算しており、既存システムの運用保守に人員を割き続けることには限界があります。ここでは、委託の利点と注意点、そして委託後の移管をどう設計するかを解説します。

委託のメリットとブラックボックス化のリスク

保守監視をMSPに委託する最大の利点は、夜間・休日対応による担当者の疲弊を防ぎ、24時間365日の安定稼働を専門事業者に任せられることです。社内のITリソースを、運用維持という「守りのIT」から、DX推進や新規企画といった「攻めのIT」へ振り向けられるようになります。実際にトヨタ自動車は、アジャイル開発のPoC増加で膨らんだAWS環境の運用監視を外部委託することで、開発メンバーが本来の業務に集中できる体制を整えました。

一方で注意したいのが、外部への丸投げによる運用の「ブラックボックス化」です。委託先に任せきりにすると、自社にノウハウが蓄積されず、特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)が進みます。情報漏洩リスクへの配慮も欠かせません。こうしたリスクを抑えるには、委託前に運用ドキュメントを整備し、委託後も定期レポートやレビュー会を通じて運用状況を把握し続けることが重要です。委託は「責任ごと手放すこと」ではなく「自社が手綱を握ったまま手間を減らすこと」だと捉える姿勢が、後悔しない判断につながります。

移管時の並走期間(ハイパーケア)の設計

委託を決めたら、現行の運用を委託先へ引き継ぐ移管プロセスを丁寧に設計します。ここでよくある失敗が、契約開始と同時に運用を全面的に委託先へ切り替えてしまい、引き継ぎ漏れによる障害対応の混乱を招くことです。これを防ぐために設けるのが、自社と委託先が並んで運用を行う「並走期間(ハイパーケア)」です。

一般的には3〜6ヶ月の並走期間を設け、その間に委託先がシステムの癖や過去のトラブル履歴を把握し、運用ドキュメントを実態に合わせて更新していきます。並走期間を十分に取ることで、移管後に「想定外の事象に委託先が対応できない」という事態を避けられます。また、将来的に運用を自社へ引き戻す内製化(リパトリエーション)の可能性を見据えるなら、委託の段階から「いつでもナレッジを逆移管できる状態」を維持しておくことが望ましいです。具体的には、運用手順書やインシデント対応記録を自社でも参照できる形で蓄積し、ベンダーだけが情報を握る状態を作らないことが、長期的な選択肢の自由度を保つ鍵になります。

保守監視でよくある失敗と回避策

保守監視のよくある失敗と回避策

保守監視の進め方を一通り押さえても、実際の運用ではいくつかの典型的な落とし穴が待ち受けています。あらかじめ失敗パターンを知っておくことで、同じ轍を踏まずに済みます。ここでは、現場で頻発する「アラート疲労」と「AI・自動化への過信」という2つの代表的な失敗を取り上げ、その回避策を解説します。

「アラート疲労」による重大障害の見落とし

監視対象を増やしすぎたり、しきい値を不適切に設定したりすると、重要度の低いアラートが大量に発生します。すると、担当者は次第にアラートに慣れてしまい、「どうせ大したことはない」と通知を軽視するようになります。この状態が「アラート疲労」であり、いわゆる「オオカミ少年化」です。本当に重大な障害のアラートが、ノイズに埋もれて見落とされてしまうという最悪の事態を招きます。

回避策の核心は、アラートの「量」ではなく「質」を高めることです。前述した「5分間継続したら通知」のような継続時間条件の追加に加え、アラートに重要度レベル(緊急・警告・情報など)を定義し、影響範囲に応じて通知先や通知方法を変えます。緊急度の高いものはオンコール担当者へ即座に電話で、情報レベルのものはチケットに記録するだけ、といった具合に強弱を付けるのです。すべてのアラートを等しく扱わないことが、限られた人員で重大障害を確実に捕捉するための現実的な答えになります。

AI・自動化への過信と誤検知への備え

近年は、機械学習による異常検知や予測を行うAIOps、生成AIによる原因分析やヘルプデスク応答など、保守監視の自動化が急速に進んでいます。自動化率80%という実例が示すとおり、その効果は確かに大きいものです。しかし、AIや自動化を万能と過信するのは危険です。生成AIには誤検知や過剰検知といったハルシネーションのリスクがあり、AIに運用ルールを正しく学習させるには、地道なデータ整備という泥臭い手間がかかります。

特に注意すべきは、自動化システムが未知の障害を「正常」と誤認し、重大障害を見落とすケースです。このとき、責任がツールベンダーにあるのか、運用を担うMSPにあるのか、それとも自社にあるのかは、契約内容によって異なります。自動化を導入する際は、AIの判断を鵜呑みにせず、人間が最終確認を行うチェックポイントを残すこと、そして誤検知で障害が発生した場合の責任の所在を契約段階で明確にしておくことが欠かせません。自動化は人間の負担を減らす強力な手段ですが、最後の砦は依然として人間の判断であるという前提を忘れないことが、安全な運用につながります。

まとめ

ITシステム保守監視の進め方まとめ

ITシステム保守監視の進め方は、現状棚卸しと監視対象の選定から始まり、閾値を含む監視設計、自社規模に合ったツール選定、L1からL3までの階層化を含む運用ルールの整備、そしてレビューによる継続的な改善という5つのステップで組み立てます。有人監視と自動監視を組み合わせ、「5分間継続したら通知」といった現場の閾値チューニングや「80/20ルール」による役割分担を取り入れることで、限られた人員でも安定した監視体制を実現できます。

内製か委託かの判断では、ブラックボックス化を避けつつ、3〜6ヶ月の並走期間を設けて安全に移管することがポイントです。また、アラート疲労による見落としやAI・自動化への過信といった失敗パターンをあらかじめ知っておくことで、よくある落とし穴を回避できます。本記事で解説した進め方を土台に、自社の保守監視を一歩ずつ前進させていただければ幸いです。費用相場やおすすめのベンダー、発注方法など、さらに詳しい情報については、以下の関連記事もあわせてご覧ください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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