CLM(契約ライフサイクルマネジメント)の導入を検討するとき、多くの法務・経営企画の担当者がまず知りたいのは「同じように契約書の作成・審査・締結・更新管理に追われていた企業が、実際にどうやって契約業務をデジタル化し、どんな成果を出したのか」という具体的な事例ではないでしょうか。契約業務は、Wordで雛形を編集し、法務がメールで審査し、紙で押印し、キャビネットに保管し、Excelで更新期限を管理する、という属人的な手作業の積み重ねで回っている現場が大半です。だからこそ、自社に近い導入事例・活用事例こそが、投資判断の精度を高めてくれます。
本記事は、CLM・契約ライフサイクルマネジメントの導入事例・開発事例・活用事例・成功事例を、発注企業の視点から掘り下げる「事例特化」の解説です。電子契約への移行で月20件の契約を電子化し年96万円のコストを削減した試算、稟議・承認のスマホ化でリードタイムを短縮した事例、紙契約からの移行と一元管理を実現した事例、申請処理業務を約4割削減した自治体・団体の事例まで、一次データとあわせて具体的に解説します。読み終えるころには、自社が「どこから着手し、どんな効果を狙うべきか」のイメージが描けるはずです。なお、CLMの全体像をまだ把握していない方は、まずCLM・契約ライフサイクルマネジメントの完全ガイドから読むことをおすすめします。
▼全体ガイドの記事
・CLM・契約ライフサイクルマネジメントの完全ガイド
電子契約への移行でコストを削減した事例

CLMの導入で、もっとも分かりやすい成果が出るのが「契約締結の電子化によるコスト削減」です。契約書を紙で交わすと、印紙税、郵送費、印刷費、保管スペースのコストが恒常的にかかります。これらを電子契約に置き換えると、削減効果は数字として明確に見えてきます。経営層に投資を説明するときも、定量化された削減額があれば稟議が通しやすくなります。
月20件の電子化で年96万円を削減した試算
電子契約への移行効果を、もっとも具体的に示すのがROIシミュレーションです。一次データの試算では、月20件の契約を電子化した場合、印紙税が年48万円から0円に、郵送・資材費が年12万円から0円に、契約事務の人件費が年48万円から12万円に圧縮され、合計で年間約96万円の削減につながるとされています。これは契約書を「紙で交わす前提」を「電子で交わす前提」に変えるだけで生まれる構造的な削減です。
削減のインパクトは契約金額が大きいほど顕著になります。たとえば1,000万円の契約では印紙税が1件1万円、7,000万円の契約では1件6万円が不要になり、5,000万円超〜1億円以下の契約では1件3万円が削減されます。建設業のように高額契約を多数交わす業種では、印紙税の非課税化だけで年間数百万円規模の効果が出ることも珍しくありません。事例を読むときは、自社の契約件数と平均金額に当てはめて削減額を概算することが、投資判断の出発点になります。
件数別の実質コストで損益分岐を見極めた事例
削減効果を最大化するには、自社の月間契約件数に合った料金プランを選ぶことが欠かせません。一次データでは、月5件・50件・200件の実質コストが製品ごとに大きく異なることが示されています。たとえばGMOサインは10,230円・15,180円・31,680円、クラウドサイン(基本11,000円+送信220円)は12,100円・22,000円・55,000円、マネーフォワードクラウド契約は送信・保管が無料のため一律約7,128円という具合です。件数が多いほど、送信が無料か低額のプランが有利になります。
成功している企業は、この件数別コストを自社のボリュームに当てはめ、損益分岐点を計算したうえでプランを選んでいます。月数件しか契約しないのに固定費の高いプランを選ぶと割高になり、逆に月200件以上を送るのに従量課金プランを選ぶと送信料が膨らみます。CLMの効果は「導入したかどうか」ではなく「自社の件数に合ったコスト構造を選べたかどうか」で決まります。事例を読む際は、削減額だけでなく、どの料金構造を選んだかにも注目してください。
補助金を活用して初期投資を抑えた事例
コスト削減効果を語るうえで、初期投資そのものを抑える工夫も見逃せません。電子契約・CLMの導入では、IT導入補助金などの公的支援を活用して初期負担を軽減した事例が増えています。補助金の枠によってはソフトウェア費用の一部が補助され、インボイス枠やセキュリティ対策推進枠では補助率や上限が異なります。条件によっては、タブレットなどのハードウェアも対象になることがあります。
こうした事例に共通するのは、補助金の申請スケジュールを導入計画に組み込み、計画的に準備を進めている点です。「補助金対象」という表示を見て安心するだけでなく、自社が使える枠と補助率を事前に確認し、申請から交付までのロードマップを描いています。電子契約システムの導入率が78.3%(2025年調査)に達し、資料請求数が前年同期比236%増という追い風のなか、補助金を組み合わせて投資回収を早めた企業は、コスト削減のメリットをより大きく享受しています。削減額の試算と初期投資の圧縮策をセットで考えることが、賢い導入の共通項です。
稟議・承認の電子化でリードタイムを短縮した事例

CLMの価値は、締結コストの削減だけではありません。契約に至るまでの社内承認(稟議・ワークフロー)を電子化することで、契約締結までのリードタイムが劇的に短縮されます。紙の稟議書を回覧し、押印待ちで案件が滞留する状態から、システム上で承認ルートを自動で回す状態へ移行すると、現場のスピードが大きく変わります。
スマホ承認で滞留をなくした事例
承認電子化の効果がもっとも大きく出るのが、決裁者の不在による滞留の解消です。紙の稟議は、決裁者が出張中だと机の上で止まり、契約締結が数日から数週間遅れることがあります。CLMでワークフローを電子化すると、決裁者はスマートフォンからその場で承認でき、移動中でも案件が前に進みます。岡山県環境保全事業団の事例では、遠隔申請の仕組みにより1件あたり5分以上の処理時間を短縮し、年間で推計150万円分の人件費削減につながったとされています。
承認の電子化は、スピードだけでなくガバナンスの面でも効果を発揮します。誰がいつ承認したかの証跡が自動で残るため、後から「この契約は誰の決裁で締結したのか」を追跡できます。さらに、未承認の契約書を誤って送信してしまう事故も、承認が完了するまで送信できない制御を組むことで構造的に防げます。リードタイム短縮とコンプライアンス強化を同時に実現できる点が、稟議電子化の大きな魅力です。
こうした効果が大きく出るのは、複雑な条件分岐を抱える承認ルートをデジタル化したケースです。契約金額や取引種別によって決裁者が変わる承認フローを紙で回すと、ルートを間違えたり、決裁者を飛ばしたりするミスが起きやすくなります。電子化すれば、条件に応じて正しいルートが自動で組まれ、ミスの余地がなくなります。事例では、こうした条件分岐の自動化により、承認の正確性とスピードが同時に向上したと報告されています。承認の電子化は、単に紙をなくすだけでなく、ルートの正確性まで担保する点に価値があります。
申請処理業務を約4割削減した団体の事例
承認・申請の電子化が、間接部門の工数そのものを圧縮した事例もあります。KEC関西電子工業振興センターの事例では、会計への転記作業やダブルチェックが減ったことで、申請処理業務が約4割削減されたとされています。紙の申請では、申請内容を会計システムへ手で転記し、それを別の担当者が確認する、という二重の工数がかかっていました。CLMやワークフローシステムでデータが一気通貫で流れるようになると、この転記とチェックの工数が丸ごと消えます。
この事例が示すのは、契約・申請のデジタル化が「ペーパーレス」という表面的な効果にとどまらない、ということです。データが手入力されずに流れることで、転記ミスがなくなり、確認工数が減り、結果として人が本来の業務に集中できるようになります。申請処理4割削減という数字は、自社の間接部門の業務時間に当てはめれば、年間でかなりの人件費削減に相当します。CLM導入の効果を見積もる際は、締結コストだけでなく、こうした申請・承認プロセスの工数削減も必ず含めて計算してください。
これらの公的団体・自治体の事例が参考になるのは、契約・申請の業務が定型的で、効果が定量化しやすいからです。民間企業でも、契約に至る稟議や、購買・発注に伴う申請は同様の構造を持っています。自社の申請業務のうち、転記やダブルチェックに時間を取られている工程を洗い出し、そこをデジタル化の最初の対象にすると、目に見える成果を早く出せます。事例の数字をそのまま自社に当てはめるのではなく、業務構造の共通点に着目して効果を試算することが、説得力のある投資計画につながります。
紙契約からの移行と一元管理を実現した事例

CLMの本質的な価値は、締結後の契約書を一元管理し、更新期限や解約期限を確実に把握できるようにすることにあります。多くの企業が抱える悩みは、過去に交わした膨大な紙契約がキャビネットに眠っていて、どこに何があるか分からない、自動更新の期限を見落としてしまう、という点です。CLM導入で成功している企業は、この「過去契約の移行と一元管理」に丁寧に向き合っています。
紙契約のスキャンと優先順位付けで移行した事例
過去の紙契約をすべて一度にスキャンしてシステムに取り込むのは、現実的ではありません。成功事例に共通するのは、移行に優先順位を付けている点です。まず自動更新条項のある契約や、解約期限が近い契約、金額の大きい重要契約を優先してデータ化し、メタデータ(契約日・当事者・契約金額・更新期限)を付与して登録します。一方、すでに失効した契約や重要度の低い契約は、後回しにするか、必要になった時点でスキャンする方針を取ります。
この優先順位付けが重要なのは、移行作業が膨大になりやすく、完璧を目指すと頓挫するからです。一次データでも、電子契約導入後の課題として「導入前の紙データが未処理のまま残っている」が33.6%を占めると報告されています(ContractS 2023年10月調査)。つまり、多くの企業が紙データの移行でつまずいているのです。重要契約から段階的に移行し、まず効果の大きいところを一元管理下に置く。この現実的な進め方が、移行を完遂させる鍵になります。
移行を効率化した事例では、AI-OCRを活用して紙契約から当事者名や契約日を自動で読み取り、登録の手間を大きく削減しています。手作業でメタデータを入力すると膨大な工数がかかりますが、AI-OCRなら一次入力を自動化でき、人は確認に専念できます。ただし、AIの読み取りには誤認識のリスクがあるため、重要契約は人が必ず確認する運用を併用しています。技術を使って移行コストを下げつつ、品質はチェックで担保する。このバランスが、移行を現実的なコストで完遂させた事例の共通点です。
更新期限アラートで失効・自動更新を防いだ事例
一元管理の最大の実利が、更新期限・解約期限のアラート機能です。契約をメタデータ付きで登録しておくと、更新の3か月前や解約通知の期限前にシステムが自動で通知します。これにより、「気づいたら自動更新されていて不要なサービスの契約が続いていた」「解約したかったのに通知期限を過ぎてしまった」といった機会損失を防げます。紙とExcelの管理では、担当者の異動や引き継ぎ漏れで期限管理が破綻しがちですが、CLMなら属人性を排除できます。
一元管理が機能すると、必要なときに必要な契約をすぐ取り出せる検索性も大きく向上します。一次データでは、電子契約導入後の課題として「契約書の情報を一元管理できない」が39.5%と最多で挙げられています。逆に言えば、ここを解決できれば多くの企業が抱える悩みの中心を解消できます。riplaはフルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、自社の契約類型や更新ルールに合わせたメタデータ設計とアラート設計を重視しています。一元管理は、CLM導入の効果を恒常的に生み続ける土台だと言えます。
段階導入と社内定着で効果を最大化した事例

CLMの効果を最大化した事例に共通するのは、いきなり全社・全契約類型に一斉導入するのではなく、段階的に広げ、現場に定着させている点です。一次データが示す通り、導入企業の約8割が何らかの課題を抱えており、その多くは「導入したが現場で使われない」という定着の問題です。成功事例は、この定着というハードルを正面から越えています。
一契約類型からスモールスタートした事例
定着に成功した企業の多くは、まず一つの契約類型からスモールスタートしています。たとえば、件数が多く定型的な秘密保持契約や業務委託契約を最初の対象に選び、ここで電子締結とワークフローの運用を回しながらノウハウを蓄積します。最初から全契約類型を対象にすると、例外処理が多すぎて運用が回らず、現場が混乱して元の紙運用に戻ってしまいます。効果が見えやすく例外の少ない契約から始めることが、最初の成功体験を作る近道です。
スモールスタートの利点は、小さく始めることで失敗のダメージを抑えつつ、現場の「これは楽になる」という実感を先に作れる点にあります。最初の契約類型で締結リードタイムが短縮され、更新期限の見落としがなくなる、という具体的な効果を現場が体感すると、次の契約類型への展開がスムーズになります。費用削減で重視される「印紙税の不要化」(小規模企業で34.9%)のような分かりやすい効果が出る領域から始めれば、経営層への横展開の説得もしやすくなります。
既存システムと連携して二重入力をなくした事例
定着のもう一つの鍵が、既存システムとの連携による二重入力の解消です。CLMを単独で導入すると、契約の当事者情報をCRM/SFAとCLMの両方に手入力する手間が生じ、現場の負担が増えて使われなくなります。成功事例では、SFAの取引先マスタや会計システムとCLMをAPIで連携し、契約起案時に当事者情報が自動で引き込まれるようにしています。これにより、現場は入力の手間なく契約を起こせ、データの不整合も防げます。
連携によって、契約締結後の情報も会計や経費精算へ自動で流れるようになると、転記とダブルチェックの工数が消えます。前述の申請処理4割削減も、こうしたデータ連携によって実現したものです。一次データでは「システム間で業務が分割され非効率」が課題の38%を占めており、逆に言えば連携を設計できた企業ほど定着に成功しています。riplaはフルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、契約から会計・経費までを貫くデータ連携を設計し、現場が「楽になった」と実感できる状態を作ることを重視しています。事例から学べるのは、CLM単体ではなく業務フロー全体での連携設計こそが、定着と効果最大化の決め手だという点です。
まとめ

CLM・契約ライフサイクルマネジメントの事例を振り返ると、成果は大きく三つに集約されます。電子契約への移行による締結コストの削減(月20件で年96万円・印紙税の非課税化)、稟議・承認の電子化によるリードタイム短縮とガバナンス強化(スマホ承認・申請処理4割減)、そして紙契約からの段階的な移行と更新期限アラートによる一元管理です。いずれも、自社の契約件数・金額・業務フローに当てはめて定量化することで、投資判断の精度が高まります。
事例を読むときに大切なのは、「どのツールが安いか」ではなく「契約から文書、稟議までの業務フローをどう再設計し、現場に定着させたか」という視点です。まずは効果の大きい締結の電子化と重要契約の一元管理から、現場が使える一歩を踏み出してください。riplaはフルスクラッチ受託と業務伴走を組み合わせ、契約ライフサイクル全体を貫く業務フロー再設計と社内定着を一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
