AIモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法(リホスト/リプラットフォーム/リファクタリング等)の一覧について

レガシーシステムの刷新を検討し始めると、「どこまでを刷新の対象にすべきか」「どの手法を選べばよいのか」という問いに必ず突き当たります。モダナイゼーションには、クラウドへ載せ替えるリホストから、ゼロから作り直すリビルドまで、性質もコストも大きく異なる複数の手法が存在します。さらにAIモダナイゼーションでは、これらの手法にコード解析・自動移行・生成AIによるドキュメント復元といったAI活用が組み合わさるため、対象範囲と手法の全体像を正しく理解することが、最適な意思決定の第一歩となります。

本記事では、AIモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法を体系的に整理します。AWSが提唱する「7R」の各手法の定義と使い分け、それぞれの費用・期間の目安、さらにAIをどの工程で活用できるのかを一覧で解説しますので、自社システムにどの手法が適しているかを判断する材料としてご活用ください。手法選定を含めた全体像については、AIモダナイゼーションの完全ガイドでも詳しく解説しています。

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AIモダナイゼーションの対象範囲

AIモダナイゼーションの対象範囲

AIモダナイゼーションの対象範囲は、アプリケーション、インフラ、データ、業務プロセスという4つのレイヤーに整理できます。システム全体に単一の手法を一律で適用するのではなく、各レイヤーや各機能の状況に応じて最適な手法を組み合わせる「ポートフォリオアプローチ」を取ることが、現実的かつ効果的とされています。

刷新が及ぶ4つのレイヤー

第1のアプリケーションレイヤーは、業務ロジックそのものを担う部分で、COBOLや旧世代の言語で書かれた基幹システムが該当します。第2のインフラレイヤーは、オンプレミスのサーバーやネットワーク機器など、システムを稼働させる基盤です。第3のデータレイヤーは、データベースやファイルに蓄積された業務データであり、移行時のマッピングが大きな論点となります。

第4の業務プロセスレイヤーは、システムを使って遂行される業務そのものです。モダナイゼーションを単なる技術更改で終わらせず、業務のあり方も見直すことで、刷新効果を最大化できます。AIモダナイゼーションでは、これら4レイヤーの現状をAIで解析・可視化し、どこにどの手法を適用すべきかを判断していきます。

ポートフォリオアプローチの考え方

システム全体を一律の手法で刷新しようとすると、過剰投資になったり、逆に重要な機能の刷新が不十分になったりします。ポートフォリオアプローチでは、各機能やコンポーネントを「ビジネス価値の高さ」と「技術的負債の大きさ」で評価し、それぞれに最適な手法を割り当てます。たとえば、価値が高く負債も大きい中核機能はリビルド、当面維持で十分な周辺機能はリホスト、不要な機能はリタイア、といった具合に振り分けます。

このような評価と振り分けは、対象システムが大規模になるほど人手では困難になります。AIによるコード解析で各機能の複雑度や依存関係を定量化することで、振り分けの判断を客観的な根拠に基づいて行えるようになります。AIは、ポートフォリオアプローチを実務として成立させるための重要な支援手段といえます。

標準的な手法「7R」の一覧と使い分け

標準的な手法7Rの一覧と使い分け

モダナイゼーションの標準的なフレームワークとして広く知られているのが、AWSが提唱する「7R」です。これは、既存システムをどう扱うかを7つの選択肢に整理したもので、それぞれ刷新の深さ・コスト・期間・リスクが異なります。以下で各手法の定義と適したケースを確認しましょう。

7Rそれぞれの定義

7Rの各手法は次のとおりです。
・Rehost(リホスト):アプリを変更せずクラウドへ載せ替える「リフト&シフト」
・Relocate(リロケート):仮想化環境ごと別基盤へ移設する
・Replatform(リプラットフォーム):一部を最適化しつつクラウドへ移行する
・Repurchase(リパーチェス):既存システムを廃し、SaaSやパッケージに置き換える

・Refactor(リファクタリング):コードを書き換え、クラウドネイティブな構造へ作り直す
・Retire(リタイア):利用されていない機能やシステムを廃止する
・Retain(リテイン):当面は刷新せず現状を維持する

このうち、リホストは低コスト・短期間で実施できる反面、根本的な技術的負債は残ります。一方リファクタリングやリビルドは効果が大きい分、コストと期間を要します。すべてを刷新するのではなく、リタイアやリテインも選択肢に含めて全体を最適化することが重要です。

手法選定の判断軸

手法を選ぶ際の基本的な判断軸は、「ビジネス上の重要度」「技術的負債の大きさ」「許容できるコストと期間」の3点です。短期間でクラウド化の効果を得たい場合はリホストやリプラットフォーム、業務ロジックを抜本的に見直したい中核システムはリファクタリングやリビルドが適しています。標準業務であればSaaSへのリパーチェスが有力な選択肢となります。

重要なのは、これらの判断を感覚ではなく、現状分析に基づいて行うことです。IPAでも、再構築(リビルド)・リライト・リホスト・ハードウェア更改といった分類が示されており、自社システムの実態を踏まえて手法を当てはめていく必要があります。次章では、こうした手法選定をAIがどう支援するのかを見ていきます。

各手法に組み合わせるAI活用の手法

各手法に組み合わせるAI活用の手法

AIモダナイゼーションが従来の刷新と一線を画すのは、7Rの各手法に対してAIによる解析・変換・検証を組み合わせる点にあります。AIは特定の手法に限らず、現状分析・移行作業・品質検証という複数の工程で価値を発揮します。ここでは、代表的な3つのAI活用手法を紹介します。

AIによるコード解析・依存関係の可視化

刷新の出発点となるのが、現行コードの解析です。AIを用いた静的解析により、ソースコードの複雑度、モジュール間の依存関係、デッドコード(使われていない処理)などを自動で抽出し、可視化できます。富士通が提供する「ソフトウェア地図」のように、アプリケーション資産の複雑さや依存関係を地図のように見える化するツールも登場しており、現状把握の精度を高めています。

この可視化結果は、7Rのどの手法を適用すべきかの判断に直結します。依存関係が密で複雑度の高い中核機能はリファクタリングやリビルドの候補となり、独立性が高くシンプルな機能はリホストで十分と判断できます。AIによるコード解析は、ポートフォリオアプローチを客観的な根拠に基づいて実行するための基盤となります。

生成AIによる自動移行とドキュメント復元

リファクタリングやリビルドの工程では、生成AIによるコード変換とドキュメント復元が威力を発揮します。COBOLなどの旧言語からJavaやPythonへの変換を生成AIが支援することで、人手だけで進めるよりも大幅に作業を効率化できます。また、仕様書が失われたシステムでも、生成AIにコードを読み込ませて業務ロジックの説明文を生成させることで、失われたドキュメントを復元できます。

ブラックボックス化したレガシー資産の最大の課題は「何をしているか分からない」点にあるため、このドキュメント復元は要件定義の前提を整えるうえで極めて有効です。さらに、移行後の動作を保証するためのテストケース生成にもAIを活用でき、品質検証の工数を抑えられます。ただし、AIが生成したコードやドキュメントは必ず人がレビューし、業務要件との整合性を確認することが前提です。AIは作業を加速させますが、最終的な正しさの担保は人の役割として残ります。

手法別の費用・期間の目安

手法別の費用・期間の目安

手法を選ぶうえで、費用と期間の目安を把握しておくことは欠かせません。手法によってコスト構造と所要期間は大きく異なり、予算確保と稟議の前提となります。ここでは、クラウド移行型と再構築型を中心に、規模別の目安を整理します。

規模・手法別の費用と期間

費用・期間の目安は次のとおりです。
・クラウド移行型(リホスト等):数百万〜1,000万円台、3〜6ヶ月程度
・再構築型(リビルド等):2,000万〜数千万円規模、12〜18ヶ月以上
・小〜中規模の単一業務システム:3,000万〜1.5億円(SI費が60〜75%を占める)
・中〜大規模の基幹+複数周辺システム:1.5億〜5億円

これらは現状分析の範囲やデータ移行の複雑さによって変動します。要件定義・業務棚卸しのみを先行して切り出す場合は、200万〜500万円程度で実施するケースもあります。手法ごとにコストと期間のバランスが異なるため、自社の予算と求める効果を照らし合わせて選定することが重要です。

AI活用がコストに与える影響

AIモダナイゼーションでは、コード解析やドキュメント復元、移行作業の自動化により、特に現状分析と移行工程の人手工数を削減できます。SI費が全体の6割以上を占める構造を踏まえると、人手作業の効率化はプロジェクト全体のコストに直接的なインパクトをもたらします。ブラックボックス化したシステムほど、AIによる解析の効果は大きくなります。

ただし、AIツールの導入には学習や検証のコストも伴うため、初期段階では一定の投資が必要です。重要なのは、AI活用によって削減できる工数と、導入にかかるコストを比較し、対象システムの規模に見合った活用範囲を見極めることです。大規模で複雑なシステムほどAI活用の費用対効果は高まる傾向にあり、手法選定とあわせてAI活用の範囲を計画することが、合理的な投資判断につながります。

対象範囲と手法を決めるための実務ステップ

対象範囲と手法を決めるための実務ステップ

手法の定義や費用感を理解しても、実際に自社のどの範囲にどの手法を当てはめるかは、手順を踏んで判断する必要があります。ここでは、対象範囲と手法を決めるための実務的なステップを整理します。AIをどの工程で活かすかも、このステップの中で具体化されます。

ステップ1:資産の棚卸しと分類

最初のステップは、刷新対象となるシステム資産の棚卸しです。稼働中のアプリケーション、サーバーやネットワーク機器、データベース、外部連携などを一覧化し、それぞれの利用状況や保守状況を整理します。この段階で、AIによるコード解析を活用して各機能の複雑度や依存関係を定量化しておくと、後の分類作業が格段にしやすくなります。

棚卸しした資産は、「ビジネス価値の高さ」と「技術的負債の大きさ」の2軸で分類します。価値が高く負債も大きい中核機能、価値は高いが負債は小さい機能、すでに使われていない機能などに振り分けることで、どこに刷新の優先順位を置くべきかが見えてきます。この分類が、ポートフォリオアプローチによる手法割り当ての出発点となります。資産の全体像を正確に把握しないまま手法を決めると、過剰投資や刷新漏れを招くため、このステップを丁寧に行うことが重要です。

ステップ2:手法の割り当てとAI活用の計画

分類が済んだら、各グループに7Rの手法を割り当てます。価値が高く負債も大きい中核機能にはリファクタリングやリビルド、当面の維持で十分な周辺機能にはリホスト、標準業務はSaaSへのリパーチェス、使われていない機能はリタイア、といった具合に振り分けていきます。費用と期間の目安を踏まえ、予算の制約のなかで効果が最大化される組み合わせを設計することがポイントです。

同時に、各手法のどの工程でAIを活用するかを計画します。現状分析にはコード解析、リビルドやリファクタリングには生成AIによるコード変換とドキュメント復元、移行後の品質検証にはテストケースの自動生成、というように、工程ごとにAIの役割を明確にします。ブラックボックス化が深刻な機能ほどAI活用の効果が大きいため、解析の優先度も高く設定します。手法の割り当てとAI活用計画をセットで設計することで、対象範囲全体に対する刷新のロードマップが完成し、現実的かつ効果的なAIモダナイゼーションを進められます。

まとめ

AIモダナイゼーションの手法のまとめ

本記事では、AIモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法について解説しました。対象範囲はアプリケーション・インフラ・データ・業務プロセスの4レイヤーに整理でき、それぞれにポートフォリオアプローチで最適な手法を割り当てることが重要です。標準的な手法であるAWSの7R(リホスト・リロケート・リプラットフォーム・リパーチェス・リファクタリング・リタイア・リテイン)は、刷新の深さやコスト・期間が異なり、ビジネス重要度・技術的負債・予算の3軸で使い分けます。費用はクラウド移行型で数百万〜1,000万円台、再構築型で2,000万円以上が目安となります。

これらの手法に、AIによるコード解析・依存関係の可視化、生成AIによる自動移行とドキュメント復元を組み合わせることで、現状分析と移行工程の工数を大幅に圧縮できます。AIは手法選定の客観的な根拠を提供し、移行作業を加速させる強力な支援手段ですが、生成されたコードやドキュメントの最終確認は人が担う必要があります。自社システムに最適な手法とAI活用の組み合わせを見極めるには、現状分析から専門家に相談しながら計画を立てることをお勧めします。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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