電子契約システムのRFP/要件定義書/提案依頼書について

電子契約システムの導入や開発を外部ベンダーに依頼するとき、成否を大きく左右するのがRFP(提案依頼書)と要件定義書の質です。「電子契約を導入したい」という漠然とした依頼では、ベンダーごとにバラバラの提案が返ってきて比較できず、契約後に「思っていた機能と違う」という認識のズレが生まれます。逆に、自社の契約フロー・法令要件・連携要件を整理したRFPを用意できれば、各社の提案を同じ土俵で比較でき、要件定義の手戻りも防げます。

本記事は、電子契約システムのRFP・要件定義書・提案依頼書の書き方を整理する「要件定義特化」の解説です。既存の承認ルートを可視化して再現する要件、電子帳簿保存法・電子署名法への対応要件、CRM・会計システムとの連携要件、紙データ移行とメタデータ保持の要件、AI-OCR・AIレビューの要否切り分けまで、RFPに盛り込むべき要素を具体的に解説します。電子契約システム全体の仕組みや費用相場をまだ把握していない方は、まず電子契約システムの完全ガイドから読むことをおすすめします。読み終えるころには、自社のRFPに何を書くべきかが具体的にイメージできるはずです。

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承認ルートの可視化と再現要件の整理

承認ルートの可視化と再現要件の整理のイメージ

RFPの出発点は、自社の契約業務が現状どう回っているかを可視化することです。電子契約システムは、署名そのものより、その前段にある稟議・承認のフローをどう再現するかで、現場に定着するかどうかが決まります。現状の承認ルート(AsIs)を整理せずにベンダーへ依頼すると、提案されたシステムが自社の決裁規程に合わず、導入後に「業務がシステムに分断される」課題に陥ります。

現状の決裁規程と承認ルートを棚卸しする

要件定義の第一歩は、自社の決裁規程と承認ルートの棚卸しです。契約金額がいくらを超えたら誰の承認が必要か、契約類型ごとに法務レビューが必須か、特定の取引先には追加の承認を加えるか、といった条件分岐をすべて書き出します。多くの企業では、この決裁ルールが規程と実際の運用で食い違っており、棚卸しの過程で「実は規程外の承認が慣行になっていた」といった事実が浮かび上がります。

棚卸しでは、AsIs(現状)をそのまま再現するのではなく、ToBe(あるべき姿)へ整理する視点が重要です。不要な承認ステップを削り、条件分岐を簡潔にしたうえで要件化することで、システム化を機に承認プロセスそのものを効率化できます。RFPには「現状の承認ルート一覧」と「システムで再現したい承認ルート」を分けて記載し、ベンダーに条件分岐の再現可否を提案させると、各社の対応力を比較しやすくなります。承認ルートの可視化は、RFPの中核を成す作業です。

条件分岐とスマホ承認を要件として明文化する

承認ルートを要件化する際は、条件分岐の具体例をRFPに明記します。たとえば「契約金額500万円未満は部長承認、500万円以上は役員承認」「業務委託契約は法務レビューを必須とする」といった分岐ルールを、漏れなく列挙します。これにより、ベンダーは自社のシステムでこれらの分岐を再現できるかを具体的に検討でき、提案の精度が上がります。

あわせて、スマートフォンからの承認、承認証跡の自動記録、未承認契約の送信防止といった運用要件も明記します。承認者が外出先からでも承認できれば、契約のリードタイムが縮まり、遠隔申請の事例では1件5分以上の短縮や年150万円分の人件費削減につながった例もあります。承認証跡が自動記録されれば、内部統制や監査対応も容易になります。これらを「あれば便利」ではなく「必須要件」「推奨要件」と優先度を付けて記載することで、ベンダーの提案を客観的に評価できます。

RFP全体の構成と提案評価項目を設計する

個別の要件を整理する前に、RFP全体の構成を設計しておくと、抜け漏れを防げます。一般的なRFPは、導入の背景と目的、現状業務の課題、機能要件、非機能要件(セキュリティ・性能)、移行要件、連携要件、費用要件、スケジュール、提案の評価基準という構成で組み立てます。とくに「導入の目的」を冒頭に明記すると、ベンダーが自社の意図を汲んだ提案を出しやすくなります。

提案を客観的に比較するには、評価項目と配点をあらかじめ決めておくことが有効です。機能の充足度、費用、サポート体制、導入実績、法令対応、連携の実現性といった観点に配点を割り振り、各社の提案を同じ基準で採点します。これにより、担当者の主観や声の大きいベンダーに流されず、自社にとって本当に最適な選定ができます。RFPは単なる要望のリストではなく、提案を比較・評価するための設計図だと捉えることが、質の高い選定につながります。

電帳法・電子署名法への対応要件

電帳法・電子署名法への対応要件のイメージ

電子契約システムが他の業務システムと決定的に異なるのは、法令対応が証拠力に直結する点です。電子署名法や電子帳簿保存法の要件を満たさないシステムを選んでしまうと、契約の有効性や税務上の保存要件で問題が生じかねません。RFPには、自社が満たすべき法令要件を明記し、各製品が要件を満たすかをベンダーに確認させることが欠かせません。

電子署名法第3条と署名方式の要件

電子署名法は、一定の要件を満たす電子署名に、紙の押印と同等の法的効力を認めています。とくに第3条は、本人による電子署名がなされた電子文書を、真正に成立したものと推定する規定です。この推定が働くかどうかは署名方式や本人確認の運用に依存するため、RFPでは「自社が扱う契約に求める証拠力レベル」を明示し、立会人型と当事者型のどちらに対応すべきかを要件として整理します。

証拠力の高い契約には当事者型が向きますが、相手方にも電子証明書の発行費(1万円前後)が必要になるため、すべての契約に当事者型を求めると相手方の負担が大きくなります。多くの企業は、一般的な取引は立会人型、特に証拠力が重要な契約は当事者型、という使い分けを要件にします。RFPに「契約類型ごとに必要な署名方式」を整理して記載すれば、ベンダーは両方式への対応可否と切り替えの容易さを提案でき、自社の法令要件と運用負担のバランスを取った選定が可能になります。

電子帳簿保存法とタイムスタンプ・保存要件

電子契約は、税務上は電子取引データに該当し、電子帳簿保存法の保存要件を満たす形で保管する必要があります。具体的には、タイムスタンプの付与や訂正・削除の履歴管理、取引日・取引金額・取引先で検索できる検索機能の確保などが求められます。RFPには、これらの保存要件を満たす機能を備えているかをベンダーに確認させる項目を設けます。

さらに、契約書は法定保存期間が長く、タイムスタンプには有効期限があるため、期限が切れる前に再付与する長期保存形式への対応も要件に含めるべきです。法令対応は専門性が高く、自社だけで要件を漏れなく洗い出すのは難しいため、RFPの段階で「電帳法・電子署名法への対応状況を製品ごとに明記すること」を提案条件にし、必要に応じて顧問弁護士や税理士の確認を仰ぐ前提を置くと安全です。法令要件をRFPで明確にすることが、後の証拠力トラブルを防ぐ最大の保険になります。

長期保存とタイムスタンプ再付与の要件

法令対応の要件で特に見落としやすいのが、長期保存への対応です。契約書は法定保存期間が長く、企業によっては10年以上の保存が必要になります。一方、タイムスタンプには有効期限があるため、期限が切れる前に再付与する長期署名(長期保存形式)に対応していないと、長期的な証拠力を維持できません。RFPには「長期保存形式への対応」を明確な要件として記載すべきです。

あわせて、保存した契約書を電子帳簿保存法の検索要件に沿って取り出せるか、訂正・削除の履歴が残るかも要件に含めます。これらの要件を満たさないと、税務調査などの際に保存要件違反を指摘されるリスクがあります。法令対応は専門性が高いため、RFPの段階で各製品の対応状況を明記させ、必要に応じて顧問弁護士や税理士の確認を仰ぐ前提を置くと安全です。長期保存と検索要件まで踏み込んで要件化することが、将来にわたる証拠力と法令遵守を担保します。

CRM・会計連携と紙データ移行の要件

CRM・会計連携と紙データ移行の要件のイメージ

電子契約の効果を最大化するには、契約情報を後続の業務システムへ連携させ、二重入力をなくすことが欠かせません。また、新規契約の電子化だけでなく、過去の紙契約や旧システムのデータをどう移行するかも、RFPで定義すべき重要な要件です。連携と移行を要件に含めないと、導入後に「情報を一元管理できない(39.5%)」「システム間で業務が分断される(38%)」という典型的な課題に陥ります。

CRM・会計・経費精算との連携要件を定義する

連携要件を定義するには、まず契約情報がどの業務システムと関わるかを洗い出します。営業段階の情報はCRM・SFAに、契約後の請求や支払いは会計システムに、申請は経費精算システムに、というように、契約データの前後にあるシステムとの接点を整理します。これらと連携できれば、同じ情報を何度も入力する手間が消え、KEC関西電子工業振興センターの事例のように申請処理を約4割削減できる可能性があります。

RFPでは、連携対象のシステム名・連携方式(API連携かCSV連携か)・連携するデータ項目・連携の頻度を具体的に記載します。「会計システムと連携できること」という曖昧な書き方ではなく、「○○という会計システムとAPI連携し、契約金額・取引先・契約日を日次で連携すること」まで踏み込むと、ベンダーは実現可否と工数を正確に見積もれます。連携要件を具体的に書くことが、見積精度と提案比較の質を高めます。

紙データ移行とメタデータ保持の要件

移行要件では、過去の紙契約と旧システムのデータをどう取り込むかを定義します。紙契約はスキャンとメタデータ登録が必要ですが、全件を一度に移行するのは現実的でないため、更新期限が近い契約・金額の大きい基本契約・係争リスクのある契約から優先する、という移行方針をRFPに記載します。導入前の紙データが未処理のまま放置される課題が33.6%で挙がっていることを踏まえ、移行計画を要件に含めることが定着の鍵です。

旧システムからの乗り換えでは、メタデータの保持が最重要要件になります。契約日・当事者・契約金額・更新期限といったメタデータを失わずに新システムへ移すこと、旧システムを解約する前にデータを一括エクスポートできること、移行期間中は両システムを並行稼働できることを、要件として明記します。これらを曖昧にすると、移行時にメタデータが欠落したり、契約書にアクセスできない空白期間が生じたりします。移行はベンダー任せにせず、自社のデータ構造を理解したうえで要件化することが、トラブルを防ぐ前提です。

非機能要件とサポート体制を要件に含める

連携や移行といった機能要件に注目が集まりがちですが、非機能要件も同じくらい重要です。電子契約は機密性の高い契約情報を扱うため、通信の暗号化、アクセスログ、IPアドレス制限、二要素認証といったセキュリティ要件を明記します。あわせて、システムの可用性(稼働率)や、契約締結のピーク時にも安定して動作する性能要件も、RFPに盛り込むべき要素です。

見落とされがちなのが、導入後のサポート体制です。操作に困ったときの問い合わせ窓口、導入時のトレーニング、トラブル時の対応速度は、現場の定着を大きく左右します。導入後に約8割が課題を感じ、形骸化に陥るケースがあることを踏まえると、サポートの充実度は失敗を避ける重要な選定基準です。RFPに「導入支援とサポート体制を提案に含めること」を条件として加え、ベンダーの伴走力まで評価することが、導入を成功に導く要件設計のポイントになります。

AI機能の要否切り分けと費用要件

AI機能の要否切り分けと費用要件のイメージ

RFPでつい盛り込みすぎてしまうのが、AI機能です。AI-OCRやAIレビューは魅力的ですが、標準機能か追加オプションかで費用が大きく変わり、過剰な要件は見積を膨らませます。AI機能を「必須」「推奨」「不要」のどれに位置づけるかを明確に切り分けることが、費用を抑えた現実的なRFPを作る鍵になります。

AI機能を必須・推奨・不要に切り分ける

AI機能の要否は、自社の課題から逆算して判断します。膨大な紙契約の移行を控えているならAI-OCRの価値は高く、法務のレビュー工数が逼迫しているならAIレビューが効きます。逆に、契約件数が少なくこれらの課題がないなら、AI機能は不要要件として外し、まず署名・送信・保管・ワークフローの基本機能を固めるべきです。RFPに「AI機能は推奨要件とし、費用対効果を提案に含めること」と記載すれば、ベンダーは効果と費用を提示でき、過剰投資を避けられます。

AI機能を要件に含める場合は、効果を定量で問う姿勢が重要です。「AIレビューで法務工数を何時間削減できるか」「AI-OCRの読み取り精度はどの程度か、誤認識をどう検証する運用を想定するか」をRFPで問い、ベンダーに具体的な数値や運用案を提案させます。AIは法務やチェックの代替ではなく補助であり、最終判断は人が行う前提を要件に明記しておくと、過度な期待による失敗を防げます。

初期費用・月額・送信料を分けて見積らせる費用要件

RFPでは、費用を構造に分けて見積らせることが重要です。電子契約の費用は、初期費用・月額基本料・送信料(従量)・オプションの四つで構成されます。クラウド型の初期費用は0円が多いものの、連携のカスタマイズを伴う場合は数十万〜数百万円になることもあります。月額基本料は中小企業で数千〜2万円、高額プランで3万円程度、送信料は1件50〜300円が相場です。これらを一括ではなく分けて見積らせることで、件数増加時のコストを正確に予測できます。

あわせて、自社の想定契約件数を前提とした月次・年次のトータルコストを各社に試算させると、比較が容易になります。固定費が高く送信無料のプランと、固定費が低く送信課金のプランでは、件数によって損益分岐点が変わるためです。さらに、IT導入補助金などの活用可否を提案条件に加えると、実質負担を抑えられます。費用要件をRFPで構造化することが、見積比較の精度と、稟議を通すための説得力を高めます。riplaはフルスクラッチ受託の立場から、こうした要件整理と費用構造の見極めを伴走支援します。

補助金活用とスケジュールを要件に織り込む

費用要件とあわせて検討したいのが、IT導入補助金などの活用です。電子契約システムはIT導入補助金の対象になることが多く、インボイス枠やセキュリティ対策推進枠を使えば、導入費用の一部に補助が受けられます。RFPに「補助金の活用提案を含めること」を条件として加えれば、補助金の対象範囲や申請支援の有無を提案させることができ、実質負担を抑えた選定が可能になります。

補助金は申請スケジュールが決まっているため、導入計画と申請のタイミングを揃えることが重要です。RFPに導入スケジュールを明記し、補助金の申請時期と整合するかをベンダーと擦り合わせます。電子契約への関心は高く、ITトレンドの資料請求数は前年同期比236%増という調査もあり、申請が集中する時期は審査に時間がかかる可能性も考慮すべきです。費用・補助金・スケジュールを一体で要件化することが、コストとタイミングの両面で最適な導入につながります。

まとめ

電子契約システムの要件定義まとめイメージ

電子契約システムのRFP・要件定義書は、承認ルートの可視化と再現、電帳法・電子署名法への対応、CRM・会計との連携と紙データ移行、AI機能の要否切り分けと費用構造という四つの柱で組み立てると、抜け漏れなく整理できます。承認ルートはAsIsを棚卸ししてToBeへ整理し、法令要件は証拠力レベルに応じて署名方式と保存形式を明記し、連携と移行はシステム名やデータ項目まで具体化し、AI機能は必須・推奨・不要に切り分けて費用対効果を問う。この具体性が、各社の提案を同じ土俵で比較できる質の高いRFPを生みます。

RFPを作るときに大切なのは、ツールの機能比較から入るのではなく、自社の契約業務をどう変えたいかという目的から要件を逆算することです。承認フローの効率化、法令対応の確実性、二重入力の撲滅という目的を明確にすれば、本当に必要な要件が見えてきます。riplaはフルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、自社の契約・稟議・文書フローの可視化と、現場に定着する要件定義を一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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