システムの運用保守は、開発フェーズと違って「完成」がなく、稼働している限り延々と続く活動です。それだけに、契約時には見えなかった落とし穴が、運用が始まってから次々と表面化します。保守費が年々高止まりして下げられない、障害が起きても「うちの責任ではない」と押し付け合いになる、ベンダーを変えようにも引き継ぎが進まず塩漬けになる――。こうした失敗は、技術力や予算の問題というより、契約と責任設計の甘さから生まれます。そして一度こじれると、抜け出すのに膨大な時間とコストがかかります。
本記事は、運用保守でよくある失敗・課題・注意点・リスクを、発注企業の視点から踏み込んで解説する「失敗・リスク特化」の解説です。クラウドやSaaS連携時代に深刻化する責任分界の有耶無耶、ベンダーロックインと法的トラブル、保守移管の失敗、そして想定外費用という四つのリスクを、その回避策とともに一次データを交えて掘り下げます。なお、運用保守の全体像をまだ把握していない方は、まず運用保守の完全ガイドから読むことをおすすめします。失敗を知ることは、最も確実な失敗の予防策です。
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責任分界が有耶無耶になる失敗とその回避

現代の運用保守で最も増えている失敗が、責任分界の有耶無耶です。システムがクラウドや外部SaaS、AIと連携して動く今、障害の原因が自社システムなのか、クラウド基盤なのか、連携先のサービスなのかを切り分けられず、対応が止まってしまうケースが頻発しています。この領域は競合の解説でも語られることが少なく、だからこそ多くの企業が無防備なまま被害に遭います。
ベンダーのコントロール外障害で対応が止まる
典型的な失敗は、クラウド基盤の大規模障害や、連携先SaaSのAPI仕様変更によってシステムが止まったとき、保守ベンダーが「これは当社のコントロール外です」と対応を渋り、復旧が宙に浮くパターンです。AWSのような巨大クラウドの障害、連携サービスの突然の仕様変更、AIの誤った出力(ハルシネーション等)など、ベンダーが直接コントロールできない要因による障害は、契約で扱いを決めていないと誰も主体的に動きません。
この失敗の本質は、契約段階で「ベンダーのコントロール外で起きる障害に、誰がどう対処し、費用は誰が持つか」を決めていなかったことにあります。回避策は、責任分界点を契約で明文化することです。クラウドの責任共有モデルを前提に、ベンダーが責任を負う範囲、利用者が負う範囲、外部要因として切り分ける範囲を表で整理し、外部障害時でも「原因切り分けと暫定対応はベンダーが行う」といった最低限の動きを契約に書き込みます。この一手間が、いざというときの「押し付け合い」を防ぎます。
SLAペナルティが原因不明で適用されない
責任分界の有耶無耶は、SLAペナルティの形骸化にも直結します。せっかく稼働率99.9%や復旧目安4時間といった保証型SLAを結び、未達時には月額保守費の一定割合を減額する条項を入れても(出典:ripla)、いざ障害が長引いたときに「原因はクラウド側にあった」「複合要因で特定できない」とされ、ペナルティが適用されない、というのがよくある現実です。
回避策は、ペナルティの発動条件を責任分界点とセットで具体的に定義することです。「どの範囲の障害が、どんな原因切り分けの結果ならペナルティ対象になるか」を契約で明確にし、原因究明のための調査義務もベンダーに課します。原因が曖昧なまま済まされないよう、障害ごとに原因分類を報告させる仕組みを定例レポートに組み込むのも有効です。ペナルティ条項は、責任分界点と原因究明プロセスが伴って初めて実効性を持つ、ということを忘れてはいけません。
ベンダーロックインと法的トラブルのリスク

運用保守の長期化に伴って深刻になるのが、ベンダーロックインと、それに絡む法的トラブルです。一つのベンダーに長年依存すると、保守費を下げる交渉力を失い、不満があっても乗り換えられない状態に陥ります。最悪の場合、ソースコードの権利をめぐる法的な泥沼に発展します。
保守費が高止まりする構造とその背景
ロックインの分かりやすい症状が、保守費の高止まりです。保守費の相場は開発費の年15〜20%が目安とされますが(出典:ripla)、ロックイン状態では相場を大きく超える金額を払い続けることになりがちです。背景には、多重下請け構造で中間マージンが積み上がっていたり、ベンダー側が万一に備えた待機要員のコストを保守費に転嫁していたり、という事情があります。発注側がこの「相手の台所事情」を知らないと、適正な交渉ができません。
回避・改善策は、保守費の内訳開示を求め、相場と照らして交渉することです。定期保守20〜30%、監視15〜25%、障害対応25〜35%といった内訳の目安を持っていれば(出典:ripla)、「実稼働に対して高すぎる項目はどれか」を客観的に指摘できます。複数社から相見積もりを取るだけでも、現ベンダーへの牽制になります。重要なのは、感情的な値下げ要求ではなく、内訳と相場という数字を土台に、相手の利益構造も踏まえて交渉に臨むことです。
ソースコード著作権を盾にした移管拒否
ロックインが法的トラブルへ発展する典型が、ソースコードの著作権をめぐる移管拒否です。契約で著作権の帰属を明確にしていないと、ベンダーが「ソースコードは当社のもの」と主張し、ベンダー変更の際にコードの引き渡しを拒んだり、独自パッケージの派生物だとして移管に応じなかったりします。こうなると、新しいベンダーに引き継げず、不本意ながら現ベンダーに縛られ続けることになります。
回避策は、開発・保守契約の段階で、ソースコードの著作権の帰属、納品物の範囲、契約終了時の引き渡し義務を明記しておくことです。すでにこじれている場合は、契約書の条項を法務とともに精査し、解除に向けた手順を踏む必要があります。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発の立場から、ソースコードや成果物の権利関係を発注者側に明確に残す契約を重視し、将来のベンダー変更で発注者が不利にならない設計を一貫して大切にしています。権利関係の明確化は、ロックインを根本から防ぐ最も確実な手段です。
保守移管(ベンダー変更)に失敗するリスク

不満のあるベンダーから別のベンダーへ保守を移そうとして、その移管自体に失敗するリスクも見逃せません。移管は一見シンプルに見えて、ドキュメント不足や引き継ぎの不備で難航し、二重コストやサービス低下を招きます。準備不足の移管は、現状維持より悪い結果を生むことすらあります。
ドキュメント不足で引き継ぎが難航する
移管失敗の最大の原因が、ドキュメント不足です。前ベンダーの運用が属人化していて、システム構成図も運用手順書も障害対応の記録もない、という状態で移管を始めると、新ベンダーは手探りで運用を引き継ぐしかなく、移管期間が延びて二重に保守費がかかります。さらに、引き継ぎが不完全なまま本番運用に入ると、移管直後に障害が起きても誰も対処できない、という最悪の事態を招きます。
回避策は、移管を決めたら、前ベンダーが協力的なうちにドキュメントの棚卸しを徹底することです。システム構成、依存関係、運用手順、過去の障害履歴、設定情報などを体系的に引き出し、新ベンダーが理解できる形に整理します。前ベンダーに引き継ぎ協力義務がない契約だと協力を得にくいため、契約段階で終了時の引き継ぎ義務を定めておくことが、将来の移管をスムーズにします。移管は「前ベンダーが協力的な間に、いかにドキュメントを引き出すか」の勝負です。
移管期間の二重コストを織り込む
移管でもう一つ見落とされがちなのが、移管期間中の二重コストです。前ベンダーへの支払いを続けながら、新ベンダーの立ち上げ費用も払う期間が必ず発生します。この重複を「想定外の出費」として後から知ると、移管そのものをためらってしまい、結果的にロックインから抜け出せません。移管を検討する段階で、この二重コストを最初から予算に織り込んでおくことが重要です。
移管の判断は、二重コストを含む移管総額(移行のTCO)と、移管後に得られる保守費削減や品質改善を、長期で比較して行います。短期的には二重コストで割高に見えても、ロックインを脱して適正な保守費に戻せば、数年で回収できることも少なくありません。移管は痛みを伴いますが、その痛みを定量化して織り込めば、感情ではなく数字で踏み切る判断ができます。準備とTCOの試算こそが、移管失敗を防ぐ鍵です。
想定外費用で予算が崩れるリスク

運用保守の予算を崩す最後のリスクが、契約に含まれない想定外費用です。月額の保守費だけを見て安心していると、平時には発生しないが起きると高額になる費用が突然降りかかり、年間予算が大きく狂います。何が想定外になりうるかを知っておくことが、最大の備えです。
OSS保守やデータ復旧の隠れた費用
想定外費用の代表が、OSS(オープンソースソフトウェア)のサポート終了対応とデータ復旧です。システムが使っているOSSのライブラリが突然サポート終了を迎えると、脆弱性を放置できず、緊急のバージョンアップや代替への移行が必要になります。これが通常の保守範囲に含まれていないと、別途まとまった改修費が発生します。データ復旧も同様で、障害でデータが壊れた際の復旧作業が別費用になっているケースは多くあります。
回避策は、契約段階でこれらの費用の扱いを明記することです。OSSのサポート終了対応は保守に含むのか別途見積もりか、データ復旧の費用は誰が負担するのか、を表で整理しておきます。AIを組み込んだシステムでは、MLOps保守の費用が月50〜200万円と通常より高くなる傾向もあり(出典:ripla)、AI関連の保守費を見落とすと予算が大きく崩れます。隠れた費用を事前に洗い出し、契約で手当てしておくことが、突然の出費を防ぎます。
軽微改修の範囲を巡る追加費用の応酬
もう一つの想定外費用の温床が、軽微改修と仕様変更対応の範囲を巡る認識のずれです。発注側は「これくらいは保守に含まれるはず」と思い、ベンダーは「これは別途見積もりの改修だ」と考える。この認識の差が、運用開始後に追加費用の応酬を生みます。軽微改修は保守費内訳の10〜15%を占める領域ですが(出典:ripla)、その範囲が契約で曖昧だと、毎回の改修が交渉になり、関係も悪化します。
回避策は、軽微改修の定義と上限を契約で具体化することです。「月◯時間まで、または◯人日までの改修は定額に含む」「それを超える改修や、画面追加などの仕様変更は別途見積もり」といった線引きを明記します。境界が明確なら、改修のたびに揉めることがなくなり、予算の見通しも立ちます。riplaはフルスクラッチ受託と国内運用保守の立場から、軽微改修・仕様変更・想定外費用の範囲を契約段階で明確にし、運用開始後に追加費用で揉めない設計を一貫して重視しています。失敗の多くは、契約時の曖昧さに根があるのです。
まとめ

運用保守の失敗・リスクを整理すると、責任分界の有耶無耶、ベンダーロックインと法的トラブル、保守移管の失敗、想定外費用という四つに集約されます。クラウドやSaaS連携時代には、ベンダーのコントロール外で起きる障害の責任と費用を契約で決めていないと対応が止まり、SLAペナルティも形骸化します。ソースコードの権利を曖昧にすればロックインから抜け出せず、ドキュメント不足は移管を難航させ、OSS対応や軽微改修の範囲の曖昧さは想定外費用を招きます。これらの失敗は、いずれも契約と責任設計の甘さから生まれます。
裏を返せば、これらのリスクは契約段階で明文化することの多くを防げます。責任分界点を表で定義し、SLAペナルティの発動条件と原因究明プロセスを具体化し、ソースコードの権利と引き継ぎ義務を明記し、想定外費用と軽微改修の範囲を線引きする。この備えが、運用フェーズの平穏を守ります。riplaはフルスクラッチ受託と国内運用保守を組み合わせ、こうした失敗を契約と責任設計の段階から防ぎ、作った後も継続して伴走する支援を一貫して提供します。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
