観光アプリの導入/開発事例や活用/成功事例について

観光アプリの導入を検討するとき、自治体観光課やDMO、観光協会、観光施設の担当者がまず知りたいのは「同じように回遊性の向上やオフシーズン集客、インバウンド対応に悩む地域や事業者が、実際にどんなアプリを作り、どれだけの成果を出したのか」という具体的な事例ではないでしょうか。観光分野は地域ごとに課題も来訪者層も大きく異なり、他業種で成功したアプリの作り方をそのまま持ち込んでも、現地で使われずに終わるケースが少なくありません。だからこそ、自地域・自施設に近い導入事例・成功事例こそが、投資判断の精度を高めてくれます。

本記事は、観光アプリの導入事例・開発事例・活用事例・成功事例を、発注側(自治体・DMO・観光事業者)の視点から掘り下げる「事例特化」の解説です。長野県山ノ内町(志賀高原)の直販シーズン売上5,388万円、北海道ニセコの予約一元化による販売総額70億円超、神奈川県箱根のデジタルマップによる旅ナカ行動変容、福井県あわら温泉のデータ自動収集による稼働率改善、さらに中国・雲南省のスーパーアプリによる2,870万ダウンロード超といった国内外の一次データを、出典付きで具体的に解説します。読み終えるころには、自地域が「どこから着手し、どんな効果を狙うべきか」のイメージが描けるはずです。なお、観光アプリ開発の全体像をまだ把握していない方は、まず観光アプリ開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。

国内自治体・DMOの観光アプリ成功事例

国内自治体・DMOの観光アプリ成功事例のイメージ

観光アプリの事例でまず参考になるのが、国内の自治体・DMO・観光協会が主導した取り組みです。これらの事例は、補助金や地域予算で構築されることが多く、単なる集客ツールではなく「地域全体のデータ基盤」として設計されている点に学びがあります。共通するのは、オフシーズンの稼働率向上やポータル依存からの脱却という、地域固有の経営課題を起点にしている点です。

志賀高原・ニセコの直販と予約一元化で売上を伸ばした事例

長野県山ノ内町(志賀高原)の「CLUB SHIGA KOGEN」は、観光アプリ・デジタル基盤を活用した直販強化の好例です。OTA(オンライン旅行会社)に依存していた送客を、自前のチャネルへ取り込むことで、直販シーズン売上5,388万円・メール開封率60%超という成果を出しています。一般的なメールマーケティングの開封率が20%前後であることを踏まえると、開封率60%超という数字は、ファン化した来訪者と直接つながる仕組みがいかに強力かを示しています。観光アプリは「新規集客の窓口」だけでなく「リピーターとの関係を太くする資産」として機能するのです。

北海道ニセコでは、RoomBoss等を用いた予約の一元化により、23-24シーズン冬の販売総額70億円超を実現し、閑散期の稼働率を20%から43%へと倍以上に引き上げました。ニセコの事例が示すのは、予約データを地域全体で一元的に扱うことで、空室を可視化し、閑散期に集中的な施策を打てるようになるという構造的な効果です。観光アプリや予約基盤は、個別施設の販促ツールではなく、地域全体の在庫を最適配分するインフラとして設計するほど投資対効果が高まります。この「地域全体最適」の視点は、要件定義の段階で必ず織り込むべき論点です。詳しくは『観光アプリのRFP/要件定義書/提案依頼書について』もあわせてご覧ください。

箱根・あわら温泉のデジタルマップとデータ自動収集の事例

神奈川県箱根の「箱根観光デジタルマップ」は、回遊性向上を主目的とした観光アプリ・Webサービスの代表例です。月次6,985人が利用し、旅ナカ(旅行中)の行動変容が月271回計測されています。ここで重要なのは「行動変容を計測できている」点です。単に地図を表示するだけでなく、利用者がどのスポットを見て、どこへ動いたかをデータとして取得し、回遊ルートの改善やイベント設計に活かせる構造になっています。観光アプリの真価は、紙のパンフレットでは決して得られない「来訪者の行動データ」を取得し、次の施策に回せる点にあります。

福井県あわら温泉などでは、各施設のPMS(宿泊管理システム)からRPAで稼働データを自動収集し、オープンデータ化する取り組みにより、稼働率が前年比プラス6.2ポイントの72.0%に改善しています。手作業で各旅館の稼働を集計していたのでは、地域全体の需要を把握するのに時間がかかり、施策が後手に回ります。データ収集を自動化することで、地域のDMOが「今どこが空いているか」をリアルタイムに把握し、的確な送客や価格戦略を打てるようになります。観光アプリ単体ではなく、こうしたバックヤードのデータ自動化とセットで設計することが、持続的な成果につながります。

住民生活機能の統合で「消されない」アプリにした事例

住民生活機能を統合した観光アプリ事例のイメージ

観光アプリの最大の弱点は、旅行が終わればアンインストールされてしまうことです。30日リテンション率の業界平均は約5.8%という厳しい数字があり、観光客だけをターゲットにしたアプリは、せっかく作っても継続利用がほとんど得られません。この壁を越えた事例に共通するのが、「住民の日常生活で使う機能」を統合し、観光客が去った後も地元で使われ続けるアプリにする発想です。

長野原町公式アプリが住民普及率67%を達成した事例

群馬県長野原町の公式アプリは、ModuleApps2.0などのプラットフォームを活用し、リリースから約2年で住民普及率67%を達成しました。観光情報だけでなく、防災情報やごみ収集日、行政からのお知らせといった住民の生活に密着した機能を統合したことで、観光客だけでなく地元住民が日常的に開くアプリになりました。住民が使い続けるからこそ、観光イベントやキャンペーンの告知が確実に届き、地域内消費を押し上げる効果が生まれます。

この事例が示す本質は、観光アプリを「観光客専用」と狭く定義しないことの重要性です。普及率67%という数字は、自治体が広報手段として活用できる強力なチャネルを手にしたことを意味します。観光アプリの企画段階で「観光客の周遊」だけを目的に据えると、リテンションの壁に阻まれて投資が回収できません。住民の生活利便と観光振興を両立させる設計こそが、長期的に消えないアプリを生む鍵です。観光固有の機能とその裏側にある要件は『観光アプリの必要機能や標準機能の一覧について』で詳しく整理しています。

スタンプラリーと位置情報で周遊を促した事例

来訪者の滞在時間と回遊範囲を広げる仕掛けとして、多くの観光アプリがデジタルスタンプラリーを採用しています。GPSやWi-Fiに屋内ビーコン(BLE)を組み合わせたハイブリッド測位を用いると、来訪者が実際にそのスポットを訪れたことを検知し、スタンプを付与できます。これにより、これまで素通りされていた周辺スポットへの送客が可能になり、地域内の消費を分散させることができます。ゲーム性を持たせることで、来訪者は能動的に地域を歩き回り、結果として滞在時間と消費額が伸びます。

位置情報を活用した周遊促進の事例で見落としてはならないのが、取得した行動データの活用です。どのスタンプスポットが人気で、どこが素通りされているかをデータで把握できれば、イベントの配置や案内サインの改善に直結します。スタンプラリーは単なる集客イベントではなく、地域の人流データを継続的に蓄積する仕組みとして設計すると、効果が最大化します。位置情報や周遊ルート提案は観光アプリならではの差別化機能であり、Webサイトやチラシでは代替できない価値の中核です。

インバウンド・多言語・AR観光で成果を出した事例

インバウンド・多言語対応の観光アプリ事例のイメージ

インバウンド需要の回復に伴い、多言語対応とオフライン機能を備えた観光アプリの重要性が高まっています。訪日外国人は通信環境が不安定なこと、現地の文字情報が読めないことから、オフラインで使える多言語ガイドへのニーズが極めて強い層です。海外の先進事例と国内の取り組みの両方から、インバウンド向け観光アプリの勘所を見ていきます。

雲南省2,870万DLとバルセロナの混雑制御の事例

中国・雲南省がテンセントと組んで開発した「雲南旅行」は、2,870万ダウンロード超を達成し、観光客からのクレームを62.4%削減しました。このアプリは予約、決済、ナビ、苦情受付までを一気通貫で提供するスーパーアプリ型で、観光客の困りごとをアプリ内で即座に解決できる体制を作り上げました。クレーム62.4%減という数字は、観光アプリが「集客」だけでなく「来訪後の体験品質」を底上げし、地域のブランド価値を守る装置になり得ることを示しています。

スペイン・バルセロナでは、サグラダ・ファミリアの入場を1時間1,500人上限としてデジタル予約で制御し、来訪者満足度8.8点を実現しました。オーバーツーリズム(観光公害)が世界的な課題となるなか、デジタル予約による入場制御は、混雑を緩和しながら満足度を高める有効な手段です。日本でも人気観光地での混雑が問題化しており、予約・整理券機能を備えた観光アプリは、来訪体験の質を保つインフラとして注目されています。イタリア・ロンバルディア州ではAPI規格「E015」を整備したことで100を超えるアプリが創出されており、地域がデータ連携の共通基盤を用意することの波及効果も示されています。

オフライン地図・多言語をどう実装したかの事例

インバウンド向け観光アプリの中核となるのが、オフラインでも使える地図と多言語ガイドです。実装事例では、Mapbox SDK等を用いて地図データを事前にキャッシュし、通信が不安定な山間部や地下、海外SIMの来訪者でも、ダウンロード済みエリアであれば地図と周遊ルートを表示できるようにしています。観光地は電波が届きにくい場所も多く、「現地で地図が開けない」ことは致命的な体験低下につながります。オフライン対応は、観光アプリならではの差別化要素であり、Webサイトでは実現しにくい価値です。

多言語対応は、単に翻訳を載せれば終わりではありません。AR(拡張現実)を活用した事例では、スマートフォンのカメラを史跡や案内板にかざすと、利用者の言語で解説が重ねて表示される仕組みを実装し、文字が読めない来訪者でも直感的に理解できる体験を提供しています。多言語とAR観光を組み合わせると、限られた現地スタッフでは対応しきれない多様な国籍の来訪者に、均質な情報提供ができます。こうした機能は、観光体験の付加価値を高めると同時に、運用コストの削減にも寄与します。これらの機能要件をどう整理するかは、要件定義の巧拙が大きく影響します。

失敗から軌道修正した観光アプリ事例

失敗から軌道修正した観光アプリ事例のイメージ

事例の価値は、成功談だけにあるのではありません。むしろ発注側がもっとも学べるのは「なぜ使われなくなったのか」「どう立て直したのか」というリアルな経験です。観光アプリには、補助金で華々しくリリースしたものの、運用が続かず放置に至った事例が数多く存在します。この失敗から得られる教訓は、これから投資する自治体・事業者にとって何よりの保険になります。

補助金リリースだけで放置されたアプリの教訓

観光アプリでもっとも多い失敗が、補助金を使ってリリースまでは達成したものの、運用予算と体制を確保しなかったために放置されるパターンです。30日リテンション率の業界平均が約5.8%という現実を踏まえれば、リリースはスタート地点に過ぎず、継続的なコンテンツ更新や機能改善がなければ、ダウンロードされてもすぐにアンインストールされます。情報が古いまま放置された観光アプリは、かえって地域の印象を損ない、「使えないアプリ」という評判だけが残ってしまいます。

この失敗の本質は、技術や予算の総額ではなく「作って終わり」にしてしまう運用設計の欠如にあります。観光アプリはGoogle Maps APIの利用料がMAU1万人超で月10万円以上かかるなど、利用が伸びるほどランニングコストも増える構造です。初期費用だけを見て補助金で構築し、運用費の手当てを忘れると、人気が出た途端に費用が膨らんで継続を断念する、という皮肉な結果に陥ります。失敗・リスクの観点は別記事で体系的に整理しているため、『観光アプリ開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて』もあわせてご覧ください。

運用設計とデータ還元で立て直した事例

失敗から立て直した事例に共通するのは、アプリを「成果物」ではなく「運用するサービス」として捉え直したことです。立て直しに成功した地域は、住民の生活機能を統合してリテンションを確保し、取得した人流データをDMP(データ管理基盤)として地域に還元する仕組みを作りました。データを地元の事業者に共有し、需要に応じた営業時間や品揃えの改善につなげることで、アプリが地域経済に具体的な価値をもたらすようになります。データの地域還元こそが、観光アプリを単なるコストから資産へと変える分岐点です。

もう一つの立て直しのポイントが、MVP(最小実用製品)から始めて効果を検証する段階主義です。最初から多機能なアプリを大規模予算で作ると、どの機能が本当に使われるか分からないまま費用だけが膨らみます。立て直しに成功した事例では、まずオフライン地図と多言語ガイドといった核となる機能に絞って300万〜600万円規模で構築し、利用データを見ながら段階的にAR・決済・スタンプラリーを追加していきました。riplaはフルスクラッチ受託とノーコードの両睨みで、この「核から始めて段階的に育てる」進め方を一貫して重視しています。

まとめ

観光アプリ事例のまとめイメージ

観光アプリの導入事例・成功事例を振り返ると、成果を出した地域に共通するのは「多言語・オフライン・位置情報という観光固有の価値を地域課題に結びつけ、住民利用とデータ還元で継続利用を生み出している」という一点です。志賀高原の直販売上5,388万円、ニセコの販売総額70億円超と稼働率20%から43%への改善、箱根の行動変容計測、長野原町の住民普及率67%、雲南省の2,870万ダウンロードとクレーム62.4%減といった一次データは、観光アプリが集客にとどまらず、来訪体験の質と地域経済を底上げする装置になり得ることを示しています。一方で、補助金リリースだけで運用設計を欠いたアプリは、リテンション率約5.8%という壁に阻まれて放置されます。

事例を読むときに大切なのは、「どれだけ華やかに作ったか」ではなく「なぜ使われ続けたのか」という視点です。自地域の来訪者層と課題に照らし、まずはオフライン地図や多言語といった核機能から、現地で本当に使われる一歩を踏み出してください。riplaはフルスクラッチ受託とノーコードを組み合わせ、地域の課題から逆算した要件整理と、運用まで定着するアプリづくりを一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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