生産管理システムのモダナイゼーションの事例/成功事例について

製造業の現場を長年支えてきた生産管理システムは、工程実績の収集から品質トレーサビリティ、在庫・原価管理、夜間バッチ処理まで、ものづくりの根幹を担っています。一方で、その多くが10年20年と稼働を続けるうちに老朽化し、改修を重ねた結果として中身がブラックボックス化し、特定のベテランしか触れない属人化したシステムへと変貌しています。「他社はどのように生産管理システムを刷新したのか」「老朽化した基幹系を止めずに更改できるのか」「刷新に踏み切った企業は実際にどんな成果を得たのか」といったご相談を、私たちは数多くいただきます。手法の一覧やメリット・デメリットの比較ではなく、現場でどんな壁にぶつかり、どう乗り越えたのかという具体的なプロセスを知りたいというニーズが高まっています。

本記事では、生産管理システムのモダナイゼーション(刷新・更改・リニューアル)について、実際の成功事例を中心に、必要に応じて失敗から学ぶ教訓も交えながら具体的に解説します。レガシー刷新の全体像を体系的に整理したい方は、まず生産管理システムのモダナイゼーションの完全ガイドもあわせてご覧ください。本記事は、その完全ガイドでは触れきれない「実際の刷新プロジェクトの中身」を、できるだけ具体的な数字とともに掘り下げる内容となっています。生産管理の刷新は設計と進め方次第で成否が大きく分かれる取り組みであり、先行事例から学べることは決して少なくありません。

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・生産管理システムのモダナイゼーションの完全ガイド

なぜ今、生産管理システムの刷新が求められるのか

なぜ今、生産管理システムの刷新が求められるのか

生産管理システムの刷新事例を読み解く前に、なぜ多くの製造業がいま更改に踏み切っているのか、その背景を押さえておく必要があります。経済産業省は、老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムを放置した場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じるリスクがあると指摘しています(出典:経済産業省)。いわゆる「2025年の崖」と呼ばれる問題で、生産管理の領域も例外ではありません。

実際、JUASの調査では約7割の企業が既存システムのレガシー化を課題として認識していると報告されています(出典:JUAS)。製造現場では、工程実績収集や原価計算のロジックが古いプログラム言語で書かれたまま改修を重ねられ、当時の設計意図を知る担当者が退職してしまったケースが珍しくありません。刷新事例を見ていく前提として、この「待ったなし」の状況を理解しておくことが重要です。

生産管理特有のレガシー化リスク

生産管理システムのレガシー化は、一般的な業務システムとは異なる固有のリスクをはらんでいます。工程実績の収集ロジックや品質トレーサビリティの記録、原価計算の按分ルールなどは、その工場の業務そのものに深く結びついており、安易に置き換えると現場が回らなくなる恐れがあります。これらがブラックボックス化すると、仕様変更はおろか、障害発生時の原因究明すら困難になります。

さらに、MES(製造実行システム)やIoT機器との連携が古い方式のまま固定化されていると、新しい設備の導入やデータ活用の妨げになります。夜間バッチ処理が長時間化して翌朝の生産計画に間に合わない、保守できる技術者が市場から消えつつあるといった問題も、製造業のレガシー生産管理で頻繁に見られる症状です。こうしたリスクが顕在化する前に刷新へ踏み切った企業が、次章以降で紹介する成功事例の主役となります。

「いつかやる」が許されなくなった理由

かつて生産管理システムの刷新は「動いているうちは触らない」という判断が一般的でした。しかし、保守人材の枯渇とハードウェアの保守期限切れが重なり、刷新を先送りすること自体がリスクになっています。古い言語を扱える技術者が定年を迎え、サーバー機器のサポートも終了すれば、障害が起きても誰も直せないという最悪の事態に陥りかねません。

後述する成功事例の企業に共通するのは、こうした崖が目前に迫る前に動き出した点です。刷新は時間も費用もかかる取り組みであり、追い込まれてから慌てて着手すると、移行計画の不備による事故を招きやすくなります。先行事例が示すのは、「いつかやる」を「今やる」に変えた企業ほど、計画的に段階を踏んで成果を出しているという事実です。

製造業の生産管理システム刷新の成功事例

製造業の生産管理システム刷新の成功事例

ここでは、本記事の中心となる成功事例を具体的に見ていきます。題材とするのは、従業員約1,200名を擁する製造業が、長年稼働してきたCOBOLベースの基幹系生産管理システムを刷新したケースです。この事例は、夜間バッチ処理の高速化と保守費の大幅削減という明確な成果を伴っており、生産管理刷新のあるべき進め方を学ぶうえで示唆に富んでいます。

COBOL基幹系を16ヶ月で刷新したプロセス

この製造業では、工程実績の収集、在庫・原価管理、夜間バッチによる日次集計といった生産管理の中核機能を、数十年前に構築されたCOBOLの基幹系が担っていました。改修を重ねた結果として処理ロジックがブラックボックス化し、夜間バッチの処理時間は約8時間にまで膨らみ、翌朝の生産計画立案に支障をきたしかけていました。保守を担えるCOBOL技術者の確保も年々難しくなり、刷新は避けて通れない状況にありました。

同社が選択したのは、現行業務をいったん新基盤へ移したうえで段階的に作り替えていくアプローチです。まず既存の処理を新しいインフラへ載せ替えるリホストに近い形で土台を整え、そのうえで業務上クリティカルな夜間バッチや原価計算のロジックから順に再構築していきました。一度に全面刷新するのではなく、リスクの高い領域を切り出して優先的に置き換える進め方により、現場を止めることなく移行を進めています。

このプロジェクトは約16ヶ月で完了しました。生産管理のように業務が複雑かつ止められないシステムにおいて、16ヶ月という期間で刷新を成し遂げられた背景には、現行ロジックの棚卸しと優先順位づけを丁寧に行い、置き換える範囲を段階的に区切ったことが大きく寄与しています。全面同時刷新ではなく、稼働中のシステムと並走させながら少しずつ新システムへ移していく堅実な進め方が、事故のない移行を実現したのです。

夜間バッチ80%短縮・保守費65%削減という成果

この刷新がもたらした成果は、いずれも数字で明確に示されています。最大の懸案だった夜間バッチ処理は、約8時間から90分へと短縮されました。実に80%もの時間短縮であり、翌朝の生産計画や工程指示の立案に余裕が生まれ、現場の意思決定が早まる効果につながっています。生産管理において夜間バッチの遅延は翌日の操業に直結するため、この改善のインパクトは小さくありません。

コスト面の効果も顕著です。サーバーの保守費は年間2,400万円から850万円へと、約65%削減されました。老朽化したハードウェアと保守困難なソフトウェアを抱え続けることが、いかに大きな固定費を生んでいたかがわかります。削減できた保守費は、IoT連携や品質トレーサビリティの高度化といった、より付加価値の高い投資へ振り向けることが可能になりました。

この事例が教えてくれるのは、生産管理システムの刷新は単なる「老朽化対策」ではなく、処理性能と運用コストの両面で投資対効果を生む経営課題だということです。夜間バッチの高速化は現場の生産性を、保守費の削減は財務体質を、それぞれ改善します。刷新を費用としてではなく投資として捉え、効果を数字で測れる形に落とし込んだことが、社内合意の形成と成功の鍵になりました。

業務分析と可視化で成果を出した周辺事例

業務分析と可視化で成果を出した周辺事例

生産管理システムの刷新は、システムを入れ替えるだけでは効果が半減します。中心事例のCOBOL刷新でも、現行業務の棚卸しという地道な作業が成功を支えていました。ここでは、刷新の前提となる業務分析や、刷新後の運用効率を支える可視化の重要性を示す周辺事例を紹介します。生産管理刷新を検討する際の補助線として参考になるはずです。

業務プロセス分析を先行させたイオングループの事例

イオングループは、RPAの導入にあたって、いきなりツールを入れるのではなく、業務プロセスの分析を徹底することから始めました。その結果、月間700時間もの業務削減を実現したと報告されています(出典:イオングループ)。注目すべきは、ツール導入そのものよりも、何を自動化すべきかを見極める事前分析に力点を置いた点です。

この姿勢は、生産管理システムの刷新にもそのまま当てはまります。中心事例のCOBOL刷新が成功したのも、現行の工程実績収集や原価計算のロジックを棚卸しし、何を残し何を作り替えるかを見極めたうえで着手したからです。古いシステムをそのまま新基盤へ写し取るだけでは、非効率な業務まで一緒に持ち込んでしまいます。刷新を機に業務そのものを見直す姿勢が、投資効果を最大化します。

生産管理は、工程・品質・在庫・原価が複雑に絡み合う領域です。だからこそ、刷新の前に現行業務を可視化し、ムダや属人化したプロセスを洗い出す工程が欠かせません。イオングループの事例は、システム刷新の成否が着手前の業務分析でほぼ決まるという普遍的な教訓を示しています。

運用基盤を可視化したユニリタの事例

ユニリタの事例は、刷新後のシステム運用をいかに効率化するかという観点で参考になります。同社は、約200種・30,000台のネットワーク機器と10,000台規模のサーバーから、1日あたり約10億件にのぼる通信ログを集計する仕組みを構築しました(出典:ユニリタ)。膨大な機器とログを可視化することで、運用の実態を定量的に把握できる基盤を整えたのです。

この可視化によって、保守費が高くつく機器を特定し、運用の作業負担を従来の5分の1にまで圧縮しました。さらに、数億円規模の投資対効果を生み出したと報告されています。可視化されていなければ「なんとなく動いている」で済まされていたコストや非効率が、データとして明らかになったことで打ち手を打てるようになった好例です。

生産管理システムの刷新においても、刷新後にIoTやMESから集まる工程データ・設備データを可視化できる基盤を併せて整えることが、効果を持続させる鍵になります。刷新を機にデータの収集と可視化の仕組みを組み込んでおけば、ボトルネック工程の特定や保守コストの最適化を継続的に進められます。ユニリタの事例は、刷新を「終わり」ではなく「データ活用の出発点」と捉える発想の重要性を示しています。

成功事例から学ぶ生産管理刷新の教訓

成功事例から学ぶ生産管理刷新の教訓

ここまで紹介してきた成功事例には、いくつかの共通点があります。それは、現場を止めずに段階的に進めること、着手前に業務を分析・可視化すること、そして効果を数字で測ることの3つです。最後に、これらの教訓を整理し、あわせて移行計画の不備が招くリスクにも軽く触れておきます。成功事例の裏返しとして、避けるべき落とし穴を知っておくことも大切です。

成功事例に共通する3つの要因

成功事例から抽出できる第一の要因は、段階的な置き換えです。中心事例のCOBOL刷新では、全面同時刷新を避け、夜間バッチや原価計算といったクリティカルな領域から優先的に作り替えました。稼働中のシステムと並走させながら少しずつ移していくことで、現場を止めずにリスクを抑えた移行を実現しています。生産管理は止められないシステムだからこそ、この段階的なアプローチが有効です。

第二の要因は、着手前の業務分析と可視化です。イオングループが業務プロセス分析を先行させて月間700時間を削減し、ユニリタが運用基盤を可視化して作業負担を5分の1にしたように、刷新の効果は事前の分析と可視化の質に大きく左右されます。何を残し何を作り替えるかを見極める工程こそが、刷新の成否を分ける分水嶺となります。

第三の要因は、効果を数字で測ることです。中心事例が夜間バッチ80%短縮・保守費65%削減という形で成果を定量化したように、効果を数値で示せれば社内の合意形成も投資判断も進めやすくなります。刷新前に評価指標を定め、刷新後に変化を測れる仕組みを組み込んでおくことが、投資を回収し次の改善につなげる近道です。

移行計画の不備が招くリスクという反面教師

成功事例の教訓をより鮮明にするために、移行計画の不備が招いた事例にも軽く触れておきます。江崎グリコでは、基幹システムの切り替え時に発生した障害により、チルド商品の全品出荷が停止する事態に至りました(出典:江崎グリコ)。移行計画の詰めの甘さが原因とされており、システム刷新がいかに移行設計に依存しているかを物語る事例です。

この反面教師が示すのは、成功事例が実践していた「段階的な置き換え」と「現場を止めない並走」の重要性です。一度に全面切り替えを行えば、想定外の障害が起きたときに業務全体が止まってしまいます。生産管理システムでも、全面同時カットオーバーは出荷停止や生産ライン停止という重大な事故に直結しかねません。成功事例が堅実な段階移行を選んだのは、まさにこのリスクを避けるためでした。

なお、失敗事例の深掘りそのものは本記事の主題ではありません。ここで押さえておきたいのは、成功事例の進め方が、こうした移行リスクを回避する設計として理にかなっているという点です。段階的に区切り、並走させ、効果を測りながら進めるという地道なアプローチこそが、出荷停止のような事故を防ぎ、刷新を成功へ導く王道だと言えます。

まとめ

まとめ

本記事では、生産管理システムのモダナイゼーションの成功事例について、具体的な数字とともに解説しました。中心事例として取り上げた従業員約1,200名の製造業は、ブラックボックス化したCOBOL基幹系を約16ヶ月で刷新し、夜間バッチ処理を8時間から90分へと80%短縮、サーバー保守費を年2,400万円から850万円へと65%削減しました。あわせて、業務プロセス分析を先行させて月間700時間を削減したイオングループ、運用基盤を可視化して作業負担を5分の1にしたユニリタの事例を紹介し、移行計画の不備が招いた江崎グリコの出荷停止も反面教師として取り上げました。背景には、レガシー放置で年間最大12兆円の損失リスクを指摘する「2025年の崖」(出典:経済産業省)と、約7割の企業が抱えるレガシー化課題(出典:JUAS)があります。

成功事例に共通するのは、現場を止めずに段階的に置き換えること、着手前に業務を分析・可視化すること、効果を数字で測ることの3つです。生産管理システムの刷新は、工程実績収集や品質トレーサビリティ、原価計算、IoT・MES連携といった製造業固有の業務が複雑に絡むだけに、進め方を誤れば出荷停止のような重大事故にもつながります。だからこそ、先行事例が実践した堅実なアプローチに学ぶ価値があります。自社での刷新をご検討の際は、まず現行業務を可視化してクリティカルな領域を特定し、稼働中のシステムと並走させながら段階的に置き換える計画から始めてみてください。先行事例に学びながら、自社ならではの成功事例を築いていきましょう。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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