基幹システム/ERPのモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法(リホスト/リプラットフォーム/リファクタリング等)の一覧について

基幹システムやERPのモダナイゼーションを検討し始めると、「リホスト」「リプラットフォーム」「リファクタリング」といった専門用語が次々と出てきて、自社のシステムにはどの手法が適しているのか判断に迷う方が多いのではないでしょうか。刷新と一口に言っても、その対象範囲や手法は多岐にわたり、選択を誤ると費用が膨らんだり、期待した効果が得られなかったりするリスクがあります。手法ごとの特徴を正しく理解することが、刷新プロジェクト成功の第一歩です。

本記事では、基幹システム/ERPのモダナイゼーションの対象範囲と、標準的な手法である「7R」を体系的に整理して解説します。リホストからリプレースまで7つの手法それぞれの特徴・費用・期間・適したケースを比較し、システム全体に単一手法を当てはめるのではなく「ポートフォリオアプローチ」で組み合わせる考え方までお伝えします。手法選定の前提となる全体像や進め方を確認したい方は、基幹システム/ERPのモダナイゼーションの完全ガイドもあわせてご覧ください。本記事は新規開発の機能一覧ではなく、既存システムを刷新する際の対象範囲と手法という観点で構成しています。

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モダナイゼーションの対象範囲とは

モダナイゼーションの対象範囲とは

基幹システム/ERPのモダナイゼーションを正しく進めるためには、まず「何を対象とするのか」という範囲を明確にすることが重要です。モダナイゼーションは単にプログラムを書き換えることだけを指すのではなく、アプリケーション・データ・インフラ・業務プロセスという複数のレイヤーにまたがる取り組みです。どこまでを刷新の対象とするかによって、手法も費用も期間も大きく変わってきます。

刷新対象となる4つのレイヤー

モダナイゼーションの対象範囲は、大きく4つのレイヤーに整理できます。1つ目は「インフラ層」で、オンプレミスのサーバーやメインフレームをクラウドへ移行する領域です。2つ目は「アプリケーション層」で、COBOLなどのレガシー言語で書かれたプログラムをJavaやモダンな言語へ書き換える領域です。3つ目は「データ層」で、長年蓄積されたマスタデータやトランザクションデータを整理・移行する領域です。そして4つ目が「業務プロセス層」で、システムが支える業務フローそのものを標準化・最適化する領域です。

これら4層のうち、どこに課題があり、どこを優先的に刷新するのかを見極めることが手法選定の出発点になります。たとえば「保守費を下げたい」のであればインフラ層のクラウド移行が中心になりますし、「機能追加の俊敏性を高めたい」のであればアプリケーション層の再構築が必要になります。課題とレイヤーを対応づけて考えることが、無駄のない刷新計画につながります。

ERP刷新ならではの対象範囲

ERP(統合基幹業務システム)の刷新では、一般的なシステム刷新に加えて特有の対象範囲が存在します。SAP S/4HANAへの移行を例にとると、財務会計・管理会計・販売管理・購買管理・在庫管理・生産管理といった業務モジュール全体が刷新対象となります。さらに、これまで現行システムで作り込んできた「アドオン(追加開発)」をどう扱うかが大きな論点になります。標準機能で代替できるアドオンは廃止し、本当に必要なものだけを移植するという取捨選択が、ERP刷新の対象範囲を定義するうえで欠かせません。

SAP 2027年問題により多くの企業がS/4HANAへの移行を迫られていますが、これは単なるシステム更改ではなく、業務プロセスを標準に合わせる「Fit to Standard」への転換を含む全社的な取り組みです。対象範囲を業務モジュール・アドオン・マスタデータ・インターフェース連携まで広く捉えることが、ERP刷新を成功させる前提となります。

モダナイゼーションの標準手法「7R」一覧

モダナイゼーションの標準手法7R一覧

クラウド移行やシステム刷新の手法を体系化したフレームワークとして、AWSが提唱する「7R」が広く知られています。7Rとは、Rehost(リホスト)、Relocate(リロケート)、Replatform(リプラットフォーム)、Repurchase(リパーチェス)、Refactor(リファクタリング)、Retire(リタイア)、Retain(リテイン)という7つの選択肢を指します。それぞれ移行の深さやコスト、得られる効果が異なるため、対象システムごとに最適な手法を選ぶことが重要です。

リホスト・リロケート・リプラットフォーム

「リホスト(Rehost)」は、既存のアプリケーションをほぼそのままクラウドのサーバーへ移し替える手法で、「リフト&シフト」とも呼ばれます。プログラムの中身を変更しないため移行リスクが低く、期間も短く済むのが特徴です。費用相場は数百万〜1,000万円台、期間は3〜6ヶ月程度が目安で、まずはオンプレミスの保守負担から脱却したい企業に適しています。「リロケート(Relocate)」は、仮想化環境を別のクラウド基盤へそのまま移す手法で、移行作業をさらに簡素化できます。

「リプラットフォーム(Replatform)」は、リホストに少し手を加え、データベースをクラウドのマネージドサービスに置き換えるなど、一部を最適化しながら移行する手法です。アプリケーションの基本構造は維持しつつ、運用効率やコストの改善を狙えるバランスの取れた選択肢です。これら3つは比較的短期間・低リスクで実施できるため、レガシー化の課題に対する第一歩として選ばれることが多い手法です。

リファクタリング・リパーチェス

「リファクタリング(Refactor)」は、アプリケーションのソースコードやアーキテクチャを抜本的に作り直す手法です。マイクロサービス化やクラウドネイティブな構造への再設計を伴うため、最も効果が大きい反面、費用と期間も大きくなります。再構築型は2,000万円以上、期間は12〜18ヶ月以上を要することが一般的で、機能追加の俊敏性や拡張性を根本から高めたい企業に適しています。COBOLからJavaへの言語変換を含む大規模な刷新もこのカテゴリに含まれます。

「リパーチェス(Repurchase)」は、自社で作り込んだシステムを捨てて、市販のSaaSやパッケージ製品へ乗り換える手法です。たとえば独自開発の販売管理システムを、クラウド型ERPやSaaS型の業務システムに置き換えるケースが該当します。自社開発・保守の負担から解放され、ベンダーが提供する最新機能を継続的に利用できる点がメリットですが、自社業務をパッケージの標準に合わせる必要があるため、業務プロセスの見直しが前提となります。

リタイア・リテイン

「リタイア(Retire)」は、すでに使われていない、あるいは役割を終えたシステムを廃止する選択肢です。刷新というと「作り直す」ことばかりに目が向きがちですが、実は資産棚卸しをすると、もはや不要なシステムが稼働し続けて保守費を消費していることが少なくありません。これらを思い切って廃止することも、立派なモダナイゼーションの一手です。「リテイン(Retain)」は、現時点では刷新せず、現状を維持する選択肢です。移行リスクが高い、あるいは近い将来に廃止予定があるなどの理由で、あえて手を加えない判断を指します。

なお、IPA(情報処理推進機構)はこれとは別に「リビルド・リライト・リホスト・ハードウェア更改」という4分類も示しています。7Rと4分類は重なる部分もありますが、いずれも「既存システムをどう扱うか」を整理するための枠組みです。重要なのはフレームワークの名称ではなく、自社システムの一つひとつに対して最適な扱い方を判断することにあります。

手法ごとの費用・期間と選び方

手法ごとの費用・期間と選び方

7つの手法は、それぞれ費用・期間・得られる効果のバランスが異なります。手法を選ぶ際は、自社の課題・予算・許容できる移行リスク・期待する効果を総合的に照らし合わせて判断する必要があります。ここでは費用と期間の目安、そして選定の考え方を整理します。

費用・期間の相場感

手法別の費用・期間の目安を整理すると次のようになります。
・クラウド移行型(リホスト等):数百万〜1,000万円台、3〜6ヶ月
・再構築型(リビルド・リファクタリング等):2,000万円〜数千万円規模、12〜18ヶ月以上
・小〜中規模の単一業務システム全体:3,000万〜1.5億円(このうちSI費が60〜75%を占める)
・中〜大規模の基幹+複数周辺システム:1.5億〜5億円

このように、移行の深さが増すほど費用と期間は大きくなります。特に再構築型は効果が大きい一方で投資規模も大きいため、投資対効果を慎重に見極める必要があります。

注意したいのは、システム刷新の費用の大半をSI費(システムインテグレーションにかかる人件費)が占めるという点です。小〜中規模の刷新ではSI費が全体の60〜75%にのぼることもあり、ライセンス費やハードウェア費よりも、設計・開発・移行に関わる人的コストが費用を左右します。手法選定の際は、この人的コストを抑えられるかどうかも重要な判断軸になります。

手法を選ぶための判断軸

手法を選ぶ際の判断軸は、大きく3つあります。1つ目は「課題の深さ」です。保守費削減が主目的ならリホストで十分ですが、機能の俊敏性まで求めるならリファクタリングが必要になります。2つ目は「予算と期間の制約」です。短期間・低予算で成果を出したいならクラウド移行型、時間と予算をかけても根本改善したいなら再構築型を選びます。3つ目は「移行リスクの許容度」です。基幹システムのように業務停止が許されないシステムでは、リスクの低い手法を選び、段階的に移行することが定石です。

これらの判断軸を踏まえると、多くの場合は「まずリホストでクラウドへ移し、その後段階的にリファクタリングする」という二段構えのアプローチが現実的です。一度に理想形を目指すのではなく、リスクとコストを抑えながら段階的に高度化していく進め方が、刷新を着実に成功へ導きます。

単一手法ではなくポートフォリオで組み合わせる

単一手法ではなくポートフォリオで組み合わせる

基幹システムやERPは複数のサブシステムや業務領域から構成されているため、システム全体に単一の手法を当てはめるのは現実的ではありません。重要なのは、システムを構成要素ごとに分解し、それぞれに最適な手法を割り当てる「ポートフォリオアプローチ」です。

ポートフォリオアプローチの考え方

ポートフォリオアプローチとは、保有するシステム資産を一覧化し、それぞれのビジネス上の重要度・技術的な負債・改修頻度などを評価したうえで、システムごとに7Rのいずれかを割り当てる考え方です。たとえば、競争優位の源泉となるコア業務システムはリファクタリングで根本から作り直し、汎用的な業務はSaaSへのリパーチェスで置き換え、利用頻度の低いシステムはリタイアで廃止する、といった具合に使い分けます。これにより、限られた予算とリソースを最も効果の高い領域に集中投下できます。

S/4HANA移行においても、この発想は有効です。標準機能で代替できる業務はFit to Standardで標準化し、自社の競争力に直結する独自業務だけをアドオンや拡張開発で残すという取捨選択が、移行コストの抑制と効果の最大化を両立させます。全てを一律に扱うのではなく、メリハリのある投資判断こそがポートフォリオアプローチの本質です。

手法選定の前提となる資産の可視化

ポートフォリオアプローチを実践するには、まず保有システム資産の可視化が欠かせません。どのシステムが、どの技術で構成され、どれだけの依存関係を持ち、どれだけの保守費がかかっているのかが見えなければ、手法の割り当ては判断できません。富士通が提供する「ソフトウェア地図」のように、アプリケーション資産の複雑度や依存関係を可視化するツールを活用すれば、ブラックボックス化したシステムの全体像を客観的に把握できます。

資産の可視化は、手法選定の精度を高めるだけでなく、刷新の優先順位づけや投資対効果の試算にも役立ちます。「どこから手をつけるべきか」「どこにコストが集中しているか」が数字で見えることで、経営層への説明や予算確保も格段に進めやすくなります。手法を論じる前に、まず自社資産の棚卸しと可視化から始めることが、ポートフォリオアプローチの確かな出発点となります。

まとめ

モダナイゼーション手法のまとめ

本記事では、基幹システム/ERPのモダナイゼーションの対象範囲と、標準的な手法である7R(リホスト・リロケート・リプラットフォーム・リパーチェス・リファクタリング・リタイア・リテイン)を体系的に解説しました。刷新の対象はインフラ・アプリケーション・データ・業務プロセスの4層にわたり、ERP刷新では業務モジュールやアドオンの扱いが特有の論点となります。手法ごとに費用・期間・効果が異なり、クラウド移行型は数百万円から3〜6ヶ月、再構築型は2,000万円以上で12〜18ヶ月以上が目安です。

最も重要なのは、システム全体に単一手法を当てはめるのではなく、構成要素ごとに最適な手法を割り当てる「ポートフォリオアプローチ」を取ることです。そのためには保有資産の可視化が前提となり、課題の深さ・予算と期間の制約・移行リスクの許容度という3つの判断軸で手法を選定していきます。SAP 2027年問題に代表されるように刷新のタイムリミットは迫っています。自社に最適な手法の組み合わせを見極めるには、刷新支援の実績を持つパートナーへ相談し、資産の可視化から計画策定までを伴走してもらうことをお勧めします。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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