介護・福祉業界のシステム開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて

介護・福祉業界でシステム導入を検討するとき、成功事例以上に学びが大きいのが「なぜ失敗したのか」というリアルな経験です。多額を投じて導入したシステムが現場に使われない、データ移行でトラブルが起きる、情報漏えいが発生する、システムが止まってケアが回らなくなる——こうした失敗は、決して他人事ではありません。むしろ、起こりがちな失敗のパターンをあらかじめ知っておくことが、これから投資する事業者にとって何よりの保険になります。

本記事は、介護・福祉業界のシステム導入・開発における失敗・課題・注意点・リスクを、導入する事業者側の視点から掘り下げる「失敗・リスク特化」の内容です。現場に使われず形骸化するリスク、安さ優先による連携不全と二重入力、データ移行と一斉切り替えの事故、情報漏えい、そしてシステム停止時のBCP不備まで、他業界の具体的な失敗事例も交えて警鐘を鳴らします。なお、介護・福祉業界のシステムの全体像をまだ把握していない方は、まず介護・福祉業界のシステムの完全ガイドから読むことをおすすめします。全体像を踏まえると、各リスクの位置づけが明確になります。

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現場に使われず形骸化するリスク

現場に使われず形骸化するリスクのイメージ

介護・福祉システムでもっとも多い失敗が、「導入したのに現場に使われない」という形骸化です。高機能なシステムを入れても、現場のスタッフが使いこなせなければ、結局は従来の紙やホワイトボードに戻ってしまいます。介護関係者50名を対象にした調査では、ICTを「知らない」が74%、「聞いたことがある」が20%、「理解がある」はわずか6%でした。この現実を無視して導入を進めると、形骸化のリスクは一気に高まります。

現場ヒアリングを欠いた丸投げ導入の失敗

形骸化の根本原因は、現場の業務実態を把握しないまま、ベンダーに開発や選定を丸投げすることにあります。介護・福祉のケアは、利用者ごとの細かな配慮や、長年の現場の慣行の積み重ねでできています。それを無視して理想論だけでシステムを作ると、現場の動線と噛み合わず、誰も使わなくなります。他業界では、現場ヒアリングやあるべき業務の姿(ToBeモデル)の検討を十分に行わず開発を丸投げした結果、1億円を投じたシステムが2年間放置され廃止になった事例もあります。

この失敗を避けるには、導入の前に現場のスタッフ・看護師・ケアマネジャー・事務職員へヒアリングを徹底し、現状(AsIs)の業務と困りごとを可視化することが不可欠です。「いくら投資したか」ではなく「現場の業務にどれだけ寄り添ったか」が成否を決める、というのが多くの失敗が教える原則です。現場が「これは楽になる」と実感できる設計でなければ、システムは飾りになります。導入額の大きさは、決して成功を保証しません。

納品で伴走が終わり利用率が下がる悪循環

もう一つの形骸化パターンが、納品時点でベンダーの伴走が終わり、現場が使いこなせないまま利用率が下がっていく悪循環です。導入直後は研修を受けて使っていても、操作に詰まったときに聞ける相手がいなくなると、徐々に入力が滞り、やがて紙のやり方に戻ってしまいます。介護現場は人の入れ替わりが起きやすく、新人が使い方を教わらないまま放置されると、利用率はさらに下がります。

このリスクを避けるには、導入後も利用状況のログを定期的に確認し、使われていない機能や入力されていない項目を見つけて、現場にヒアリングしながら運用を改善し続ける継続的なオンボーディングが欠かせません。新人向けのマニュアル整備や定期研修を運用に組み込み、人が入れ替わっても利用率が下がらない体制を作ることが重要です。「入れて終わり」のベンダーではなく、「使われ続けるまで伴走する」姿勢があるかどうかが、形骸化を防ぐ分かれ目になります。

多機能を詰め込みすぎて使いこなせない失敗

形骸化のもう一つのパターンが、機能を欲張って詰め込みすぎる失敗です。「せっかく導入するなら」と多機能なシステムを選んだものの、ICTに不慣れな現場では使いこなせず、結局は一部の機能しか使われない、というケースは少なくありません。機能が多いほど画面は複雑になり、操作の習得も難しくなります。豊富な機能が、かえって現場の負担を増やし、定着を妨げる皮肉な結果を招きます。

この失敗を避けるには、自施設の業務に本当に必要な機能を見極め、まず必須機能だけで小さく始めることが有効です。現場が無理なく使える範囲から導入し、慣れてきたら機能を段階的に広げていく。最初からフル機能を一気に展開しようとすると、現場が消化不良を起こします。「機能の多さ」が成功を保証するわけではなく、むしろ「現場が使いこなせる範囲に絞る勇気」が定着の鍵になります。要件定義の段階で、機能の優先順位を冷静につけることが、過剰機能による形骸化を防ぎます。

安さ優先による連携不全と二重入力のリスク

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費用を抑えたい気持ちは当然ですが、安さだけを優先したシステム選定は、かえって高くつくリスクをはらみます。とりわけ介護・福祉では、見守りセンサーやナースコール、既存の請求ソフトなど、複数のシステムや機器が連携して動くため、連携を軽視した選定が深刻な業務障害を招きます。導入時の価格だけでなく、既存環境とどう連携するかを見極めることが、後の二重入力やトラブルを防ぎます。

連携不可で二重入力が発生し投資が全損した失敗

他業界の医療分野では、安さを優先して導入したシステムが既存システムと連携できず、結局は同じ情報を二つのシステムに入力する二重入力が発生した事例があります。現場の負担はかえって増え、最終的にはシステムを入れ替えることになり、入れ替え費用と移行負担が二重にかかって投資がほぼ全損したというのです。安く買ったはずが、もっとも高い買い物になってしまった典型例です。

介護・福祉でも、同じリスクは十分にあり得ます。既存の請求ソフトや見守り機器と連携できないシステムを入れると、記録を二度入力する羽目になり、効率化どころか負担増になります。選定時には、価格だけでなく「自施設の既存環境とデータ連携できるか」を最優先で確認すべきです。連携の可否は、導入後に取り返しのつかない差を生みます。目先の安さに飛びつく前に、連携の検証を怠らないことが鉄則です。

マルチベンダーの責任分界が曖昧な失敗

複数のベンダーや機器が組み合わさるマルチベンダー環境では、障害が起きたときに「どこに原因があるのか」の切り分けが難しく、各社が責任を押し付け合って復旧が遅れるリスクがあります。他分野では、接続エラーが起きるたびに発注側が自ら原因の切り分けを強いられ、本来の業務に支障が出た実態が報告されています。責任の所在が曖昧なまま契約すると、トラブル時に誰も助けてくれない事態に陥ります。

このリスクを防ぐには、契約段階で各ベンダーの責任範囲と責任分界点を明記し、SLA(サービス品質保証)として障害時の一次対応窓口を一本化しておくことが重要です。切り分けの主導権を誰が持つかを定めておけば、トラブル時の混乱を避けられます。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発の立場から、こうした連携の検証と責任分界の設計まで含めて、トラブルに強いシステム構築を支援しています。連携と責任分界は、安さと引き換えにしてはならない論点です。

報酬改定への追従が遅れて請求が滞るリスク

介護報酬は3年ごとに改定され、加算の新設や算定要件の変更が頻繁に行われます。安さだけで選んだシステムの中には、こうした制度改定への対応が遅い、あるいは対応に高額な追加費用を求めるものがあります。改定への追従が遅れると、最新の加算を算定できなかったり、誤った報酬で請求して返戻が発生したりと、収益に直接的な打撃を受けます。制度改定は避けられないため、追従の速さは選定時に必ず確認すべき点です。

このリスクを防ぐには、契約段階で報酬改定への対応がどの範囲まで保守に含まれるか、改定時の対応スケジュールはどうなるかを明確にしておくことが重要です。LIFE対応や、令和8年度改定で設定される電子的診療情報連携体制整備加算(加算1=15点・加算2=9点・加算3=4点)といった最新制度への対応実績があるかも、判断材料になります。「導入時は安かったが、制度が変わるたびに高額な改修費がかかる」という構造に陥らないよう、改定対応の条件を事前に見極めることが肝心です。

データ移行・一斉切り替えと情報漏えいのリスク

データ移行・一斉切り替えと情報漏えいのリスクのイメージ

システムの切り替えに伴うデータ移行と、移行直後の混乱も、見落とされがちなリスクです。さらに、機微な個人情報を扱う介護・福祉では、情報漏えいが事業継続に致命的な打撃を与えます。これらは、いずれも準備不足から起きる「防げたはずの失敗」であり、事前の対策が極めて重要です。

一斉切り替えと研修不足で現場が麻痺した失敗

新システムへの切り替えを、ある日を境に一斉に行うのは大きなリスクを伴います。他業界の医療分野では、電子カルテを一斉移行した初日に、操作に偏重した研修しか行っていなかったために、外来の待ち時間が平均3倍に膨らみ、クレームが殺到した事例があります。新しい操作に現場が慣れていない状態で本番を迎えると、業務が麻痺し、利用者にしわ寄せが及びます。

このリスクを避けるには、新旧システムを一定期間並行稼働させ、段階的に切り替える計画と、操作だけでなく実際の業務フローに即した十分な研修が不可欠です。あわせて、移行前のデータクレンジングを怠ると、重複データや誤ったデータがそのまま引き継がれ、誤表示や請求ミスを招きます。他業界では、クレンジング未実施で未納データが誤表示された事例もあります。移行は「データを移すだけ」と軽視せず、クレンジングと検証、段階的切り替えをセットで計画すべきです。

設定ミスによる個人情報漏えいのリスク

介護・福祉システムは、利用者の病歴・服薬・要介護度といった極めて機微な個人情報を扱います。これらが外部に漏れれば、利用者や家族からの信頼を失い、地域での評判という事業の生命線を損ないます。他業界では、アクセス権限の設定をベンダー任せにした結果、患者の個人情報が外部から閲覧できる状態になっていた事例があります。設定ミス一つが、重大な漏えいに直結するのです。

このリスクを防ぐには、アクセス権限や公開範囲の設定をベンダー任せにせず、発注側が主体的に確認することが重要です。職種・役割ごとの閲覧範囲を明確に定義し、誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録する監査ログを整備します。データの暗号化やバックアップ、不正アクセス対策も欠かせません。情報漏えいは「起きてから対処する」では取り返しがつかないため、導入時のセキュリティ設定こそ最優先で検証すべき領域です。

システム停止時のBCP不備というリスク

システム停止時のBCP不備というリスクのイメージ

システム化を進めるほど見落とされがちなのが、システムが止まったときのリスクです。介護・福祉のケアは24時間365日止められません。記録や情報共有をシステムに依存している状態で、停電・ネットワーク障害・サイバー攻撃などによってシステムが使えなくなると、ケアそのものが回らなくなります。便利になればなるほど、その停止が大きな打撃になるという逆説に備える必要があります。

紙運用への切り替え手順を用意していない失敗

システム停止時の最大の失敗は、紙やアナログでケアを継続する手順を一切用意していないことです。普段システムに頼り切っていると、いざ止まったときに「何をどう記録すればいいのか」「どの情報をどこで確認すればいいのか」が分からず、現場が混乱します。バイタルや服薬の情報にアクセスできなければ、利用者の安全に直結します。デジタル化を進めるからこそ、その停止を前提とした備えが不可欠です。

対策として、システムが使えない間も最低限のケアを継続できるよう、紙の記録フォーマットや手作業の運用フローをあらかじめ用意しておきます。停電やネットワーク障害を想定したアナログ運用への切り替え手順を明文化し、定期的に「アナログ訓練」を行うことで、いざというときに現場が落ち着いて対応できます。重要な情報の定期的な紙への出力やバックアップも、停止時の命綱になります。BCP(業務継続計画)は、システム導入とセットで整備すべき必須項目です。

運用コスト肥大化という見えにくいリスク

最後に、導入後に静かに進行する「運用コストの肥大化」というリスクにも触れておきます。公共分野のシステム標準化では、運用経費が移行前後で平均2.3倍、最大5.7倍に膨らんだ事例が報告されています。中核市59市の調査では、移行前平均3億3,800万円が移行後6億8,400万円へと増加しました。介護・福祉でも、機能追加や利用規模の拡大、保守費用の上昇によって、運用コストが当初想定を超えて膨らむ可能性があります。

このリスクを抑えるには、契約段階で改修費用の単価や規模拡大時の料金体系を確認し、初期費用だけでなくTCO(総保有コスト)で投資を評価することが重要です。「初期は安いが改修のたびに高額」という構造を見抜けないと、運用フェーズでじわじわと負担が増します。導入後も運用コストを定期的に点検し、無駄を見直す姿勢が欠かせません。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、形骸化・連携不全・移行事故・漏えい・BCP不備・コスト肥大という一連のリスクを見据えた、現実的なシステム構築と運用伴走を支援します。

ベンダーロックインで身動きが取れなくなるリスク

運用コストの肥大化とも関係する見えにくいリスクが、特定のベンダーに過度に依存する「ベンダーロックイン」です。データの形式が独自仕様で外部に持ち出せなかったり、改修を頼めるのがそのベンダーだけだったりすると、料金や対応に不満があっても他社へ乗り換えられず、言い値を受け入れざるを得なくなります。長く使うシステムだからこそ、この依存のリスクは導入時に見極めておくべきです。

このリスクを防ぐには、契約段階でデータの所有権やエクスポート(外部出力)の可否を確認し、いざというときに自施設のデータを取り出して他システムへ移せる状態を担保しておくことが重要です。標準的なデータ形式での出力に対応しているか、契約終了時のデータ引き渡し条件はどうなっているかを、あらかじめ取り決めておきます。乗り換えの自由を確保しておくことは、結果としてベンダーとの健全な関係を保ち、不当なコスト増を抑える歯止めにもなります。便利さの裏で身動きが取れなくならないよう、出口戦略まで考えておくことが賢明です。

ここまで見てきた失敗・リスクは、どれも「導入後」に表面化する点で共通しています。導入時の華やかな機能や安さだけに目を奪われ、運用フェーズで起こりうる事態への備えを怠ると、後から大きな代償を払うことになります。だからこそ、システム選びでは「うまくいったときの絵」だけでなく「うまくいかなかったときにどう支えてもらえるか」を問うことが欠かせません。リスクを正しく恐れ、備えのあるベンダーと組むことが、失敗を避ける最大の防御策になります。

まとめ

介護福祉業界のシステム失敗・リスクのまとめイメージ

介護・福祉業界のシステム導入の失敗・リスクを整理すると、(1)現場ヒアリングを欠いた丸投げと伴走不足による形骸化、(2)安さ優先による連携不全・二重入力とマルチベンダー責任分界の曖昧さ、(3)一斉切り替え・クレンジング不足によるデータ移行事故と設定ミスによる情報漏えい、(4)システム停止時のBCP不備と運用コストの肥大化、という四つの領域に集約されます。いずれも他業界の具体的な失敗が示すとおり、準備不足から起きる「防げたはずの失敗」です。

これらのリスクに共通する教訓は、「投資額の大きさや機能の多さではなく、現場の業務に寄り添い、連携・移行・セキュリティ・BCPという泥臭い実務まで備えられるか」が成否を分けるという点です。ICTを「知らない」現場が74%、運用経費が平均2.3倍に膨らんだ事例は、その代償の大きさを物語っています。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、現場起点の設計から運用伴走、リスクヘッジまでを一貫して支援します。リスクを正しく恐れ、備えるために、全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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