ビデオ通話アプリの導入/開発事例や活用/成功事例について

ビデオ通話アプリの開発を検討するとき、多くの事業責任者がまず知りたいのは「同じようにリアルタイムの映像・音声をやり取りするサービスが、実際にどんな技術構成で作られ、どこでつまずき、どう成果を出したのか」という具体的な事例ではないでしょうか。ビデオ通話は、WebRTCをはじめとするリアルタイム通信技術と、それを支える配信インフラの設計が品質を決定づけます。机上の費用相場だけを眺めても、自社のサービスが「数人の1対1通話」なのか「数十人が同時に映る大規模配信」なのかによって、最適な作り方はまるで変わってきます。だからこそ、自社の用途に近い導入事例・開発事例を知ることが、投資判断の精度を大きく高めてくれます。

本記事は、ビデオ通話・配信系アプリの導入事例・開発事例・活用事例・成功事例を、発注企業の視点から技術的に掘り下げる「事例特化」の解説です。WebRTC単独運用で音声が途切れた課題を外部SDK(Agora)への切替で解決した事例、Amazon IVS単一依存のリスクを複数配信基盤の動的選択で回避した事例、スピーカーはWebRTC・リスナーはHLSというハイブリッド構成、通信スループットを80%以上の精度で予測して画質を適応制御した事例まで、一次データとあわせて具体的に解説します。読み終えるころには、自社のビデオ通話アプリを「どんな配信基盤で、どう冗長化して作るべきか」のイメージが描けるはずです。なお、ビデオ通話アプリ開発の全体像をまだ把握していない方は、まずビデオ通話アプリ開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。

WebRTC音声途切れを外部SDK切替で解決した事例

WebRTC音声途切れを外部SDK切替で解決したビデオ通話事例のイメージ

ビデオ通話・音声配信アプリで最初に直面しやすいのが、WebRTCを自前で運用したときの「音声途切れ」「品質劣化」という壁です。WebRTCはブラウザやアプリ間でリアルタイム通信を実現する強力な技術ですが、ネットワークの変動が大きいモバイル環境では、パケットロスや遅延の影響をまともに受けてしまいます。この課題を外部SDKへの切替で乗り越えた代表例が、音声配信アプリのstand.fmです。

WebRTC単独運用の限界と原因切り分けの難しさ

stand.fmは導入当初、WebRTCを使って配信を実装していましたが、音声が途切れるトラブルに悩まされていました(出典:Agora導入事例)。やっかいだったのは、その途切れの原因が「ユーザーの端末側」なのか「ネットワーク側」なのか、それともサーバー側なのかを切り分ける手段がなかったことです。リアルタイム通信は一瞬の品質劣化がそのまま体験を損なうため、原因が特定できないまま放置されると、ユーザーの離脱に直結します。これはWebRTCを自前で抱え込む多くの企業が共通して直面する運用課題です。

ビデオ通話アプリでも事情は同じです。映像と音声の両方をリアルタイムに同期させる必要があるため、わずかなジッター(到着間隔のばらつき)やパケットロスが、フリーズや音ズレとして表面化します。自前のWebRTC実装だけでは、こうした品質問題を可視化して計測する仕組みまで作り込む必要があり、開発・運用の負荷が大きくのしかかります。事例が教えるのは、「リアルタイム通信は作って終わりではなく、品質を測り続けられるかどうか」が成否を分けるという点です。

遅延2秒以下・70%パケットロス耐性という一次データ

stand.fmはこの課題を、リアルタイム通信SDKであるAgoraへの切替によって解決しました。Agoraの導入後は、最大70%のパケットロスが発生する劣悪なネットワーク環境でも遅延2秒以下で配信を継続できるようになり、さらにAgora Analyticsによって音声のデシベルレベルまで可視化し、障害の切り分けが可能になったとされています(出典:Agora導入事例)。70%のパケットロスというのは、通常であれば通話が成立しないレベルの劣悪な環境であり、それでも実用的な品質を保てるのは、SDK側が誤り訂正や再送、適応的なコーデック制御を高度に行っているからです。

この事例から発注側が学べるのは、「リアルタイム通信の品質を、すべて自前で作り込むのか、実績ある外部SDKに任せるのか」という最初の意思決定の重要性です。コラボ配信ではライブ最大10人・収録最大4人といった同時接続の上限も、SDKの仕様として明確に設計されています。自社のサービスがどこまでの品質と同時接続数を求めるのかを定義したうえで、自前構築とSDK活用のメリット・デメリットを比較することが、後悔しない技術選定の第一歩です。ビデオ通話アプリに必要な機能を体系的に整理したい場合は、関連記事『ビデオ通話アプリの必要機能や標準機能の一覧について』もあわせてご覧ください。

配信インフラを冗長化・動的選択した事例

配信インフラを冗長化・動的選択したビデオ通話事例のイメージ

サービスの規模が大きくなるほど深刻になるのが、配信基盤の「単一依存リスク」です。一つのクラウドサービスや一つのSDKにすべてを依存していると、その基盤に障害が起きた瞬間にサービス全体が止まってしまいます。この課題に対し、複数の配信基盤を組み合わせ、状況に応じて動的に切り替えるという高度な設計で応えたのが、ライブ配信アプリPocochaを運営するDeNAの事例です。

Amazon IVS単一依存のリスクとTencent併用

DeNAのPocochaは、当初Amazon IVS(Interactive Video Service)を用いて配信を行っていましたが、単一の配信基盤に依存することの障害リスクを重く見て、Tencent CSSなど他社の配信サービスも併用する構成へと進化させました(出典:DeNA技術事例)。配信インフラは、どれだけ堅牢なサービスでも完全に障害ゼロにはできません。だからこそ、片方が落ちてももう片方で配信を継続できる冗長構成が、サービスの可用性を担保する上で決定的に重要になります。

ビデオ通話アプリにおいても、この「冗長化」の発想は規模が大きくなるほど欠かせません。たとえばTURN/STUNサーバ(NAT越えのための中継・経路探索を担うサーバ)が一拠点しかなければ、その拠点の障害で多くのユーザーが接続できなくなります。配信・中継のレイヤーを複数系統で持ち、障害時に自動でフェイルオーバーできる設計にしておくことが、止まらないサービスの前提条件です。事例は、可用性が後付けではなく設計段階から織り込むべきテーマであることを教えてくれます。

Strategyパターンで配信基盤を動的選択した設計

DeNAの事例で技術的に注目すべきは、配信基盤の切替を行き当たりばったりではなく、ソフトウェア設計のパターンで美しく実現している点です。サーバー側では「BroadcastOriginManager」という共通インターフェースを設け、Strategyパターンによって配信インフラを動的に選択できるようにしています。クライアント側でも「LivePlayer」として再生処理を抽象化し、Factoryパターンで使用するSDKを動的に分岐させています(出典:DeNA技術事例)。これにより、新しい配信基盤を追加したり、障害時に別基盤へ切り替えたりする際も、アプリ全体を作り直す必要がありません。

この「抽象化して付け替え可能にする」という設計思想は、発注側にとっても重要な示唆を含みます。特定のSDKやクラウドにべったり依存した作り方をすると、後からコスト見直しや乗り換えをしたくなったときに身動きが取れなくなります。これはベンダーロックインの典型的なリスクです。最初から複数基盤を見据えた抽象化された設計を要件として求めておけば、将来の選択肢を確保できます。riplaはフルスクラッチ受託の立場から、こうした「将来の付け替えに耐える設計」を重視して提案しています。

WebRTC/HLSハイブリッドと適応制御の事例

WebRTC/HLSハイブリッドと適応制御のビデオ通話事例のイメージ

ビデオ通話・配信の品質を突き詰めると、「全員に超低遅延を提供すべきか」「視聴側はある程度の遅延を許容して安定とコストを優先すべきか」という設計判断に行き着きます。この判断を巧みに使い分けた事例が、音声SNS基盤を提供するImageFluxと、適応的な映像制御を実現したNECの取り組みです。

スピーカーはWebRTC・リスナーはHLSのハイブリッド

ImageFluxを用いたClubhouse風の音声SNSでは、発言者(スピーカー)と聴衆(リスナー)で通信方式を使い分けるハイブリッド構成が採られています。会話に参加するスピーカーはWebRTCで遅延0.2〜0.5秒の双方向通信を行い、ただ聴くだけのリスナーには遅延10〜30秒のHLSで配信する、という設計です(出典:ImageFlux技術事例)。WebRTCは双方向で超低遅延ですがサーバー負荷が高く、HLSは遅延が大きい代わりに大人数への配信に強くコストも抑えられます。両者の長所を組み合わせることで、品質とコストのバランスを取っているのです。

技術的に巧妙なのは、CreateMultistreamChannelWithHLSによってWebRTCの映像・音声をHLSへ変換し、キャッシュサーバで配信することで負荷を分散している点です。さらに、リスナーがスピーカーに昇格する瞬間には、HLSを停止してWebRTC接続へ切り替える処理が組み込まれています。ビデオ通話アプリでも、「全員が対等に話す会議」と「一人が話して多数が視聴するウェビナー」では最適な構成が異なります。用途に応じて通信方式を使い分ける、というこの事例の発想は、自社サービスの設計を考える上で大いに参考になります。

スループット予測80%で画質を適応制御した事例

もう一つ、映像品質の適応制御で示唆に富むのがNECの取り組みです。NECは、通信ログの時系列データを混合モデルで解析し、1〜3分先のネットワークスループットを80%以上の精度で予測する技術を開発しました(出典:NEC技術資料)。この予測に基づいて映像を適応的に制御し、HD(1280×720)解像度を0.3〜5Mbpsの帯域、2〜30fpsのフレームレートで動的に切り替えることで、回線が細くなる場面でもノイズの少ない配信を維持しています。

ビデオ通話で「相手の映像が急にカクついた」「いきなり画質が落ちた」という体験は、回線変動への対応が後手に回ったときに起きます。先回りして帯域を予測し、画質・フレームレート・ビットレートを滑らかに調整できれば、ユーザーは品質劣化をほとんど意識せずに会話を続けられます。適応ビットレート制御は、もはやビデオ通話アプリの必須要件と言ってよい領域です。事例が示すのは、リアルタイム通信の品質とは「最高画質を出すこと」ではなく「変動下でも破綻させないこと」だという本質です。

大規模刷新と失敗からの軌道修正の事例

大規模刷新と失敗からの軌道修正のビデオ通話事例のイメージ

サービスが成長すると、初期の技術構成では支えきれなくなり、配信基盤を抜本的に作り替える局面が訪れます。この大規模刷新の進め方と、初期構成の失敗からどう軌道修正するかは、長く使われるビデオ通話アプリを目指すうえで避けて通れないテーマです。

超低遅延の新配信基盤への大刷新事例

ライブ配信サービスのSHOWROOMは、超低遅延の新しい配信基盤への移行を含む4層構成の大規模刷新に取り組みました。AWS・Go・Nuxt・Unityといった技術スタックで刷新を進める中で、Perlからの移行ではJSONの数値型が文字列化してしまうといった躓きも経験しています(出典:SHOWROOM技術事例)。これを乗り越えるため、TypeSpecとOpenAPIを用いたスキーマ駆動開発を採用し、Goのモックを一括自動生成して開発効率を高めています。

この事例が発注側に伝えるのは、配信系サービスは「一度作ったら終わり」ではなく、ユーザー数や品質要求の高まりに応じて基盤を進化させ続ける必要があるという現実です。バーチャルライブ配信アプリのREALITYのように、独自のアバター配信を軸に成長を続ける事例も、その裏側では継続的な技術投資が支えています(出典:CEDiL、CESA一次資料)。最初の設計時から「成長したときにどこを作り替えるか」を見据えておくことが、無理のない拡張につながります。

初期構成の失敗から学ぶ軌道修正のパターン

これまで紹介した事例を貫くのは、「初期の技術選定でつまずいても、適切に軌道修正すれば挽回できる」という前向きな教訓です。stand.fmはWebRTC単独の限界をSDK切替で乗り越え、DeNAは単一依存を冗長構成で解消し、SHOWROOMは旧基盤を新基盤へ刷新しました。いずれも、課題を放置せず、原因を技術的に特定し、構成を作り替えています。逆に言えば、品質劣化や障害の原因が見えないまま放置すると、ユーザーは静かに離れていきます。

発注側として大切なのは、最初から完璧な構成を求めるよりも、「計測できる仕組み」と「付け替えられる設計」を最初に確保しておくことです。品質を数値で可視化できれば原因の切り分けが可能になり、抽象化された設計であれば基盤の乗り換えに耐えられます。失敗・課題・リスクの観点をさらに深掘りしたい方は、関連記事『ビデオ通話アプリ開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて』もあわせてご覧ください。

まとめ

ビデオ通話アプリ事例のまとめイメージ

ビデオ通話・配信系アプリの事例を振り返ると、成功の鍵は「リアルタイム通信の品質を、配信基盤の冗長化と適応制御によって構造的に担保する」という一点に集約されます。stand.fmはWebRTC単独の限界をAgora切替で乗り越え、最大70%のパケットロス下でも遅延2秒以下を実現しました。DeNAのPocochaはAmazon IVS単一依存をTencent併用とStrategyパターンで解消し、ImageFluxはWebRTCとHLSのハイブリッドで品質とコストを両立させ、NECは帯域予測で映像を適応制御しました。いずれも、ネットワーク変動と障害を前提に「壊れにくい構成」を選んでいます。

事例を読むときに大切なのは、「どんな機能があるか」ではなく「変動下でも品質をどう保ったか」という技術的な視点です。自社のサービスが何人で使われ、どこまでの低遅延を求めるのかを定義し、その規模に合った配信方式と冗長構成を最初に選んでください。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、サービス規模から逆算した配信基盤の設計と、安定運用できるシステムづくりを一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、弊社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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