データモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法(リホスト/リプラットフォーム/リファクタリング等)の一覧について

データモダナイゼーションに取り組もうとすると、最初に直面するのが「結局、何をどこまでやればいいのか」という対象範囲の問題です。古いデータベースをそのままクラウドに移すだけでよいのか、データウェアハウスやデータレイクを新たに構築すべきなのか、それともデータの定義や品質、管理ルールから整え直す必要があるのか。手をつける範囲を見誤ると、費用が膨らんだり、刷新したのに活用できないままだったりという結果を招きます。データ基盤の刷新は、対象範囲の設計が成否の半分を決めると言っても過言ではありません。

本記事では、データモダナイゼーションの対象範囲と、標準的な手法の一覧について解説します。AWSが提唱する「7R」と呼ばれる移行・刷新の分類を軸に、データ基盤の載せ替え、データウェアハウス・データレイクへの移行、データ品質・ガバナンスの整備という3つの対象領域を、費用や期間の目安とともに整理します。あわせて、これらをどう組み合わせるかを体系的にまとめたデータモダナイゼーションの完全ガイドもご覧いただくと、全体像の中で各手法を位置づけやすくなります。本記事を読めば、自社のデータ環境にどの範囲・どの手法が適しているかを判断する物差しが手に入ります。

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データモダナイゼーションがカバーする対象範囲

データモダナイゼーションがカバーする対象範囲

データモダナイゼーションは「データベースを新しくする」という単一の作業ではなく、複数の対象領域からなる取り組みです。大きく分けると、データを格納する基盤そのものの刷新、分析のためのデータ集約基盤の構築、そしてデータの定義・品質・管理ルールの整備という3つの領域があります。どこに課題があるかによって、手をつけるべき範囲は変わります。

重要なのは、これらを「全部やる」と決めつけないことです。自社のデータがどこで詰まっているのかを見極め、効果の大きい範囲から着手するのが現実的です。本章では、データモダナイゼーションがカバーする対象範囲を3つの領域に分けて整理します。

データ基盤そのものの刷新(DBとインフラ)

第一の対象範囲は、データを格納している基盤そのもの、すなわちデータベースやそれを支えるインフラの刷新です。オンプレミスのサーバー上で動く古いデータベースや、メーカー独自の形式に依存したストレージは、保守費が高く、拡張も難しく、データの取り出しにも専門知識を要します。これをクラウド上のデータベースやマネージドサービスへ移すことで、運用負荷とコストを下げ、データへのアクセス性を高めます。

この範囲では、現行のデータをそのまま新環境に移すのか、構造を見直しながら移すのかという選択が生まれます。クラウド移行型であれば数百万円から1,000万円台、期間にして3〜6ヶ月程度が目安です。一方、データ構造そのものから作り直す再構築型になると、2,000万円以上・12〜18ヶ月以上を要するケースもあります。まずは「基盤を載せ替えるだけで足りるのか、構造から見直すべきか」を見極めることが出発点になります。

分析基盤への集約(DWH・データレイク移行)

第二の対象範囲は、分析・活用のためにデータを一箇所に集める基盤、すなわちデータウェアハウス(DWH)やデータレイクへの移行です。基幹システム、販売管理、顧客管理など、複数のシステムに散在しているデータを、分析しやすい形で集約します。DWHは整理・構造化されたデータを高速に集計するのに向き、データレイクはログや画像、文書などの非構造データも含めて大量に蓄積するのに向きます。

この範囲の刷新は、前章の事例で見たユニリタの取り組みが典型です。200種・約30,000台の機器と約10,000台のサーバーから1日10億件のログを集約・集計した取り組みは、まさにデータレイク的な発想で散在データを一箇所に集め、可視化につなげたものでした。各システムからどうデータを抽出し、どう整形して集約基盤に流し込むか(データパイプラインの設計)が、この範囲の中核になります。基盤を作るだけでなく、データが継続的に流れ込み続ける仕組みまで設計することが重要です。

データ品質・ガバナンスの整備

第三の対象範囲は、目に見えにくいものの最も成果を左右する「データ品質・ガバナンスの整備」です。どれだけ立派な基盤を作っても、入っているデータの定義がバラバラだったり、誤りや重複が多かったり、誰がどのデータを使ってよいかのルールが曖昧だったりすると、活用は進みません。データの定義を統一し、入力ルールを整え、品質を継続的にチェックし、アクセス権限や管理責任を明確にする。これらがデータガバナンスの中身です。

前章のイオングループの事例が示すように、自動化や活用を進める前にデータと業務の流れを整理したことが月700時間の業務削減につながりました。これはまさにデータ品質・ガバナンスの整備が効果を生んだ例です。この範囲だけを切り出した「データの棚卸しと整備」であれば、200万〜500万円規模から着手することも可能で、基盤刷新の前段として取り組む価値があります。基盤・集約・品質という3領域は、それぞれ独立して効果を出すこともあれば、組み合わせてこそ威力を発揮することもあります。

標準的な手法の一覧:7Rで整理する

標準的な手法の一覧:7Rで整理する

対象範囲が見えたら、次は「どの手法で移行・刷新するか」です。移行手法を整理する代表的なフレームワークが、AWSが提唱する「7R」です。7Rは、リホスト、リロケート、リプラットフォーム、リパーチェス、リファクタリング、リタイア、リテインという7つの選択肢の頭文字を取ったもので、データ基盤の移行方針を考える際の共通言語として広く使われています。本章では、この7Rをデータモダナイゼーションの文脈で解説します。

リホスト・リプラットフォーム(載せ替え型)

リホスト(Rehost)は、現行のデータベースやアプリケーションを大きく作り替えず、そのままクラウド環境などへ移す手法です。「リフト&シフト」とも呼ばれ、移行のスピードが速く、初期費用も抑えやすいのが特徴です。まずオンプレミスのデータ基盤をクラウドへ移してコストと運用負荷を下げ、その後に段階的な改善を進めたい場合に向きます。クラウド移行型として数百万〜1,000万円台、3〜6ヶ月が目安です。

リプラットフォーム(Replatform)は、基本構造は維持しつつ、データベースをクラウド向けのマネージドサービスに置き換えるなど、一部を最適化しながら移す手法です。たとえば自前で運用していたデータベースをクラウドのマネージドDBに切り替えると、バックアップやスケーリングの運用が自動化され、保守の手間が大きく減ります。リホストより少し踏み込んだ最適化を、過大なコストをかけずに実現したい場合の選択肢です。リロケート(Relocate)は、仮想化環境をそのまま別のクラウド基盤へ移す手法で、これらと近い「載せ替え型」に分類できます。

リファクタリング・リパーチェス(作り替え・置き換え型)

リファクタリング(Refactor)は、データの構造やデータベースの設計そのものをクラウドネイティブな形に作り替える手法です。古い設計を引きずったまま移しても活用しにくいデータを、分析しやすい構造へ再設計したい場合に選びます。前章の製造業の事例で、データ資産の棚卸しを起点に古い処理形式を新基盤に作り替え、夜間のデータ集計を8時間から90分へ短縮したのは、この作り替え型に近いアプローチです。効果が大きい一方、再構築型として2,000万円以上・12〜18ヶ月以上を要することもあり、相応の投資判断が必要です。

リパーチェス(Repurchase)は、自社で抱えている仕組みを捨て、SaaSやパッケージ製品に置き換える手法です。データウェアハウスをクラウドのDWHサービスに乗り換える、データ管理をSaaSに切り替えるといった選択がこれにあたります。自前で持ち続ける必然性が低い領域では、置き換えによって運用負荷を一気に下げられます。ただし、パッケージへのデータ移行では「データマッピングの複雑さ」や「ユーザー部門の参画不足」がつまずきの原因になりやすく、移行設計を軽視できません。

リタイア・リテイン(廃止・現状維持の判断)

見落とされがちですが、7Rには「移さない」という選択肢も含まれます。リタイア(Retire)は、すでに役割を終えたデータや使われていないシステムを思い切って廃止する判断です。前章のユニリタの事例で、ログ分析によって役割を終えつつある機器を特定できたように、棚卸しの過程で「もう不要なデータ・基盤」が見えてきます。すべてを移行対象にするのではなく、廃止できるものを見極めることで、刷新の範囲と費用を大きく圧縮できます。

リテイン(Retain)は、現時点では移行せず、あえて現状を維持する判断です。法令上の制約や、移行のリスクとコストが効果に見合わない場合には、無理に動かさないほうが賢明なこともあります。重要なのは、これらの判断を含む7R全体を「ポートフォリオ」として捉えることです。データ基盤全体に単一の手法を当てはめるのではなく、領域ごとに最適な手法を組み合わせる発想こそが、データモダナイゼーションの標準的な進め方になります。

手法を組み合わせるポートフォリオの考え方

手法を組み合わせるポートフォリオの考え方

7Rの各手法と3つの対象範囲を理解したら、最後は「自社にどう当てはめるか」です。実際のデータモダナイゼーションでは、ひとつの手法だけで全てを片づけることはほとんどありません。データの種類や重要度ごとに手法を変える、いわばポートフォリオの設計が現実的です。本章では、その組み立て方を整理します。

費用・期間の目安から手法を逆算する

手法選定では、費用と期間の目安を物差しにすると判断しやすくなります。データの棚卸しや現状分析のみであれば200万〜500万円、クラウド移行型のリホスト・リプラットフォームなら数百万〜1,000万円台で3〜6ヶ月、構造から作り直す再構築型のリファクタリングなら2,000万円以上で12〜18ヶ月以上が目安です。小〜中規模で単一のデータ基盤を刷新する場合は3,000万〜1.5億円、基幹と複数の周辺システムにまたがる中〜大規模では1.5億〜5億円規模になることもあります。

これらの目安から逆算すると、限られた予算でどこまでやれるかが見えてきます。たとえば予算が限られているなら、まず棚卸しと品質整備に絞り、効果の大きいデータからクラウドへ載せ替える。投資余力があり中長期で活用基盤を作りたいなら、再構築とDWH・データレイクへの集約まで踏み込む。費用感を起点に手法を逆算することで、過大な投資も中途半端な刷新も避けられます。

段階的移行で範囲を区切る

ポートフォリオを組んだら、それを一度に実行するのではなく、対象を区切って段階的に進めるのが定石です。データ基盤を全社一括で切り替える「ビッグバンアプローチ」は、データの整合が崩れたときの影響が全社に及び、リスクが極めて高くなります。これに対し、機能やデータ領域を区切って新旧を並行稼働させながら少しずつ移していく「ストラングラーパターン」であれば、問題が起きても影響を局所化でき、切り戻しもしやすくなります。

段階的に進めると、最初の対象範囲で得た知見を次の範囲に活かせるという利点もあります。1つ目のデータ移行でデータマッピングの勘所や品質整備の進め方を学び、2つ目以降の精度とスピードを高めていく。手法を組み合わせるポートフォリオの発想と、対象を区切る段階的移行の発想は、セットで機能します。どの手法をどの順序で適用するかまで設計してはじめて、データモダナイゼーションの全体像が固まるのです。

まとめ

データモダナイゼーションの手法のまとめ

本記事では、データモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法の一覧について解説してきました。対象範囲は、データベースとインフラの刷新、DWH・データレイクへの集約、データ品質・ガバナンスの整備という3領域に整理できます。手法はAWSの7R(リホスト・リロケート・リプラットフォーム・リパーチェス・リファクタリング・リタイア・リテイン)を共通言語として、載せ替え型・作り替え型・廃止/維持の判断に大別できました。

費用と期間の目安は、棚卸しのみで200万〜500万円、クラウド移行型で数百万〜1,000万円台・3〜6ヶ月、再構築型で2,000万円以上・12〜18ヶ月以上が一つの基準です。重要なのは、データ基盤全体に単一の手法を当てはめるのではなく、データの種類や重要度ごとに手法を組み合わせるポートフォリオの発想を持つこと、そして対象を区切って段階的に移行することです。これにより、過大な投資も中途半端な刷新も避けられます。

自社にどの範囲・どの手法が適しているかを判断する際は、まずデータの棚卸しで現状を把握し、費用感から逆算してポートフォリオを描くところから始めるのがおすすめです。各手法の位置づけや進め方の全体像をさらに体系的に確認したい場合は、完全ガイドもあわせて活用してください。対象範囲と手法を正しく組み合わせることが、活用できるデータ基盤への確かな第一歩になります。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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