システム更改を検討するとき、最も参考になるのは実際の企業がどのような契機で何を入れ替え、どのような効果を得たのかという具体的な事例です。システム更改は、ゼロから新しい仕組みを生み出す開発とは性格が異なり、ハードウェアの保守期限切れやソフトウェアのEOL(サポート終了)、契約満了といった避けられない期限を契機に、既存システムを安全に新しい基盤へ載せ替えていく取り組みです。だからこそ、停止が許されない業務をいかに止めずに移行したかという実務の工夫が、成否を大きく左右します。
本記事では、保守期限切れのCOBOL基幹系を刷新した製造業や、業務効率を大きく改善した自治体・大手企業の事例を取り上げ、更改の契機・選んだ手法・得られた定量効果を整理します。新しい機能を作ることよりも、止めない移行と保守コストの削減に軸足を置いた更改ならではの勘所を、再現可能な共通要因として抽出します。システム更改の全体像や基礎をあらためて押さえたい方は、システム更改の完全ガイド もあわせてご覧いただくと、本記事の事例がより立体的に理解できます。
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・システム更改の完全ガイド
保守期限切れ・EOLを契機としたシステム更改の事例

システム更改の多くは、ハードウェアの保守期限切れやOS・ミドルウェア・言語環境のEOLといった、放置できない期限を契機に始まります。ここでは、老朽化した基幹システムを期限内に安全に載せ替え、保守費や処理時間の改善という定量効果を得た事例を取り上げます。いずれも「新機能の追加」ではなく「止めずに置き換える」ことを主眼に置いた取り組みである点が共通しています。
製造業:COBOL基幹系を16ヶ月で更改し保守費を65%削減
従業員約1,200名のある製造業では、長年稼働してきたCOBOLベースの基幹システムが老朽化し、稼働するハードウェアや実行環境の保守期限が迫っていました。仕様を理解する担当者の高齢化も進み、このまま放置すれば障害発生時に復旧できないリスクが現実味を帯びていた状況です。こうした保守期限と属人化という二重の期限が、更改に踏み切る決定的な契機となりました。
同社は基幹系を約16ヶ月かけて新しい基盤へ更改しました。その結果、これまで8時間を要していた夜間バッチ処理が90分へと約80%短縮され、業務開始までの待ち時間が大幅に圧縮されています。さらに、サーバーの保守費は年間2,400万円から850万円へと約65%削減されました。老朽化したハードウェアと高コストな保守契約から脱却したことで、運用コストの構造そのものが軽くなったのです。
この事例で注目すべきは、更改の効果が「処理時間の短縮」と「保守費の削減」という、誰もが理解できる二つの指標で明確に表れている点です。新機能を追加したわけではなく、既存の業務をそのまま新基盤へ載せ替えただけでも、老朽化したシステムには改善の余地が大きく残されていることを示しています。更改は守りの投資と見られがちですが、コスト構造を見直す好機でもあるのです。
16ヶ月という期間にも意味があります。基幹系の更改は、現行仕様の棚卸し、移行設計、テスト、並行稼働といった工程を丁寧に踏む必要があり、短絡的に進めれば移行時の障害を招きます。属人化してブラックボックス化した仕様を解きほぐしながら、止めずに載せ替える。この地道な工程に時間をかけたからこそ、大きなトラブルなく定量効果を実現できたと考えられます。
保守費を年間1,550万円圧縮できたという事実は、更改の費用対効果を考えるうえで示唆に富みます。更改には初期投資が必要ですが、削減された保守費が毎年積み上がることで、数年単位で投資を回収できる構造が見えてきます。守りの更改であっても、運用コストの削減という形で確かなリターンを生み出せることを、この事例は具体的に物語っています。
ユニリタ:機器更改の判断材料を可視化し数億円規模の効果
システム更改では、どの機器をいつ入れ替えるべきかという判断そのものが難所になります。ユニリタが関与した事例では、200種・30,000台に及ぶネットワーク機器と10,000台のサーバーから、1日あたり10億件の通信ログを集計し、機器の稼働状況や保守コストを可視化しました。膨大なインフラのどこに更改の優先度があるのかを、データに基づいて見極めたのです。
この可視化により、保守費の高い機器や利用頻度の低い機器が明確になり、更改・統廃合の判断材料が整理されました。結果として作業負担は5分の1に軽減され、数億円規模の投資対効果が得られたと報告されています。やみくもに全機器を入れ替えるのではなく、データに基づいて優先順位を付けた点が成果につながっています。
大規模なインフラの更改では、すべてを一度に置き換えることは現実的ではありません。保守期限や稼働状況を可視化し、コストとリスクの高い領域から段階的に更改していく。この事例は、更改対象を見極めるアセスメントの重要性と、データドリブンな意思決定が大きな効果を生むことを示す好例といえます。
業務効率と運用負荷を改善したシステム更改の事例

システム更改は、老朽化したシステムを単に新しくするだけでなく、それを契機に業務プロセスそのものを見直す機会にもなります。更改のタイミングで非効率な手作業や属人的な運用を棚卸しし、定量的な効率改善につなげた事例を取り上げます。更改と業務改善を切り離さずに進めた点に、成果の鍵があります。
イオングループ:業務プロセス分析の徹底で月700時間を削減
イオングループでは、システムや運用を新しくする前に、まず業務プロセスそのものを徹底的に分析しました。どの作業がどのくらいの時間を要し、どこに無駄が潜んでいるのかを丁寧に洗い出したうえで、自動化や仕組みの置き換えを進めたのです。その結果、月間700時間に及ぶ業務削減を実現しています。
この事例が示す教訓は、システムを新しくすること自体が目的化してはならないという点です。現行の非効率な業務をそのまま新基盤へ載せ替えただけでは、効果は限定的にとどまります。更改のタイミングで業務を棚卸しし、ムダを取り除いてから仕組みを置き換えることで、削減効果が最大化されるのです。
更改プロジェクトでは、移行そのものに意識が集中しがちです。しかし、現行業務をそのまま再現する「現状踏襲」だけでは、せっかくの投資が現状維持に終わってしまいます。イオングループのように、更改を業務改善と一体で捉え、プロセス分析を先行させる姿勢が、定量的な成果を引き出す原動力となります。
月700時間という削減幅は、一つひとつは小さな作業時間の積み重ねが、全社・全店舗規模で掛け合わされた結果です。更改を機に業務を可視化すれば、それまで見えていなかった小さな非効率が数多く浮かび上がります。それらを丁寧に取り除いていくことが、大きな効果へと結実していくのです。
段階的更改で止めずに移行した運用設計の工夫
成功した更改事例に共通するのは、止めない移行を実現するための運用設計です。基幹システムを一度にすべて入れ替える「ビッグバンアプローチ」はリスクが高いため、機能単位で新旧を並行稼働させながら少しずつ移行する「ストラングラーパターン」が広く採用されています。先述の製造業の事例でも、いきなり全面切り替えではなく、業務を止めない移行計画が組まれていました。
段階的な更改では、新旧システムが一定期間並行して動くため、データの整合性をどう保つか、どのタイミングで切り替えるかといった運用設計が重要になります。各機能の移行ごとに検証を挟み、問題があれば旧システムへ戻せる退避経路を確保しておくことで、業務停止のリスクを最小化できます。こうした地道な設計が、定量効果を生む土台となります。
逆に言えば、運用設計を軽視した一括切り替えは大きな事故を招きかねません。更改の成否は華やかな新機能ではなく、移行をいかに止めずに進めるかという運用の堅実さにかかっています。成功事例から学ぶべきは、この「止めない移行」への徹底したこだわりです。
段階移行を成り立たせるうえで見落とされがちなのが、新旧データの同期と切り戻し手順の準備です。並行稼働の期間中は、どちらのシステムを正とするかを機能ごとに明確に定め、片方で更新されたデータがもう片方へ確実に反映される仕組みを用意します。これを怠ると、同じ業務データが新旧で食い違い、移行完了後にどちらが正しいのか判断できなくなります。成功した更改では、この同期設計に十分な検証時間を割いています。
また、各機能を切り替えるたびに、利用部門による業務確認を挟むことも重要です。技術的に動くことと、現場の業務が滞りなく回ることは別問題です。先述の製造業の事例でも、現場の確認を経ながら段階的に範囲を広げたからこそ、大きな混乱なく更改を完了できました。止めない移行とは、技術と業務の両面で「動くこと」を一つずつ確かめながら進める、地道なプロセスの積み重ねなのです。
更改成功事例から抽出する再現可能な共通要因

ここまで紹介した事例には、業種や規模を問わず共通する成功要因が見られます。システム更改は期限に追われやすく、つい移行だけを急ぎがちですが、成果を上げた組織は共通して「現状の可視化」「止めない移行」「効果の定量化」という三つの軸を押さえています。これらを再現可能な要因として整理します。
現状資産の棚卸しと可視化を起点にする
第一の共通要因は、更改に着手する前に現行システムと業務を徹底的に可視化していることです。ユニリタの事例における機器・ログの可視化、イオングループの業務プロセス分析は、いずれも「何を、どこまで、どう移すべきか」を見極めるための土台でした。老朽化したシステムは仕様がブラックボックス化していることが多く、ここを解きほぐさずに移行を始めると、移行漏れや想定外の不具合を招きます。
現状の棚卸しでは、システムの構成や依存関係だけでなく、それを使う業務の流れまで含めて把握することが重要です。どの機能が誰のどの業務を支えているのかが見えれば、更改の優先順位や、現状踏襲すべき部分と改善すべき部分の切り分けが明確になります。可視化への投資は遠回りに見えて、結果的に手戻りを防ぎ、プロジェクト全体を加速させます。
製造業の事例で属人化した仕様を丁寧に解きほぐしたように、可視化は更改の品質を直接左右します。期限に追われるほど、この工程を省略したくなりますが、成功した組織は例外なくここに時間を投じています。現状を正しく捉えることが、止めない移行の前提条件なのです。
保守費・処理時間など定量効果で成果を測る
第二の共通要因は、更改の効果を定量的な指標で測り、可視化していることです。製造業の事例における夜間バッチ8時間から90分への短縮、保守費の年2,400万円から850万円への削減、ユニリタ事例の作業負担5分の1、イオングループの月700時間削減は、いずれも誰もが理解できる数値で成果を示しています。守りの投資と見られがちな更改でも、効果を数値化すれば投資判断の根拠が明確になります。
定量化の利点は、稟議を通しやすくなることだけではありません。削減された保守費が毎年積み上がる構造を示せば、更改が単発のコストではなく、継続的にリターンを生む投資であることが見えてきます。処理時間の短縮は、業務開始の前倒しや残業削減といった波及効果にもつながります。効果を数値で語れることが、更改を前向きな取り組みへと変えるのです。
そして、現状の可視化、止めない段階移行、効果の定量化という三つの要因は互いに連動しています。現状を可視化するからこそ移行計画を堅実に組め、段階的に移行するからこそ効果を区切って測定でき、効果を数値化するからこそ次の更改へとつなげられます。これらは規模や業種を問わず、システム更改を成功へ導く再現可能な土台といえます。
まとめ

本記事では、システム更改の事例として、保守期限切れのCOBOL基幹系を16ヶ月で更改し夜間バッチを8時間から90分へ短縮・保守費を年2,400万円から850万円へ削減した製造業、機器とログの可視化で数億円規模の効果を得たユニリタ事例、業務プロセス分析の徹底で月700時間を削減したイオングループ、そして止めない段階移行の運用設計を紹介しました。さらに、これらに共通する成功要因を整理しました。
これらの事例から見えてくるのは、現状資産の棚卸しと可視化を起点に、新旧を並行させる段階的な移行で業務を止めず、保守費や処理時間といった定量効果で成果を測るという、再現可能な三つの成功要因です。システム更改は保守期限やEOLに迫られて始まる守りの取り組みですが、進め方次第でコスト構造の改善や業務効率化という確かなリターンを生み出せます。自社で更改を検討する際は、これらの事例とその進め方を出発点として、自組織の業務に引きつけた具体的な一歩を踏み出していただければ幸いです。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
