システム刷新の事例/成功事例について

経営会議で「老朽化した基幹システムをそろそろ刷新すべきだ」という話題が出ても、いざ具体化しようとすると「本当に投資に見合う成果が出るのか」「どの部門を巻き込み、どんな順序で進めればよいのか」が見えず、決裁の手前で立ち止まってしまう企業は少なくありません。システム刷新は情報システム部門だけの課題ではなく、製造・販売・経理・人事といった全部門の業務に波及する全社横断のテーマです。だからこそ、現場の効率化に閉じた話ではなく、経営の意思決定として成功させた他社の事例を知る価値が高まっています。

本記事では、システム刷新の事例・成功事例について、製造業の基幹系刷新やイオングループ・ユニリタといった実在の取り組みの一次データをもとに、「どの課題に対して経営としてどんな判断を下し、どれだけの定量・定性効果を全社に波及させたか」を掘り下げて解説します。あわせて、刷新の手法選定から費用感・体制づくりまでを体系的に整理したシステム刷新の完全ガイドもご覧いただくと、本記事の事例を全体像の中に位置づけやすくなります。ここでは完全ガイドでは触れきれない「現場と経営の双方で実際に何が起きたか」を、具体的な数字とともにご紹介します。

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・システム刷新の完全ガイド

なぜシステム刷新の事例を経営視点で学ぶべきなのか

なぜシステム刷新の事例を経営視点で学ぶべきなのか

システム刷新は、すでに業務が回っている現行システムを止めずに全社規模で作り替える取り組みです。新規開発と違って後戻りが難しく、関わる部門も多いため、計画段階で参考にできる「先行事例」の価値が他のIT施策に比べて格段に高い領域だといえます。とくに経営層にとっては、稟議を通すための投資根拠としても、他社の成功・失敗の判断軸は欠かせません。

本章では、なぜ今このタイミングでシステム刷新の事例を学ぶ意義が高まっているのかを、全社横断という観点から整理します。事例は単なる成功談として読むものではなく、「自社の状況に置き換えると、どの判断が再現でき、どの部門のどんなリスクに備えるべきか」を読み取るための教材です。

「2025年の崖」は全社規模の経営リスクである

システム刷新の必要性は、すでに国レベルで定量化されています。経済産業省のDXレポートでは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを刷新しないまま2025年を迎えると、その後に年間最大12兆円もの経済損失が生じる可能性があると指摘されました。これがいわゆる「2025年の崖」です。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査でも、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題として認識していることが示されています。

ここで重要なのは、この損失が情報システム部門の予算の話ではなく、事業全体の競争力を削る経営リスクだという点です。古いシステムが足かせとなって新しい施策に着手できない、データが部門ごとに分断され全社の意思決定が遅れる、といった影響は、最終的に売上や利益という経営指標に跳ね返ります。刷新を「コスト」ではなく「事業継続のための投資」として捉える視点が欠かせません。

緊急性が高い一方で、焦って全社を一度に切り替えると重大なトラブルを招きかねません。事例を経営視点で学ぶ意義のひとつは、「急ぐべき理由」と「急ぎすぎることの危険」を同時に理解し、適切なスピードで全社の刷新を進める感覚を養うことにあります。

事例から読み取るべき3つの経営視点

事例を「すごい成果が出た話」として消費するだけでは、自社の計画には活かせません。成功事例を読むときには、少なくとも3つの視点を意識すると学びの質が大きく変わります。第一に「出発点となった全社の課題」、第二に「経営としてどんな意思決定を下したか」、第三に「結果として全社にどんな定量・定性効果が波及したか」です。

とくに見落とされがちなのが2つめの意思決定の部分です。同じ「保守費が高い」という課題でも、どこまでを刷新範囲とし、どの部門の業務をどう変えるのかで、必要な期間・費用・全社へのインパクトは大きく変わります。成功した企業は、自社の制約と目的に照らして「やること」と「やらないこと」を経営判断として明確に決めていました。

第三の効果については、「夜間処理が何分短縮された」「保守費が何割減った」「月何時間の業務が削減された」といった定量データと、「部門間のデータ分断が解消した」「新しい施策に着手しやすくなった」といった定性効果の両面を見ることが重要です。本記事で取り上げる事例も、この3つの視点に沿って読み解いていきます。

全社の業務効率化・コスト削減を実現した刷新の成功事例

全社の業務効率化・コスト削減を実現した刷新の成功事例

ここからは、実際にシステム刷新で明確な成果を出した取り組みを、業界をまたいで具体的に見ていきます。いずれも「全社の課題」「経営の意思決定」「波及した効果」という3つの視点で整理しているので、自社に置き換えながら読み進めてください。数字の裏側にある経営判断にこそ、再現可能なヒントが詰まっています。

製造業:基幹系刷新で夜間バッチ8時間を90分に短縮

まず取り上げるのは、従業員約1,200名規模の製造業における基幹系刷新の事例です。この企業ではCOBOLで構築された基幹システムを長年使い続けており、夜間バッチ処理に約8時間を要していました。処理が翌朝の業務開始に間に合わないリスクが常につきまとい、生産・購買・経理といった複数部門の業務が一本の老朽システムにぶら下がっている状態でした。保守費も年2,400万円規模に達し、運用負荷とコストの両面で限界に近づいていました。

この企業が下した最初の経営判断は、いきなりシステムを作り始めることではなく「全社の資産棚卸し」でした。現行システムにどんな機能・データ・部門間の依存関係が存在するかを丁寧に洗い出したうえで、刷新の範囲を経営として確定しています。棚卸しを起点に置いたことで、すでに使われていない機能や部門が個別に作り込んだ重複処理を削ぎ落とし、本当に必要な処理だけを新しい基盤に載せ替える判断ができた点が成功の鍵でした。

その結果、刷新は約16ヶ月で完了し、夜間バッチ処理は8時間から90分へと約80%短縮されました。さらにサーバー保守費は年2,400万円から850万円へと約65%削減されています。処理時間の短縮は単なるスピード向上にとどまらず、翌朝の業務開始前に確実に処理を終えられるという事業上の安心感を全部門にもたらしました。定量効果と定性効果が両立した、全社規模の基幹刷新の代表的な成功例といえます。

小売・流通:イオングループの業務可視化で月700時間を削減

次に紹介するのは、小売・流通の大手であるイオングループの事例です。多くの企業が業務システムの刷新や自動化を進める際、「とにかく新しい仕組みを入れれば業務が楽になる」と考えがちですが、イオングループのアプローチはその逆でした。新しい仕組みを導入する前に、まず対象となる業務プロセスを部門横断で分析することを徹底したのです。

業務を全社で可視化すると、そもそも不要な作業や部門間で重複した手順、自動化に向かない属人的な判断などが浮かび上がります。ここを整理しないまま新システムを入れると、「ムダな業務をそのまま新しい仕組みに移し替えてしまう」という典型的な失敗に陥ります。イオングループは「刷新の前に業務を可視化する」という順序を全社で守ったことで、効果を最大化できる対象を見極められました。

この取り組みによって、月あたり700時間規模の業務削減を実現しています。システム刷新というと基幹システムの全面入れ替えを思い浮かべがちですが、この事例は「業務プロセスの全社的な見直しと部分的な自動化」も立派な刷新の一形態であることを示しています。手法の派手さではなく、全社を巻き込む進め方の順序が成果を決めるという教訓は、業界を問わず応用できます。

インフラ運用:ユニリタのログ可視化で作業負担を5分の1に

3つめは、大規模なITインフラ運用を可視化によって刷新したユニリタの事例です。この取り組みでは、200種・約30,000台のネットワーク機器と約10,000台のサーバーから、1日あたり10億件にのぼる通信ログを集計・可視化しました。全社のインフラを抱える企業にとって、どの機器がどれだけのコストや負荷を生んでいるかを経営として把握すること自体が大きな課題です。

ログを可視化したことで、保守費が高くつく機器や、すでに役割を終えつつある機器を具体的に特定できるようになりました。勘や経験ではなくデータに基づいて「どこを残し、どこを整理するか」を経営判断できる状態をつくった点が、この事例の本質です。可視化はそれ自体が目的ではなく、全社の合理的な投資判断を支える土台として機能しました。

その結果、運用にかかる作業負担は5分の1にまで軽減され、投資対効果は数億円規模に達しました。インフラのシステム刷新は華やかさに欠けると思われがちですが、可視化と定量管理を組み合わせることで、これだけ大きな全社効果を生み出せます。「測れないものは改善できない」という原則を体現した好例といえるでしょう。

業界横断で見るシステム刷新成功のパターン

業界横断で見るシステム刷新成功のパターン

製造業・小売・インフラ運用という異なる業界の事例を並べてみると、成功した取り組みにはいくつかの共通したパターンが浮かび上がってきます。業界や扱うシステムが違っても、全社の刷新を成功させる経営の判断軸は驚くほど似ています。本章では、事例から抽出できる再現性の高いパターンを整理します。

現状把握を起点に刷新範囲を経営判断する

成功事例に共通する第一のパターンは、「いきなり作り始めない」ことです。製造業の事例では全社の資産棚卸しが、イオングループでは業務プロセスの分析が、ユニリタではログの可視化が、それぞれ刷新の起点になっていました。いずれも「まず現状を正確に把握し、それから刷新の範囲と進め方を経営として決める」という順序を守っています。

重要なのは、自社の課題と制約に照らして「どこまでを刷新範囲とするか」を経営判断すること、そしてその判断材料を現状把握によって揃えることです。現場の要望を積み上げただけで進めた刷新は、たいてい途中で予算と目的を見失います。経営が刷新範囲を絞り込み、優先順位をつけたことが、成功企業の共通点でした。

また、移行の進め方そのものも経営判断の対象です。全社のシステムを一度に切り替える進め方は一見スピーディーですが、トラブル時の影響範囲が全部門に及びます。多くの成功事例では、機能や対象を区切って段階的に新しい仕組みへ置き換えていく進め方が選ばれていました。急ぎつつも一気にやらないという絶妙な舵取りが、成功企業に共通していたのです。

業務改革とセットにし、定量で全社管理する

第二のパターンは、システムの刷新を「全社の業務改革」とセットで進めていることです。イオングループが新しい仕組みの導入前に業務を可視化したように、成功した企業はシステムを入れ替える前後で業務のやり方そのものを部門横断で見直しています。古い業務手順をそのまま新システムに移し替えるだけでは、せっかくの刷新が「速くなった旧来業務」で終わってしまいます。

第三のパターンは、効果を定量的に管理していることです。製造業の事例では夜間バッチの処理時間と保守費、イオングループでは削減した業務時間、ユニリタでは作業負担と投資対効果という具体的な指標で成果が語られていました。最初に「何を、どれだけ改善するのか」を全社の数値目標として置いたからこそ、刷新後にその達成度を経営として評価できたのです。

こうした定量管理の発想は、投資判断の段階から組み込むことが理想です。たとえばトヨタ自動車は、IT投資をQCDS(Quality・Cost・Delivery・Safety)という複数の観点から多角的に評価する考え方を採り入れています。コストだけ、あるいは品質だけといった単一指標で判断するのではなく、複数の軸でバランスを見ることで、刷新が本当に事業に貢献しているかを立体的に捉えられます。

成功と失敗を分ける分岐点はどこにあるか

ここまで成功事例を見てきましたが、すべての刷新がうまくいくわけではありません。対比として知っておきたいのが、江崎グリコの基幹システム切り替えで発生したトラブルです。切り替え時の障害により、チルド商品の全品出荷が停止する事態に至りました。この一件は、移行計画の作り込みが不十分だと、システムだけでなく事業そのものが止まりかねないことを示しています。

成功事例と失敗事例の分岐点は、多くの場合「移行の設計と検証に経営としてどれだけ手間と時間を許容したか」にあります。成功した企業が現状把握や段階的な置き換えに時間をかけていたのに対し、トラブルに陥るケースでは納期優先で移行時の影響範囲の見積もりや切り戻し手順の準備が甘くなりがちです。失敗の要因やリスクを網羅的に押さえたい場合は別の観点での整理が必要ですが、本記事では成功事例との対比として、移行設計の重要性を押さえておけば十分です。

言い換えれば、成功のパターンはそのまま「失敗を避けるためのチェックリスト」にもなります。現状を把握してから刷新範囲を決める、業務改革とセットで進める、効果を定量で全社管理する、そして一気に切り替えず段階的に移行する。この4点を経営が押さえているかどうかが、業界を問わずシステム刷新の成否を大きく左右するのです。

まとめ

システム刷新事例のまとめ

本記事では、システム刷新の事例・成功事例について、全社横断の経営視点で解説してきました。製造業の基幹系刷新では全社の資産棚卸しを起点とした刷新により、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮し、保守費を年2,400万円から850万円へ約65%削減しました。イオングループは刷新前の業務可視化で月700時間の業務を削減し、ユニリタは大規模なログ可視化で作業負担を5分の1に軽減し数億円規模の投資対効果を実現しています。

これらの事例から読み取れる成功のパターンは、(1)現状把握を起点に刷新範囲を経営判断する、(2)業務改革とセットで進める、(3)効果を定量で全社管理する、(4)一気に切り替えず段階的に移行する、という4点に集約できます。トヨタ自動車のQCDS視点のように複数の軸で投資効果を評価する姿勢も、刷新を事業貢献につなげるうえで重要でした。一方で江崎グリコのトラブルが示すように、移行設計の甘さは事業停止という深刻な結果を招きます。成功と失敗を分けるのは、手法の派手さではなく全社を巻き込む進め方の丁寧さです。

自社のシステム刷新を検討する際は、まず本記事の事例を「自社の状況に置き換えるとどうか」という視点で読み返すことをおすすめします。そのうえで、刷新の手法の全体像や費用感、体制づくりの選択肢を体系的に整理したい場合は、完全ガイドもあわせて活用してください。事例から学んだ経営判断の軸を自社の計画に落とし込むことが、全社の刷新を成功へ導く確かな一歩になります。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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