SaaSの開発戦略や立ち上げプロセスを学ぶ完全事例ガイド

本記事では、国内・海外のSaaS企業の事例を「開発戦略」と「市場トレンド」という観点から体系的に解説します。これまで50社以上のSaaSの開発支援や事業立ち上げ・グロース支援を行う中で見えてきた潮流を整理すると、現在のSaaS市場は大きな転換点を迎えています。SaaS市場の今後を読み解くヒントとしてぜひご活用ください。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

▼全体ガイドの記事
プロダクト戦略・新規事業ガイド:アイデア〜PMF〜マルチプロダクトまでの実践ロードマップ

SaaS市場の全体像とトレンド変化

 

SaaS市場はここ数年で大きく構造変化しています。単一プロダクトで成長するモデルから、従来は「単一機能のプロダクトで急成長するモデル」が主流でした。しかし現在は、より包括的な戦略へ移行しており、SaaSは単なる「業務効率化ツール」から、「業界インフラ」へと進化しつつあります。SaaS市場の未来を読み解くヒントとして、ぜひご活用ください。

マルチプロダクト戦略:マルチバーティカルSaaS戦略、All in One戦略、End to End戦略、ネットワーク効果、ロールアップM&Aなど
データ基盤戦略:業界データベースの構築、購買DB/従業員DB/顧客DBの統合、自社API公開によるエコシステム化、他社APIからのDB統合など
AI統合戦略:AI Native SaaS化、AIエージェント構築など
SaaS以外への事業拡大:XX Payへの参入、BPOサービス展開など

ここからは、これらのキーワードとその事例について、それぞれ解説していきます。

マルチプロダクト戦略

マルチバーティカルSaaS戦略

従来は「1業界特化型SaaS」が主流でした。しかし近年は、成功した業界特化モデルを他業界へ横展開する動きが加速しています。これにより、「単一市場依存リスクの軽減」「開発資産の再利用」「ポートフォリオ型経営」が実現できます。

Toast:海外の外食産業におけるバーティカル SaaSを展開しており、レストラン領域におけるマルチプロダクト展開を終えて、これからは食品&飲料小売領域のバーティカルSaaSを展開すると公表

インフォマート:国内の飲食産業におけるバーティカルSaaSを展開しており、並行して展開しているホリゾンタルSaaSの顧客基盤を足がかりに、他業界のバーティカルSaaSを展開することを公表

medical force:美容クリニック領域と警備領域におけるバーティカルSaaSを展開していて、その他領域への進出も想定

All in One(オールインワン)戦略

業界内のあらゆる業務を1つのプラットフォームで完結させる戦略です。データが横断的に蓄積されるため、競争優位性が強化されます。このことで、SaaSは「機能ツール」から「業界OS」へと進化します。

ServiceTitan:住宅修理業者向けSaaSで評価額1兆円超のグローバルSaaS企業で、住宅修理業者向けに、あらゆる業務を「All-in-one」で効率化するSaaSを提供

Dinii:外食産業におけるマルチプロダクト展開を目指しており、隣接領域全般にプロダクトを拡大していく構想を「All in One Restaurant Cloud」と表現

End to End(エンドツーエンド)戦略

業界の上流〜下流まで一気通貫で支援する戦略です。単機能ではなく、業界全体のワークフローを押さえることでネットワーク効果を発揮します。

Toast:海外の外食産業におけるバーティカル SaaSを展開しており、外食業界におけるエコシステム全体(顧客、従業員、オペレーション、配達、決済など)に対してサービス提供を実現することを「End to End(エンドツーエンド)戦略」と表現

Flexport:貿易管理SaaSを提供している海外企業で、工場(配送元)から顧客(配送先)まで「End-to-End(上流から下流まで)」でサービス提供することを目指して、マルチプロダクト展開

Procore:海外の建設業界においてバーティカルSaaSの先駆者であり、「エンドツーエンド(上流工程から下流工程まで)」なマルチプロダクト展開により、全てのステークホルダーを「Procore」に集めています

ネットワーク効果の構築

海外SaaSでは、「1社の業務効率化」から「複数社間の業務効率化」へ進化しています。取引先やパートナー企業を巻き込むことで、プロダクト自体がネットワーク化し、強固な参入障壁(moat)を構築します。

Coupa:購買&調達領域で支出管理SaaSを提供する海外企業で、顧客とサプライヤーの双方にSaaSを提供することで、ネットワーク効果を活用して価値を向上している点が最大の特徴

Procore:海外の建設業界においてバーティカルSaaSの先駆者であり、「エンドツーエンド(上流工程から下流工程まで)」なマルチプロダクト展開により、全てのステークホルダーを「Procore」に集めることで、「ネットワーク効果」を発現させてmoatを構築

ロールアップM&AとPE戦略

海外では、バリュエーションの低いSaaS企業を多数買収して、再成長させる「Buy & Build戦略」が活発です。

Thoma Bravo:SaaSやTech領域における「Buy and Build戦略」に長けており、GAFAMが関心を示さないニッチな領域(サイバーセキュリティ、Fintech、ヘルスケア、アプリケーションなど)を対象に複数の買収を行い、買収先の経営陣と協力しながら、専門知識や戦術を取り込んで業績拡大を実現

Constellation Software Inc:海外でニッチな分野のバーティカルSaaS企業を多数買収しているコングロマリット企業で、いわゆる「ロールアップM&A戦略」を得意としており、小規模な企業を対象に、年間で数十~百件の投資を実行し、現在の保有企業数は700を超えています

データ基盤戦略

業界全体のデータベース構築

分散している業界データを統合し、基盤DBを構築する戦略です。データを押さえることを最大の競争優位として、「データ自体を価値にする」ビジネスモデルが加速しています。

Flexport:貿易管理SaaSを提供している海外企業で、貨物業者が分散していること、電話やFAXでのやりとりが主流なことから、共通のDBがなく業務効率が悪い状況であったため、あらゆる業務をクラウドで一元化して効率化することでサービス利用者を増やして、貿易関連のDBを構築

estie:商業用不動産(オフィス・物流施設・データセンターなど)に関連するバーティカルSaaSを提供しており、アナログな業務プロセスとデータ流通構造により、基盤となるデータベースが存在しないという業界課題に対して、建物・募集・入居テナントといった「データ自体」を売り物にして業務効率化を支援

購買DB・顧客DB・従業員DBの統合

バーティカルSaaSがホリゾンタル領域に侵食する動きも活発で、業界特化SaaSが、横断的な基盤領域へ進出する動きも加速しています。「顧客DB」「購買DB」「従業員DB」を押さえることで、事業拡張が可能になります。

ServiceTitan:住宅修理業者向けSaaSで評価額1兆円超のグローバルSaaS企業で、あらゆる業務を「All-in-one」で効率化するSaaSを提供しており、「現場管理(見積、スケジュール管理など)」だけでなく、「顧客対応(顧客DBを基盤とした集客、予約、メッセンジャーの支援など)」「経営管理(購買DBを基盤とした在庫管理、給与支払い、予実管理の支援など)」に拡大

Toast:外食業界向けSaaSを提供する海外企業で、POS事業から始まり、現在はマルチプロダクト展開により拡大しており、外食業界におけるエコシステム全体(顧客DB、従業員DB、オペレーションDB、配達DB、購買DBなど)に対してサービス提供を実現

Olo:レストランテック領域の海外SaaS企業で、レストランのオンライン注文に関するSaaSの提供から始まり、現在では「ORDER(=購買DBを基盤としたオンライン注文)」「PAY(=オンライン決済)」「ENGAGE(=顧客DBを基盤としたCRM)」の3つの領域に拡大することで、フライホイール効果による成長を実現

ラクスル:これまで蓄積したデータを足がかりに、「顧客DB」「従業員DB」「購買DB」のすべてのホリゾンタルSaaS領域に参入すると公表しており、「顧客DB」では各マーケチャネルとの連携ができるSaaSを提供開始、「購買DB」では住信SBIネット銀行と金融サービスの提供を開始

API公開によるエコシステム形成

自社DBをAPIとして公開し、外部サービスと接続することで、SaaS単体からプラットフォーム化を進めます。プロダクトが分散かつ細分化しているHR領域で特に有効です。

Gusto:給与計算を中心としたHR SaaSを展開する海外企業で、APIサービスを公開して、他社アプリやサービス上で給与計算機能を提供できるようにして売上を拡大

SmartHR:HR領域におけるマルチプロダクト展開をしているSaaS企業で、従業員DBの活用を内部に閉じずに「SmartHR Plus」として外部ベンダーにも情報提供を行い、 SmartHR上で動くサービスを増やしていく想定

他社APIからのマルチチャネルDB統合

自社顧客から獲得したデータだけでなく、他システムやSaaSのデータも統合することで、データ品質を向上してプロダクトの提供価値を上げる事例が増えています。DBが分散しているマーケ領域で特に有効で、「データ統合力」が競争優位になります。

Klaviyo:D2C企業向けのMAツールで評価額1兆円超の海外SaaS企業で、ターゲティング精度を上げるために顧客DBの品質向上に注力しており、350を超えるマルチチャネルから獲得したデータを統合して一元管理

ZoomInfo:営業リスト作成、MAツール提供、web広告配信最適化など、GTM戦略(=Go To Market)を総合支援するプラットフォーム「Zoominfo」は、様々なチャネルからのデータを統合してターゲティング精度を向上することで、プロダクト価値を実現

Attentive:SMSに特化したMAツールを提供する海外企業では、ターゲティング精度を上げるために顧客DBの品質向上に注力しており、shopifyやsaleforceなど100以上のプラットフォームからのデータ統合を実現

PLAID:オンサイトマーケティングツールを展開しており、高精度な「顧客DB」を構築するために「複数のチャネル」から集まるデータを「リアルタイム」で統合管理

AI統合戦略

AI Native SaaS化

AI統合は全SaaSに共通する最大トレンドです。AI機能を搭載したSaaSを提供することで、さらなる業務効率化をおこなう事例が増えており、特に「顧客DB」「購買DB」とAIの掛け合わせが急拡大しています。

Braze:オンサイトMAツールを提供する海外企業で、メッセージのパーソナライズ手段として「BrazeAI™」を提供しており、ブランドに沿ったコンテンツやクリエイティブの作成、ジャーニーや文面のパーソナライズを実現

Attentive:SMSに特化したMAツールを提供する海外企業で、AIによる配信キャンペーンの自動作成、パーソナライズ文面の自動作成、過去の商品購入履歴やサイト行動から商品の自動レコメンドなどを提供

Anaplan:海外市場で経営管理SaaSを展開しており、AI投資に積極的であり、販売計画、在庫計画、スケジュールなどのAI予測を実現

Ramp:海外で法人カード+経費管理SaaSを展開しており、AIを活用した支出管理機能のリリースを検討しており、購買DBをもとにAIがベンダーと価格交渉をおこなう機能、財務データ分析機能などを提供

ログラス:経営管理SaaSを多数提供しており、複数の計画領域に対して「with AI」で参入していく「AI ERP戦略」を掲げています

UPSIDER:法人カードを提供しており、「決済サービス会社」から「AI化された総合金融機関」への進化を掲げており、AIが稟議、契約、支払申請を効率化するサービス「AI Coworker」や、カード事業で培ったAI与信を活用して融資を進めるサービス「UPSIDER Capital」を展開

AIエージェント構築

AI統合の次の進化系が「AIエージェント」です。従来のAI機能は、文章生成、予測分析、レコメンドといった「意思決定支援」や「作業補助」が中心でした。しかしAIエージェントは、業務そのものを自律的に実行する存在へと進化しています。SaaSは今、「人が使うツール」から「AIが業務を実行するプラットフォーム」へ変わり始めています。

LayerX:経費精算・請求書処理などのバックオフィスSaaS「バクラク」を展開しており、同社は単なる業務効率化にとどまらず、「稟議の内容理解」「証憑チェック」「不備指摘」「仕訳補助」などをAIが担う「AIエージェント化」を推進しています。これは単なる「AI機能搭載SaaS」ではなく、“経理担当者の代わりに業務をこなす存在”を目指す戦略です。SaaSのUIの中にAIを埋め込むのではなく、SaaSそのものをAIの実行基盤へと進化させています。

Salesforce:Salesforceは、CRM基盤上にAIエージェントを組み込む「Agentforce」戦略を推進しています。Agentforceは、リードの優先順位付け、商談要約、フォローアップメール生成、次アクション提案、顧客問い合わせ対応などを自律的に実行します。従来のCRMは「データ管理ツール」でしたが、Agentforceにより、“AIが営業活動を主導するプラットフォーム”へと進化しています。特に重要なのは、Salesforceが長年蓄積してきた「顧客DB × 行動履歴 × 商談データ」をAIが横断的に活用できる点です。データ基盤を押さえている企業ほど、AIエージェント化は加速します。

SaaS以外への事業拡大

XX Pay(決済領域)への参入

購買DBを押さえた後に、決済へ進出する事例が増加しています。決済は高収益かつデータ蓄積が進むため、SaaS成長の第二エンジンになります。

Procore:海外の建設業界においてバーティカルSaaSの先駆者であり、決済サービス「Procore Pay」を提供しており、複数のプロジェクトで複数の給与申請を管理する工数を削減し、また通常の決済プロセスとは異なるワークフローを効率化

Olo:レストランテック領域の海外SaaS企業で、レストラン向けにオンライン注文に関するSaaSを複数提供しており、最近では「Olo Pay」を開始して、Oloのネットワーク内のレストランにおけるオンライン購入を実現

SaaS×BPO(BPaaS)

SaaS事業からのアップセルやクロスセルを目的として、プロダクトと業務代行を組み合わせるモデルです。SaaS単体ではなく、成果提供型モデルへ進化しています。

PLAID:オンサイトマーケティングツールを展開しており、アップセルやクロスセルを目的として、事業開発支援やマーケティング支援、データ分析支援など、プロダクトとシナジーがある「BPOサービス」を提供

kubell:チャットツール「chatwork」を提供しており、次の成長レバーとしてBPaaS戦略を掲げており、chatworkの利用ユーザーに対して、BPO業務支援のサービス導入を進めるための「chatworkアシスタント」をリリースしています。

ジョーシス:「SaaS管理」と「ITデバイス管理」のSaaSを提供しており、2つの「BPOサービス」を提供しており、アンケート結果を基にSaaSのアカウントや権限の管理状況を調査する「SaaSドック」と、診断結果を基に、アカウントの削除や権限変更を代行する「SaaSキュア」を展開

まとめ

国内・海外SaaSの最新トレンドを整理すると、共通する本質は以下の通りです。

・単一機能からマルチプロダクトへ
・データベースを押さえる企業が勝つ
・決済・金融への拡張が加速
・AI統合は必須
・ネットワーク効果の構築が最終形態
・ロールアップM&Aで業界再編

SaaSは「便利なツール」から「業界インフラ」へ進化しています。SaaS事業の立ち上げやプロダクト戦略設計でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

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プロダクト戦略・新規事業ガイド:アイデア〜PMF〜マルチプロダクトまでの実践ロードマップ

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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