システムリアーキテクチャとは?|考え方/特徴/仕組み/目的を解説

システムリアーキテクチャとは、業務機能はそのままに、モノリシックな構造を作り替えて変更容易性と拡張性を高める技術的な再設計を指します。長年運用してきた基幹システムに新機能を一つ追加するだけで影響範囲の調査に何週間もかかる、デプロイのたびに関係のない機能まで巻き込んで止まる、特定の担当者しかコードの全体像を把握していない――こうした状態は、機能の不足ではなく、システムを支える構造そのものが変更に追随できなくなっているサインです。

本記事では、システムリアーキテクチャの考え方と位置づけ、モノリスからマイクロサービスへ分解する発想、アセスメントから段階移行までの進め方、DDDやイベントストーミングといった設計手法、クラウドネイティブ化を支える主要機能、そして混同されやすいモダナイゼーション・刷新・更改・リニューアルとの違いを順に解説します。アーキテクトやエンジニアの方が、自社の技術的負債をどこから手をつけるべきか判断する材料としてお使いいただける内容です。

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システムリアーキテクチャとは何か?全体像と位置づけ

システムリアーキテクチャの全体像を検討するアーキテクトとエンジニア

システムリアーキテクチャは、業務要件や画面仕様を変えずに、システム内部の構造そのものを設計し直す取り組みです。UIを刷新するリニューアルや、契約更新のタイミングで乗り換える更改とは異なり、ソフトウェアの内側にあるモジュール分割、データの持ち方、通信の方式といった技術的な設計を対象にする点に特徴があります。

「構造そのものの再設計」という定義とスコープ

リアーキテクチャが扱うスコープは、単一の巨大なアプリケーション(モノリス)を、独立してデプロイ・拡張できる小さな単位に分解し直すこと、業務ドメインの境界に沿ってデータと処理をまとめ直すこと、そしてサービス間の通信をAPIとして明確に定義し直すことの三つに集約されます。見た目の機能や操作性は変わらないため、経営層からは投資対効果が見えにくい一方、開発・運用の現場では変更のたびに発生していた手戻りやリリース調整の負荷が直接軽減される取り組みです。

モダナイゼーションの手法群における位置づけ

システムのモダナイゼーションには、稼働環境をそのまま移すリホスト、設定を調整するリプラットフォーム、内部構造を見直すリファクタリング、作り直すリビルド、既製サービスへ置き換えるリプレースなど複数の手法があります。システムリアーキテクチャは、このうちリファクタリングとリビルドをさらに深掘りし、「モノリスをどう分解し、どの設計手法でドメインの境界を引くか」という構造設計そのものに焦点を当てた技術専門領域です。手法の全体像を横断的に知りたい場合は、モダナイゼーションの総論記事とあわせて確認すると理解が進みます。

IT部門・アーキテクト・エンジニア向けの技術領域です

経営判断としての刷新や、契約・保守終了を起点とする更改とは異なり、システムリアーキテクチャの議論の中心にいるのは情報システム部門、アーキテクト、開発チームです。検討の出発点も「いつ乗り換えるか」ではなく、「どこにコードの結合度が高く、変更のたびにリスクが連鎖しているか」という技術的な観察になります。経営層への説明では、開発速度の低下や障害復旧の遅さといった事業影響に翻訳して伝える必要があります。

モノリスからマイクロサービスへ―構造を再設計する考え方

モノリスからマイクロサービスへの分解を検討するホワイトボード

モノリスは、一つのプログラムの中に多数の機能が密に結合した構造です。開発初期は効率的でも、機能追加が重なるにつれてモジュール間の依存が絡み合い、ある画面の改修が別の帳票処理に影響するといった予期しない副作用が起きやすくなります。マイクロサービス化は、この密結合を業務単位で切り離す代表的なアプローチです。

モノリスが抱える変更容易性の限界

単一のコードベースにすべての業務ロジックが同居していると、一部の機能だけを更新したくても、全体を再ビルド・再デプロイする必要が生じます。テスト範囲も自然と広がり、リリース頻度を上げようとするほど確認工数が膨らむという矛盾を抱えます。また、特定の機能だけ負荷が高くなっても、システム全体をスケールさせる以外の対処が難しく、インフラコストが不必要に増える原因にもなります。

サービス境界の切り出しとAPI-first設計

分解の単位は、技術的な都合ではなく業務ドメインの境界に沿って決めることが基本です。在庫、注文、請求といった業務のまとまりごとにサービスを切り出し、サービス間のやり取りはAPIとして明確に定義します。この際、実装より先にAPI仕様を確定させるAPI-first設計を採ると、フロントエンドや外部連携の開発をバックエンドの完成を待たずに並行して進められます。

オーバーシュート(過度な細分化)のリスク

マイクロサービス化には、細かく分割するほど良いという単純な話ではない難しさがあります。サービスを過剰に細分化すると、サービス間通信のオーバーヘッドが増え、複数サービスにまたがるデータの整合性を保つ仕組みが必要になり、障害発生時の切り分けやテストの工数も急増します。分解の粒度は、開発チームの体制や変更頻度の実態に合わせて、段階的に検証しながら決めることが欠かせません。

アセスメントから段階移行までの進め方

システムリアーキテクチャの工程を段階的に整理するプロジェクトチーム

システムリアーキテクチャは、一般的に現状アセスメント、切り分けと優先順位付け、設計手法の選定、段階的な実装、稼働後の運用最適化という順序で進みます。工程ごとに投入する期間の目安を持っておくと、途中で規模感を見失いにくくなります。

現状アセスメントと優先順位付け

最初の2〜3ヶ月程度は、既存システムのコード依存関係、データの持ち方、変更頻度の高い機能を洗い出すアセスメントに充てるのが一般的です。続く1〜2ヶ月で、どの領域から着手するかを優先順位付けします。変更頻度が高くビジネス影響も大きい領域を先に切り出すと、投資対効果を早期に示しやすくなります。

ストラングラーフィグパターンによる段階移行

既存システムを一度にすべて置き換えるビッグバン方式は、業務停止のリスクが大きく、切り戻しも困難です。実務では、モノリスを稼働させたまま、切り出した機能単位から少しずつ新しい構造へ移行するストラングラーフィグパターンが基本戦略になります。既存システムの前面にAPIゲートウェイを置き、影響の小さい一機能から新サービスへ振り分け、問題がないことを確認しながら対象を広げていく進め方です。

期間感と工程別の内訳

主要なサブシステム全体をクラウドネイティブ化する規模のリアーキテクチャでは、着手から本稼働まで概ね12〜30ヶ月が目安とされます。一方、変更頻度が高い範囲に限定してマイクロサービス化する場合は8〜18ヶ月程度に収まることが多く、対象範囲の絞り方が期間を大きく左右します。武田薬品工業が公表しているグローバルシステム刷新の事例では、事業ドメインごとに段階移行するトランシェ方式を採用し、12カ月で本稼働に至ったとされています。ただし、これは特定企業の取り組みであり、同じ期間で完了することを保証するものではありません。

DDD・イベントストーミングで境界を見極める設計手法

DDDとイベントストーミングでドメインの境界を検討するワークショップ

サービスをどこで区切るかは、システムリアーキテクチャの成否を左右する最大の論点です。ドメイン駆動設計(DDD)とイベントストーミングは、コードを書き始める前に業務知識を整理し、境界の妥当性をチームで検証するための代表的な手法です。

境界づけられたコンテキストの分析

DDDでは、「同じ用語でも部署によって意味や粒度が異なる」という前提に立ち、業務ごとに意味が一貫する範囲を境界づけられたコンテキストとして定義します。例えば「顧客」という言葉一つとっても、営業部門と経理部門では管理したい属性が異なることが珍しくありません。この境界をコードよりも先に言語化しておくことで、サービス分割の単位に業務上の裏付けを持たせられます。アセスメントから優先順位付けまでの期間内に、合計で3〜5ヶ月程度をこの分析に充てるプロジェクトも見られます。

イベントストーミングの進め方

イベントストーミングは、ドメインエキスパートとエンジニアが同じ場に集まり、業務上起こる出来事(ドメインイベント)を付箋に書き出して時系列に並べていくワークショップです。「注文が確定した」「在庫が引き当てられた」といった事象を可視化する過程で、どこまでを一つのサービスにまとめるべきかが自然と見えてきます。コードを書く前に業務側と技術側が同じ地図を共有できることが最大の効果です。

アーキテクチャスパイクによる技術的検証

設計上の境界が定まっても、実際の技術基盤でその通りに動くとは限りません。アーキテクチャスパイクは、本番品質を求めず数日から数週間で使い捨てのコードを書き、技術的な不確実性だけを検証する手法です。例えば新しい実行基盤でのレイテンシを測る、イベント駆動でデータ整合性が保てるかを試すといった検証を先に済ませておくと、本格実装後の手戻りを大きく減らせます。

クラウドネイティブ化を支える主要機能とパターン

クラウドネイティブなアーキテクチャパターンを構成する要素

境界が定まった後は、それを実際に動かす技術基盤の選定に移ります。システムリアーキテクチャでは、API-first設計、コンテナ実行基盤、分散トランザクションの整合性確保という三つの要素を組み合わせて使うことが一般的です。

OpenAPI/Swaggerによる設計先行とモックAPI

OpenAPIやSwaggerを使ってAPI仕様を先に確定させ、それをもとにモックAPIを自動生成しておくと、バックエンドの実装が完了する前からフロントエンドや外部連携先の開発を進められます。仕様書がそのままドキュメントとして機能するため、サービスをまたいだ担当者間の認識合わせにも役立ちます。

コンテナオーケストレーションとサービスメッシュ

分割したサービスをDockerでコンテナ化し、Kubernetesで稼働管理する構成は、サービスごとに異なる言語やデータベースを選べる自由度の高さが利点です。サービス数が増えると、通信の暗号化や再試行、可観測性の確保といった運用面の課題も増えるため、Istioなどのサービスメッシュを組み込むケースもあります。ただし、これらの基盤は学習・運用コストが高く、組織の運用能力を超えて導入すると、かえって「新たな運用ブラックボックス」を生む点には注意が必要です。

分散トランザクションとSagaパターン

モノリスでは一つのデータベーストランザクションで完結していた処理も、サービスを分割すると複数サービスにまたがる形になり、途中で失敗した場合の整合性維持が課題になります。Sagaパターンは、各サービスの処理を一連のローカルトランザクションとしてつなぎ、途中で失敗した場合には既に完了した処理を打ち消す補償処理を実行することで、全体としての整合性を保つ考え方です。分割前の設計段階で、どの業務フローに補償処理が必要になるかを洗い出しておくことが重要です。

システムリアーキテクチャと関連する他の刷新手法を比較する図

「システムを新しくする」という文脈で語られる言葉には、リアーキテクチャのほかにもモダナイゼーション、刷新、更改、リニューアルがあり、混同されがちです。それぞれ出発点となる問いが異なるため、社内で用語を整理しておくと、部門間の会話がかみ合いやすくなります。

モダナイゼーション(5手法総論)との違い

モダナイゼーションは、リホストからリプレースまでの手法群を横断的に扱う総論的な概念であり、「自社に合う手法をどう選ぶか」というHOWの議論が中心です。システムリアーキテクチャは、その中でも構造の作り替えを伴う手法を選んだ後に必要となる、モノリス分解やドメイン境界の設計そのものを扱う専門領域です。総論での手法選定が終わった後の実行フェーズで参照する情報と位置づけると分かりやすくなります。

刷新・更改・リニューアルとの違い

システム刷新は、事業戦略の転換や競争力強化といった経営判断としての「WHY・WHEN」を起点にする議論であり、必ずしも構造の再設計を伴うとは限りません。システム更改は、保守契約の終了やハードウェアの提供終了(EOS・EOL)といった契約上の期限を起点にする取り組みで、多くの場合は既存の設計思想を踏襲したまま置き換えます。システムリニューアルは、利用者の操作性や顧客体験(UX・UI)の改善を起点にする取り組みで、内部構造まで手を入れるとは限りません。これらに対し、システムリアーキテクチャは経営判断や契約期限、画面刷新を直接の起点とはせず、「変更のたびに影響範囲が広がる」という技術的な症状そのものを起点にする点が本質的な違いです。

システムリアーキテクチャ導入前に確認しておきたいポイント

システムリアーキテクチャ導入前に確認する項目を整理する担当者

システムリアーキテクチャは技術的な取り組みですが、判断を誤ると費用や体制の面で大きな負担を招きます。着手前に、費用感、運用体制との適合、対象範囲の絞り方という三点を確認しておくことが重要です。

費用感と隠れたコストを見積もります

主要サブシステム全体をクラウドネイティブ化する規模では初期投資が3,000万円から2億円程度、範囲を限定したマイクロサービス化では2,000万円から8,000万円程度、連携基盤を整えるAPI化のみであれば500万円から2,000万円程度が目安とされます。ベンダーへの支払額だけでなく、社内教育や並行稼働にかかる費用を含めた実質的な総費用は、支払額の1.3〜1.5倍程度を見込んでおくと、稟議段階での想定外を減らせます。

運用体制とのミスマッチという落とし穴

マイクロサービス化によって監視・管理対象が分散システムとして複雑になると、サービスメッシュのような高度な基盤の学習コストに現場が耐えられず、導入が形骸化するリスクがあります。加えて、クラウド利用料の管理体制(FinOps)が整っていないと、従量課金の想定超過にも気づきにくくなります。分解の設計だけでなく、それを運用し続けるための人材と体制が自社にあるかを、着手前の段階で見極める必要があります。

対象範囲を全体か限定領域かで見極めます

変更頻度が特に高い一部の業務領域だけを先に分解するか、主要サブシステム全体を対象にするかによって、必要な期間・費用・体制は大きく変わります。最初から全体を対象にすると、オーバーシュートのリスクや運用の複雑化を招きやすいため、多くのプロジェクトでは影響の大きい領域から段階的に着手します。どの評価軸で対象範囲や実施体制を絞り込んでいくかは、システムリアーキテクチャの選定ポイントで具体的に解説しています。

まとめ

システムリアーキテクチャの要点をまとめる技術チーム

システムリアーキテクチャは、業務機能を変えずにシステムの内部構造を作り替え、変更容易性と拡張性を取り戻すための技術的な再設計です。モノリスからマイクロサービスへの分解、DDDやイベントストーミングによる境界の見極め、ストラングラーフィグパターンによる段階移行、Sagaパターンによる整合性確保といった要素を組み合わせながら、オーバーシュートや運用体制とのミスマッチを避けて進めることが成功の鍵になります。

リアーキテクチャは経営判断の代わりではありません

構造を作り替えても、業務要件そのものの見直しや事業戦略の転換にはつながりません。刷新や更改が必要な経営課題と、技術的な変更容易性の課題を混同せず、自社が今どちらに直面しているのかを切り分けて判断することが大切です。

まずは技術的負債の所在を可視化することから始めます

着手前には、どの機能で変更のたびに影響範囲が広がっているか、どこにモジュール間の結合が集中しているかを可視化してください。優先順位が明確になれば、DDDによる境界設計から着手するか、限定領域のAPI化から始めるかといった実行方針も具体化できます。既存のモノリスをどこまで分解し、どの範囲を段階的に移行するかは案件ごとに事情が異なるため、標準的な進め方だけでは対応しきれない業務要件も少なくありません。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、既存システムの構造分析、段階移行の設計、既存システムとの連携を含むリアーキテクチャの実装を支援しています。

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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

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