SAP導入のパッケージ/クラウド製品一覧とは、SAPが現行提供するクラウドERPのエディションと導入プログラムを整理し、自社に合う候補を絞り込むための一覧を指します。SAP導入を検討し始めると、S/4HANAという製品名だけでなく、GROW with SAPやRISE with SAPといった導入プログラムの名称も次々に出てきますが、名称の違いが何を意味するのかは資料を読むだけでは判断しにくいものです。名称から入るのではなく、自社がパブリック型とプライベート型のどちらの提供形態に合うのか、既存のECC資産をどう移行したいのかを先に整理しておくことが、比較の出発点になります。
本記事では、2026年7月時点でSAP公式ニュースサイト等から現行提供を確認できた5つのクラウド・オファリングを中心に、パッケージ型とクラウド型の違い、比較すべき共通軸、課題別の選び方、料金・契約前の確認事項、導入パートナー選定のポイントを解説します。中小企業向けのパッケージ製品については本稿執筆時点で公式ページの直接確認ができなかったため、確認できた範囲に絞って紹介します。
SAPの提供形態:パッケージ型(オンプレミス)とクラウド型の違い

SAPの提供形態は、大きく自社サーバーに構築するオンプレミス型のパッケージと、SAPがインフラ・運用まで含めて提供するクラウド型に分かれます。近年SAPが新規契約で前面に打ち出しているのはクラウド型であり、GROW with SAPやRISE with SAPという導入プログラムの多くもクラウド型を前提に設計されています。まずは両者の性質の違いを押さえたうえで、次章以降で個別のオファリングを見ていきます。
パッケージ型(オンプレミス)という選択肢
従来型のSAPパッケージは、自社または委託先のデータセンターにサーバーを構築し、ライセンスを買い切る形態を指します。自社固有のセキュリティ基準や閉域網、独自インフラへの対応がしやすい反面、サーバーの調達・監視・バージョンアップを自社側で担う範囲が大きくなります。中小企業向けにパッケージ提供される製品も存在するとされますが、本稿執筆時点では該当製品の公式ページを直接確認できなかったため、本記事の一覧には含めていません。導入を検討する場合は、SAPジャパンまたは正規販売パートナーへ直接、現行の提供状況と対象企業規模を確認することをおすすめします。
クラウド型(RISE with SAP/GROW with SAP)という選択肢
クラウド型は、インフラの調達・運用をSAP側に委ね、サブスクリプションで利用する形態です。RISE with SAPとGROW with SAPは、いずれもS/4HANA Cloudを中核に、移行支援やベストプラクティスをパッケージ化した導入プログラムであり、単体の製品名というより「契約・導入の枠組み」として理解しておくと、比較の際に混乱しにくくなります。既存のオンプレミス資産をどこまで引き継ぐかによって、選ぶべきプログラムが変わってきます。
製品/オファリングを比較する共通軸

個々のオファリングの名称や機能一覧を読み比べるだけでは、自社にとっての適合度は判断できません。対象企業規模、提供形態(パブリック/プライベート)、既存資産の移行方式という共通軸で、候補を横並びに整理することが重要です。
対象企業規模と統合範囲で絞り込みます
SAPのクラウド・オファリングは、大企業から中堅企業までを主な対象としており、対象業務範囲(会計のみか、購買・生産・販売まで含めるか)によって、必要なモジュール数と設定工数が大きく変わります。まず自社がどこまでの業務範囲を一つの基盤に統合したいのかを言語化し、その範囲を実現できるエディションかどうかを確認します。
提供形態(パブリック/プライベート)と移行方式で絞り込みます
パブリック・エディションは標準機能への適合(Fit to Standard)を前提に、短期間・低コストで始めやすい設計です。一方プライベート・エディションは、既存のカスタマイズや個別要件を一定程度引き継ぎながらクラウドへ移行できる設計とされています。既存のECCなどオンプレミス資産をどこまで引き継ぐ必要があるかが、どちらの提供形態が向くかを分ける最大の判断材料になります。
SAP導入で検討できる主要クラウド・オファリング5選

ここでは、2026年7月時点でSAP公式ニュースサイト(news.sap.com)等から現行提供を確認できた5つのクラウド・オファリングを紹介します。掲載順は優劣を示すランキングではなく、いずれも企業規模や移行方針によって適合度が変わります。
SAP S/4HANA Cloud, Public Edition
SAP S/4HANA Cloud, Public Editionは、SAPの標準ベストプラクティスに業務を合わせるFit to Standardを前提とした、パブリック型のクラウドERPです。SAP公式ニュースサイトでは、財務・人事領域のアドオンパッケージ拡充など、継続的な機能追加が報告されており、標準機能を軸に短期間での立ち上げを重視する企業に向いた選択肢とされています。料金は個社の契約条件によって変わるため、本稿では具体的な金額は扱わず、後述の見積もり確認の観点を参考にしてください。
SAP Cloud ERP Private(旧S/4HANA Cloud, Private Edition)
SAP Cloud ERP Privateは、既存のカスタマイズや個別要件を引き継ぎながらクラウドへ移行したい企業向けのプライベート型オファリングです。SAP公式ニュースサイトでは2025年から2026年にかけて複数回にわたり機能強化が発表されており、直近では2026年7月にIBMとの共同クラウドソリューションを通じた採用拡大が報告されるなど、大企業を中心に採用が進んでいることが確認できます。カスタマイズの引き継ぎ範囲や移行期間は個別プロジェクトの要件定義を経て確定するため、早い段階でパートナーとすり合わせておくことが重要です。
GROW with SAP
GROW with SAPは、SAP S/4HANA Cloud, Public Editionを中核に、導入方法論・移行ツール・ベストプラクティスをパッケージ化した導入プログラムです。SAP公式ニュースサイトでは、成長企業向けのアドオンパッケージ拡充が継続的に発表されており、新規にクラウドでSAPを始めたい中堅・成長企業を主な対象とした位置づけであることがうかがえます。単体の製品というより、標準化を前提にした導入の進め方そのものを指す点が、他のオファリングとの大きな違いです。
RISE with SAP
RISE with SAPは、クラウドインフラ、運用、S/4HANA、SAP Business Technology Platformをワンパッケージで提供する、大企業の基幹刷新を主な対象とした導入プログラムです。SAP公式ニュースサイトでは、複雑な移行プロジェクトを支援する新サービスの追加や、バイオテック企業における導入事例などが報告されており、既存のオンプレミス資産からの大規模な移行を伴うプロジェクトで選ばれる傾向がうかがえます。単なるシステム更改というより、業務プロセスの標準化を伴う変革プロジェクトに近い性質を持つ点は、社内の受容体制を検討するうえで踏まえておく必要があります。
SAP Business AI
SAP Business AIは、既存のSAP導入環境に組み込む形で提供される、埋め込み型のAI機能群です。SAP公式ニュースサイトでは四半期ごとのリリース情報が継続的に発表されており、2026年第2四半期のリリースハイライトや、パートナー各社との事例が報告されています。単体でSAP導入プロジェクトの対象になるものではなく、S/4HANA Cloudなど基幹となるオファリングを導入したうえで、業務自動化を追加拡張する位置づけの候補として検討します。
課題・目的別に候補を絞る方法

5つのオファリングを一斉に細部まで比較するより、自社が置かれている状況を一つ決め、そこから必須要件で候補を絞り込むほうが効率的です。
新規にクラウドでシンプルに始めたい場合
自社にSAPの導入実績がなく、標準機能への適合を前提に短期間で立ち上げたい場合は、GROW with SAPを起点にSAP S/4HANA Cloud, Public Editionを検討します。カスタマイズを極力抑え、標準のベストプラクティスに業務を合わせられるかどうかが、この選択肢が向くかどうかの判断材料になります。
既存のECC資産を段階的に移行したい場合
既存のオンプレミス版SAP ECCなどを長年運用しており、カスタマイズや個別業務ルールを一定程度引き継ぎたい場合は、RISE with SAPを起点にSAP Cloud ERP Privateへの移行を検討します。2027年問題を見据えた移行圧力がある企業では、引き継ぐべきカスタマイズの棚卸しを早期に始めておくことが、移行期間の見通しを立てるうえで重要です。
既存のSAP環境にAI活用を追加したい場合
すでにSAP環境を導入済みで、業務自動化やデータ活用を追加で強化したい場合は、SAP Business AIの適用範囲を確認します。既存環境のバージョンや契約内容によって利用できる機能が異なるため、追加導入を検討する際は、現行の保守契約先やSIerを通じて対応可否を確認することが確実です。
料金・契約前に確認すべきこと

SAPのクラウド・オファリングは、いずれも公開の一律料金表を持たず、契約規模や利用範囲に応じた個別見積もりが基本です。本稿では確認できない具体的な金額は扱わず、見積もり時に確認すべき観点を整理します。
料金は非公開で個別見積もりが基本です
SAP公式ニュースサイトや製品ページでは、いずれのオファリングについても一律の料金表は公開されていません。対象ユーザー数、利用モジュール範囲、契約期間、既存資産の移行量によって見積もり金額は大きく変わるため、複数のパートナーへ同じ利用条件を提示し、同じ条件での見積もりを取得することが比較の前提になります。
契約前に確認すべきTCOとAMSの範囲
初期のサブスクリプション費用だけでなく、RISE with SAPやGROW with SAPに含まれるAMS(アプリケーション管理サービス)の範囲、追加開発費用、パートナーへの運用委託費、社内人件費を含めた複数年スパンのTCOで比較します。契約に含まれる運用支援の範囲は各社の提案によって差があるため、稼働後にどこまでをSAPおよびパートナーが担い、どこからを自社が担うのかを、契約前に線引きしておく必要があります。
導入パートナー・SIer選定で確認すべきこと

同じオファリングを選んでも、実装を担うパートナーによって進め方や成果は大きく変わります。提案内容の分かりやすさだけでなく、実績と移行方式への対応力を確認します。
RISE/GROW with SAPパートナーの実績を確認します
RISE with SAPやGROW with SAPは、SAP自身がインフラや運用の一部を提供する一方、要件定義や設定、データ移行の実務は認定パートナーが担う体制が一般的です。候補となるパートナーには、自社と近い業種・規模でのプロジェクト実績があるかどうかを確認し、可能であれば類似プロジェクトの担当者から具体的な進め方を聞く機会を設けるとよいでしょう。
移行方式(グリーンフィールド/ブラウンフィールド)への対応力を確認します
既存システムからの移行では、新規に作り直すグリーンフィールド、既存設定を引き継ぐブラウンフィールド、必要な部分だけを選ぶ選択的移行という進め方があります。パートナーに対しては、自社が引き継ぎたいデータ・業務ルールを具体的に提示したうえで、どの移行方式を推奨するか、その理由とあわせて確認することが、提案の質を見極める材料になります。
SAP導入前に確認しておきたいポイント

候補となるオファリングやパートナーを絞り込んだ後も、事前に確認しておきたい論点がいくつかあります。
中小企業でもクラウド型SAPは選択肢になるか確認します
対象業務範囲を絞り込み、標準機能への適合を徹底できれば、中堅・成長企業であってもGROW with SAPを起点としたクラウド導入は選択肢になり得ます。ただし、統合範囲の広さゆえに、他のミッドマーケットERPと比べて設定・テストの工数が大きくなりやすい点は踏まえておく必要があります。
中小企業向けパッケージ製品は本稿では確認できていません
SAPには中小企業向けにパッケージ提供される製品も存在するとされますが、本稿執筆時点(2026年7月)では該当製品の公式ページへ直接アクセスできず、現行の提供状況を確認できませんでした。そのため本記事の一覧には含めておらず、該当する製品を検討したい場合は、SAPジャパンまたは正規販売パートナーへ直接、最新の提供状況・料金体系を確認することをおすすめします。
2027年問題を踏まえた移行スケジュールを確認します
SAP ECC 6.0の主流保守サポートは2027年12月31日で終了予定とされ、既存システムからの移行が必要な企業では、駆け込みでのプロジェクト増加によるコンサルタント・エンジニアのリソース逼迫が懸念点として指摘されています。ただし、これは現時点での見立てであり確定情報ではないため、自社の契約更新時期と照らし合わせ、どのオファリングへ、いつまでに移行するかを個別に見極める必要があります。
まとめ

SAP導入のパッケージ/クラウド製品一覧は、名称の多さに惑わされず、自社が新規導入か既存資産の移行かを整理したうえで、パブリック型・プライベート型どちらの提供形態に合うかを見極めることから始まります。今回紹介したSAP S/4HANA Cloud, Public Edition、SAP Cloud ERP Private、GROW with SAP、RISE with SAP、SAP Business AIには、それぞれ対象企業・移行方針・役割の違いがあります。
課題整理から2〜3オファリングへ絞り込みます
新規導入か既存移行か、標準化をどこまで許容できるかを整理すれば、比較すべきオファリングは自然と2〜3件に絞られます。対象企業規模、提供形態、移行方式という共通軸で候補を並べ、広告的な訴求に左右されず判断してください。評価軸をより詳しく整理する進め方は、SAP導入の選定ポイント・選び方・種類で解説しています。
最終判断は個別見積もりとPoCで行います
資料上の機能一覧や名称だけで最終決定せず、複数パートナーへ同じ利用条件を提示した見積もりと、実業務シナリオを使ったPoCで最終判断してください。既製のクラウド・オファリングだけでは吸収しきれない独自業務がある場合、フルスクラッチ開発や既存システムとの連携を含むハイブリッド構成も選択肢になります。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、SAP導入プロジェクトにおける独自業務要件の整理や、既存システムとの連携を含む構築を支援しています。SAP導入そのものの基本的な考え方はSAP導入とは?|考え方・特徴・仕組み・目的を解説で整理しています。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
