MES改修の保守・運用費用・ランニングコストについて

MES改修とは、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)を全面的に作り替えるのではなく、特定工程の実績入力画面の修正や、特定設備・PLCとの連携追加といった、部分的・小規模な範囲に絞って手を加える取り組みです。「MESのモダナイゼーション」「MES刷新」「MESのリアーキテクチャ」「MESリプレイス」がシステム全体または大部分を対象にした刷新であり、「MES更改」が保守契約満了・EOS/EOLという期限を起点にした全体入れ替え、「MESのリニューアル」が現場オペレーターの操作体験の刷新であるのに対し、本記事が扱うMES改修は、システム全体には手を入れず「今困っている特定の箇所だけ」を対象にする点で異なります。この対象範囲の違いは、開発期間だけでなく、稼働後にかかり続ける保守・運用費用の構造にもそのまま反映されます。全面刷新であれば数百万〜数千万円規模の年間保守費が発生するのに対し、部分改修であれば保守対象を限定できる分、ランニングコストも小さく抑えられるという点が、予算制約のある企業にとって大きな魅力になります。特に、限られたIT予算の中で優先度の高い課題から順に手を打っていきたいと考える中小規模の製造業にとって、「保守費用がどれだけ増えるのか」は改修の意思決定を左右する重要な判断材料です。全面刷新を検討する際は投資対効果(ROI)や中長期の経営戦略との整合性が問われますが、部分的な改修であれば、月々の保守費用が現実的に払い続けられる水準かどうかという、より身近な視点で判断できます。この身近さこそが、MES改修という選択肢が予算制約企業に選ばれる理由です。稟議を通す際にも、経営層に対して「今回の改修で保守費用が月額何万円増えるのか」を具体的な金額で提示できるため、意思決定のスピードそのものが全面刷新に比べて速くなる傾向があります。

本記事では、対象システム種別を問わない総論や、システム全体の作り替えを前提とする他6波の記事群とは異なり、MESの部分的・小規模な改修に対象を限定したうえで、保守・運用費用・ランニングコストにフォーカスして解説します。保守費用の相場感、全面刷新との費用差、低予算に抑えられる3つの理由、そしてランニングコストをさらに最適化するポイントまでを、具体的な数値とともに体系的にお伝えします。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・MES改修の完全ガイド

MES改修の保守・運用費用の位置づけ

MES改修の保守・運用費用の位置づけ

MES改修の保守・運用費用を正しく見積もるには、まず「保守対象の範囲」が全面刷新とはまったく異なるという前提を理解しておく必要があります。システム全体を保守するのか、改修した一部の機能だけを保守するのかによって、費用の桁が変わってきます。

他6波との違い(保守対象範囲の広さが費用構造を決める)

「MESのモダナイゼーション」「MES刷新」「MESのリアーキテクチャ」「MESリプレイス」は、システム全体を新しい環境・アーキテクチャ・製品に移行するプロジェクトであり、稼働後の保守・運用費用もシステム全体を対象にした契約になります。「MES更改」は保守契約満了やEOS/EOLという期限を起点にシステム全体を入れ替えるため、更改後の保守費用も同様にシステム全体が対象です。「MESのリニューアル」は実績入力画面という現場UIの刷新に特化していますが、それでも稼働後は継続的なUI/UX改善のPDCA体制費用がかかります。これらに対して本記事が扱うMES改修は、改修した実績入力画面1画面分、あるいは追加した設備連携1件分のみが保守対象になるため、保守契約の範囲そのものが最初から小さく、これが費用構造の違いの出発点になります。

もちろん、既存のMES全体をカバーする既存の保守契約がすでに存在する場合は、その契約に今回の改修分を追加するのか、改修分だけを別契約にするのかという選択も生じます。既存契約に統合できれば契約手続きの手間も費用も抑えられる一方、既存契約のベンダーが今回の改修範囲(新設備連携など)に対応できない場合は、部分的に別ベンダーへ依頼せざるを得ないこともあります。どちらの形を取るにせよ、保守契約の全体像を1枚の図や表にまとめて可視化しておくことが、費用の二重取りや責任範囲の空白を防ぐ第一歩になります。

保守費用の一般的な算出方法(改修費の年間15〜20%)

システム保守費用の相場は、業種を問わず一般的に「初期開発費(または改修費)の年間15〜20%」が目安とされています。MES改修においてもこの考え方は同様に適用でき、たとえば改修費用が500万円だった場合、その15〜20%にあたる年間75万〜100万円、月額換算で約6万〜8万円が保守費用の目安になります。この算出方法そのものは全面刷新とMES改修とで変わりませんが、母数となる「初期開発費(改修費)」の規模がまったく異なるため、結果として支払う保守費用の絶対額に大きな差が生まれます。まずはこの「割合×母数」という考え方を理解しておくことが、保守費用を見積もる出発点になります。

さらに実務では、改修規模がより小さい場合(軽微な画面修正や文言変更のみ)、年間の保守契約を結ばずスポット対応(都度見積もり・都度請求)で済ませる選択肢もあります。改修費用が数十万円規模にとどまる案件であれば、年間保守契約を結ぶよりも、不具合が起きたときだけ都度対応してもらう方が、トータルの支払額を抑えられるケースも少なくありません。どちらの契約形態が自社にとって有利かは、改修後にどれだけの頻度でシステムに手を入れる予定があるかによって変わるため、契約前にベンダーと相談しておくことが望ましいポイントです。

保守費用の相場感と全面刷新との比較

保守費用の相場感と全面刷新との比較

実際の数値で見ると、部分的・小規模な改修と全面刷新とでは、保守・運用費用の水準そのものが桁違いになります。ここでは、双方の相場を具体的に整理します。

小規模改修の保守費用(月額数万円〜10万円前後)

特定画面の修正や単一のPLC連携といった小規模なシステム改修に限定した場合、保守費用の目安は月額数万円〜10万円前後(年額50万〜150万円程度)に収まるケースが多く見られます。この水準であれば、多くの中小規模の製造業にとっても、社内予算で無理なく継続できる範囲に収まります。保守内容も、改修した実績入力画面の不具合対応や、連携先PLCの通信エラー対応といった限定的なサポートが中心になるため、月額固定費を最小限に抑えながら必要なサポートだけを受けられる点も、小規模改修ならではのメリットです。加えて、改修規模が小さいほど、保守を依頼する担当エンジニアの人数も1〜2名程度で済むことが多く、複数人体制での保守が必要になる全面刷新に比べて、コミュニケーションコストや調整の手間も小さく抑えられます。

全面刷新の保守費用(月額60万〜100万円以上)との桁違いの差

MESを含むエンタープライズ系の基幹システムを全面刷新した場合、初期開発費が数千万円〜数億円規模になるため、それに伴う保守費用も月額60万円〜100万円以上(年額720万円〜数千万円以上)と非常に高額になります。24時間365日対応や厳格なSLA(サービス品質保証)が求められる工場システムでは、待機体制の維持だけで高額な費用が発生することも珍しくありません。これに対し、部分的・小規模な改修であれば月額数万円〜10万円前後に抑えることができ、全面刷新と比較して毎月数十万円、年間で数百万円規模のランニングコストの削減が可能になります。この差の大きさこそが、限られた予算の中でシステムを維持していきたい企業にとって、MES改修という選択肢を後押しする最大の理由です。

また、複数機能にまたがる中規模改修(開発費1,500万〜2,000万円程度)を行った場合の保守費用は、年間225万〜400万円(月額約19万〜33万円)が目安となり、小規模改修と全面刷新のちょうど中間に位置づけられます。自社が検討している改修の規模がどのレンジに該当するかを事前に把握しておくことで、予算計画の精度を高めることができます。改修範囲を段階的に広げていく計画であれば、各段階でどれだけ保守費用が積み上がっていくかをあらかじめシミュレーションしておくことも、後になって想定外の負担に驚かないための実務的な備えになります。この3段階(小規模・中規模・全面刷新)のレンジ感を頭に入れておくだけでも、開発会社から提示された見積もりが自社の改修範囲に対して妥当な水準かどうかを、社内で一次判断できるようになります。

小規模改修が低予算で抑えられる3つの理由

小規模改修が低予算で抑えられる3つの理由

なぜMES改修は低予算で保守費用を抑えられるのか。その理由を理解しておくことで、保守契約を交渉する際の判断材料にもなります。ここでは代表的な3つの理由を見ていきます。

母数(改修費)が小さいこと・保守対象を限定できること

1つ目の理由は、保守費用が「開発費の15〜20%」という割合で計算されることが多いため、数億円かかる全面刷新に比べて、数百万〜数千万円で済む部分改修は、元となる開発費が圧倒的に安く、結果として保守費用も自動的に低予算になるという構造です。2つ目の理由は、保守対象(委託範囲)を限定できることです。システム全体の保守をベンダーに丸投げするのではなく、今回の改修で手を入れた実績入力画面やPLCとの連携プログラムの部分のみに保守・サポートの範囲を限定することで、無駄な工数見積もりを防ぎ、価格を安く安定させることができます。契約の段階で保守範囲を明確に線引きしておくことが、この効果を最大限に引き出すポイントです。

保守範囲を線引きする際に見落とされがちなのが、改修部分と既存部分の「境界」にあたる箇所です。たとえば、実績入力画面から呼び出される既存の在庫連携ロジックや、改修したPLC連携プログラムが出力するデータを受け取る既存の集計処理などは、改修の直接対象ではないものの、改修の影響を受ける可能性がある「グレーゾーン」に位置します。保守契約を結ぶ際は、こうした境界部分の不具合が発生した場合にどちらの保守範囲として扱うのかを、あらかじめベンダーと取り決めておくことが、後々のトラブルや追加費用の請求を防ぐうえで重要です。

従量課金・チケット制を活用できること

3つ目の理由は、稼働後のトラブル発生頻度の違いです。全面刷新直後はシステムが不安定になりやすいため、月額固定型での手厚い保守が必要になりますが、一部の画面修正やPLC連携追加のみであれば、既存の安定稼働部分に手を加える範囲が小さい分、稼働後のトラブルは比較的少なく済みます。そのため、毎月固定費を支払うのではなく、使った分だけ支払う従量課金型や、一定の作業時間を事前に購入しておくチケット制・ポイント制を選択することで、トラブルが起きなかった月の無駄な固定費を削り、ランニングコストを極小化できます。改修規模やトラブル発生頻度の見通しに応じて、月額固定型と従量課金型のどちらが自社に合っているかを、保守契約を結ぶ前に検討しておくことが賢明です。

チケット制を選ぶ場合は、1チケットあたりで対応してもらえる作業内容の目安(軽微な不具合修正1件分、マスタ変更1件分など)を事前にベンダーと擦り合わせておくことが重要です。目安が曖昧なまま契約すると、簡単な作業でも複数チケットを消費させられたり、逆に想定より多くの作業を1チケットに詰め込まれて対応品質が下がったりするトラブルにつながりかねません。年間で消費したチケット数を四半期ごとに振り返り、翌年度の契約チケット数を実態に合わせて見直していくことも、ランニングコストを無駄なく最適化するための実務上の工夫です。

ランニングコストをさらに最適化するポイント

ランニングコストをさらに最適化するポイント

もともと低予算に収まりやすいMES改修であっても、契約の結び方や改修の積み重ね方によって、ランニングコストにはさらに工夫の余地があります。ここでは2つの実務ポイントを解説します。

改修範囲を細分化しすぎない(積み重ねによる保守対象の肥大化を防ぐ)

1回ごとの改修は小規模であっても、年に何度も改修を積み重ねていくと、保守対象となる画面・連携プログラムの数がじわじわと増え、結果として保守費用の合計が全面刷新に近い水準へ膨らんでしまうことがあります。これを防ぐには、改修の都度、既存の保守契約に今回の改修分を統合できないかを確認し、契約を細切れに増やさないようにすることが重要です。また、半年〜1年に一度、これまで積み重ねてきた改修範囲を棚卸しし、保守対象が本当に必要な範囲にとどまっているかを見直すことも、ランニングコストの肥大化を防ぐ有効な習慣になります。

改修の履歴を一元管理する台帳を作成しておくことも、この棚卸しを効率的に行うための実務的な工夫です。「いつ・どの画面を・どの設備連携を・いくらで改修したか」を一覧化しておけば、次に改修を検討する際に過去の改修内容と重複していないか、あるいは統合できる余地がないかを判断しやすくなります。この台帳は、複数の開発会社に改修を依頼してきた企業ほど重要性が高く、担当者の異動や退職があっても改修の全体像を引き継げる資産として機能します。台帳には保守契約の満了日や更新条件もあわせて記録しておくと、契約更新のタイミングで内容を見直す機会を逃さずに済みます。

簡易なマスタメンテナンスの内製化

実績入力画面の項目名変更や、選択肢マスタの追加といった簡易なメンテナンス作業まですべて外部ベンダーに依頼すると、軽微な変更のたびに費用が発生し続けます。契約の段階で、こうした簡易なマスタメンテナンスをどこまで自社側の操作権限で行えるようにしてもらえるかを交渉しておくことで、外部への委託費用を継続的に抑えられます。あわせて、改修を依頼する際には見積もりの内訳(工数・単価)を明確にしてもらい、保守費用に含まれる作業範囲とスポット対応が必要になる範囲を事前に線引きしておくことが、想定外の追加費用を防ぐための実務上の備えになります。

マスタメンテナンスの内製化を進める際は、現場担当者が誤操作でシステム全体に影響を及ぼさないよう、操作権限を「参照可能な範囲」「編集可能な範囲」に明確に分けて付与することが前提になります。ベンダーに依頼する際は、内製化を見据えた操作マニュアルの整備や、簡易な操作研修をあわせて提案してくれるかどうかも、長期的な保守費用を左右する確認ポイントです。内製化できる範囲を広げれば広げるほど、外部への委託費用は下がりますが、その分だけ社内担当者の教育・引き継ぎコストが発生する点も忘れずに織り込んでおく必要があります。内製化の対象となる担当者が異動・退職した場合の引き継ぎ手順もあわせて整備しておくことで、属人化によって結局ベンダーへ再委託せざるを得なくなるという事態を防げます。

まとめ

MES改修の保守・運用費用まとめ

本記事では、MES改修における保守・運用費用・ランニングコストについて、他6波との違いという位置づけ、保守費用の相場感と全面刷新との比較、小規模改修が低予算で抑えられる3つの理由、そしてランニングコストをさらに最適化するポイントを体系的に解説しました。保守費用は「開発費の15〜20%」という共通の算出方法をベースとしつつ、母数となる改修費用の小ささと保守対象範囲の限定によって、全面刷新の月額60万〜100万円以上に対し、部分改修であれば月額数万円〜10万円前後という桁違いの低コストを実現できます。改修範囲を積み重ねすぎず、簡易なメンテナンスの内製化や従量課金型契約の活用を組み合わせることが、低予算でMESを維持し続けるための実務上の鍵となります。まずは自社の改修規模がどのレンジに該当するかを見極め、保守範囲を明確にした見積もりを複数の開発会社から取得したうえで、契約形態を比較検討することをお勧めします。

▼全体ガイドの記事
・MES改修の完全ガイド

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

ブログ|株式会社riplaをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む