MESのリニューアルを検討し始めると、既存MESの画面テンプレートをそのまま塗り替えるべきか、産業用端末ごと入れ替えるべきか、ベンダーやパッケージによって提案の幅が大きく異なることに戸惑う担当者は少なくありません。機能一覧やデモの見た目だけで選ぶと、自社の防塵・防滴要件や多品種少量生産の段取り替えに合わず、結局は現場が使いこなせないまま定着しないこともあります。選定の出発点は、現場のどの工程・どの端末で操作上の負荷やリスクが集中しているかを明らかにすることです。
本記事では、MESのリニューアル選定前に整理すべき自社の課題、3つのアプローチ、比較すべき評価軸、パッケージ・クラウド・フルスクラッチの選び分け、比較表やPoCの進め方を解説します。これから候補を探す担当者の方が、比較項目をそろえ、自社に合う進め方を具体的に絞り込める内容です。
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MESのリニューアル選定前に整理すべき自社の課題

最初に行うべきことは、ベンダーの提案資料を集めることではなく、どの工程・どの端末で入力ミスや操作の迷いが起きているかを特定することです。課題を一文で説明できれば、比較対象に含めるべき機能と不要な機能が見えやすくなります。
現場UI陳腐化のサインと影響工程を特定します
「ボタンが小さく押し間違えが多い」「段取り替えのたびに入力項目を探している」「現場が独自に紙やExcelへ二重記録している」といった声が班長やライン責任者から繰り返し上がっている場合、UI・UXの陳腐化が疑われます。どの工程・どのシフトで発生しているかを洗い出し、影響が大きい工程から優先順位をつけることが最初のステップです。
陳腐化のサインは、必ずしも操作画面そのものだけに現れるとは限りません。新人オペレーターの独り立ちに時間がかかる、交代制勤務の引き継ぎで確認漏れが増えるといった教育・運用面の兆候も、UI・UXの見直しが必要なサインとして扱います。班長へのヒアリングだけでなく、実際に現場でオペレーターの操作を数分観察するだけでも、資料には出てこない負荷の所在が見えてくることがあります。
対象端末・工程ごとの操作課題を洗い出します
工程ごとに使う端末は、産業用タブレット、ハンディターミナル、タッチパネル型の据え置き端末とさまざまで、防塵・防滴・耐衝撃の仕様要件も工程によって異なります。手袋着用の有無、立ち仕事か着座かといった作業姿勢、騒音レベル、交代制勤務での共有端末の有無まで工程ごとに書き出しておくと、後の評価軸で何を優先すべきかが明確になります。
多品種少量生産のラインでは、品番ごとに入力項目や検査基準が変わるため、段取り替えの頻度が高い工程ほど画面の再設計効果が大きくなります。反対に、単一品種を長期間流すラインでは、現行の画面でも大きな支障が出ていないことがあるため、工程の生産形態と課題の大きさをあわせて確認し、リニューアルの優先順位を工程間で比較しておくことが有効です。
MESのリニューアルの3つのアプローチ

主なアプローチは、既存MESのロジックを維持したまま画面だけを作り直す画面UI刷新特化型、産業用端末そのものを更新する端末更新型、MES本体の機能拡張を伴う統合型の3つです。実際の進め方は複数の要素を組み合わせることが多いため、分類名よりも、自社が最優先する課題をどこまでの範囲で解決したいかを確認します。
画面UI刷新特化型
既存MESの実績収集ロジックやPLC連携はそのままに、フロントエンドの画面だけを作り直すタイプです。裏側のシステムを変えないため比較的短期間・低コストで着手しやすい反面、既存の画面構造やデータ項目に制約される部分があり、抜本的な入力導線の変更には限界があります。
端末更新型と統合型
端末更新型は、老朽化したハンディターミナルや汎用タブレットを、防塵・防滴性能や画面サイズが自社の作業環境に適した産業用端末へ入れ替えるタイプです。ただし端末だけを新しくしても画面のレイアウトや操作フローが従来のままでは、入力のしやすさは大きく変わりません。統合型は、画面UIと端末の両方に加え、バーコード・RFID連動などMES本体の機能拡張まで含めて刷新するタイプで、投資規模は大きくなりますが、入力ステップの省略化など体験の変化を最大化しやすくなります。
どのアプローチを選ぶ場合でも、既存の実績収集ロジックやPLC連携を維持する範囲を先に確定させておくことが重要です。裏側のロジックまで手を入れる前提かどうかによって、検証すべき項目数や必要な期間が大きく変わるため、着手前にアプローチの範囲を関係者間で合意しておくと、途中での方針転換を避けやすくなります。
製品・ベンダー選定で比較すべき評価軸

候補となるベンダーや製品は、現場UI・産業用端末対応、既存PLC・設備連携の維持可否、費用体系と拡張性という軸で比較します。同じ質問を各社へ提示し、デモや仕様書の回答をそろえると、営業説明の分かりやすさではなく適合度で判断できます。
現場UI・産業用端末対応を確認します
デモでは、実際に使う産業用タブレットやタッチパネルの実機で、手袋着用時のタッチ感度、防塵・防滴カバー越しの操作性、屋外光や照明下での視認性を確認します。カタログ上の対応と実際の使用感が異なることも多いため、営業担当者の説明だけで判断せず、現場の代表者に実機を触ってもらうことが重要です。
既存PLC・設備連携の維持可否を確認します
画面を刷新しても、既存のPLCや現場設備との通信タイミングがずれれば、表示される実績データと実際の生産状況が食い違います。新しい画面が現行の連携ロジックとどこまで互換性を保てるか、通信エラー時のリトライやアラート表示をどう扱うかを、実際のPLC構成に近い環境で確認することが欠かせません。
ベンダーによっては、自社のPLC機種や通信プロトコルへの対応実績を持たない場合もあります。過去の連携実績があるかどうかだけでなく、実績がない機種であっても検証・調整を請け負える体制があるかを早い段階で確認しておくと、契約後に想定外の追加費用が発生するリスクを抑えられます。
費用体系・保守・拡張性を確認します
運用保守費用は初期構築費用の10〜15%程度が年間の相場とされますが、産業用タブレットなど現場端末は工場という過酷な環境での物理的破損やバッテリー劣化に伴う交換・修理費用が高額になりやすい点も加味する必要があります。初期費用だけでなく、端末の保守費用、産業用OSのバージョンアップに伴う動作検証費用、ラインを追加する際の拡張性まで含めて比較します。
比較結果は、評価担当者ごとに自由採点するのではなく、確認方法まで統一します。「防塵防滴対応」という回答だけでは、どの保護等級の端末を指しているのか、実際に粉塵環境でテスト済みなのかが分かりません。「実機で確認」「仕様書で確認」「デモで確認」のように証拠を残し、未確認事項は点数を付けず保留にすることで、導入後の認識違いを減らせます。
パッケージ・クラウド・フルスクラッチの選び分け

標準的な実績入力・工程管理の画面テンプレートで足りるならパッケージ・クラウドが第一候補です。自社の製造プロセスや現場オペレーションが競争優位性の源泉になっている場合はフルスクラッチ、標準機能と独自要件を分けられる場合はハイブリッドが適しています。
標準UIで足りるか、独自業務フローに合わせるかで判断します
パッケージ型・クラウド型は、標準的な実績入力・検査結果入力の画面テンプレートを短期間で利用開始できる点が強みです。ただし、特殊な実績入力フローへの過度なカスタマイズは、開発費の高騰やアップデート対応費用の増大という「隠れコスト」につながりやすい点に注意が必要です。フルスクラッチは、独自の段取り替えフローや特殊な検査基準に合わせた画面を自由に設計できますが、中〜大規模なシステムとなるため初期費用は数千万〜数億円規模になり得る一方、パッケージ型は500万〜数千万円程度でコスト・導入スピードに優れます。
段階導入とハイブリッド構成という選択肢もあります
全ラインを一斉にフルスクラッチで作り直すのではなく、標準機能で対応できる工程はパッケージ・クラウドのテンプレートを使い、独自性の高い工程だけを個別開発するハイブリッド構成も選択肢になります。まずは影響の少ないパイロットラインで小さく始め、運用が定着してから他のラインへ展開するという段階導入は、投資判断の見極めにも役立ちます。
ハイブリッド構成を採用する場合は、どの工程を標準テンプレートに合わせ、どの工程を個別開発するかの線引きを、最初の要件整理の段階で明文化しておくことが重要です。線引きが曖昧なまま進めると、開発の途中で「この工程も個別対応してほしい」という要望が積み重なり、当初の投資規模を超えてしまうことがあります。
比較表・要件整理とデモ・PoCの進め方

比較表や要件書では、機能の有無だけでなく、実際の工程と端末条件を示します。デモは説明を聞くだけで終わらせず、自社の現場で実際に使う端末とオペレーターを使って検証することが重要です。
要件は現場工程・端末条件まで具体化します
要件書には、対象ライン、工程数、使用端末の種類と保護等級、通信環境、多品種少量生産での段取り替え頻度、多言語・多人数運用の有無を記載します。そのうえで、バーコード・RFID連動の要否、視覚的アラートの表示方法、既存PLCとの連携条件を示します。各要件を「必須」「望ましい」「将来」の3段階に分けると、すべてを必須として候補を失う事態を避けられます。
PoCでは現場オペレーターによるユーザビリティテストを行います
PoCでは、実際にラインで働くオペレーター数名に協力してもらい、ワイヤーフレームやプロトタイプで実際の入力タスクを試します。手袋着用時のタッチ操作性、騒音環境でのアラートの気づきやすさ、段取り替え時の画面切り替えのわかりやすさといった現場特有の観点を、正常系だけでなく読み取りエラーや通信断といった例外処理も含めて検証します。合格条件には、処理時間、入力ミスの回数、操作に迷った箇所を記録し、デモでは見えない運用負荷を比較します。
PoCに参加してもらうオペレーターは、勤続年数や慣れの度合いが異なる複数名を選ぶことが望まれます。ベテランと新人では画面に対する迷いの箇所が異なるため、片方の意見だけを採用すると、もう一方の層にとって使いにくい画面が本稼働してしまうことがあります。
MESのリニューアル選定の失敗を避ける方法

よくある失敗は、会議室のパソコン画面で見た目のデザインだけを承認し、実際の産業用端末や現場環境での操作性を確認しないことです。導入目的と責任者を明確にし、現場、生産技術、情報システムの視点を選定に反映します。
会議室のパソコン画面だけで判断しないようにします
見た目が洗練されたデザインでも、産業用タブレットの画面サイズや手袋越しの操作では使いにくいことがあります。反対に、シンプルな見た目でも現場の作業動線に合っていれば定着します。具体的な候補製品を確認したい場合は、MESのリニューアルのパッケージ・クラウド製品一覧を参照すると、共通軸で比較しやすくなります。
運用ルールと定着体制も同時に決めます
新しい画面やアイコンの意味を誰がどう教育するか、読み取りエラー時の代替入力手順を誰が現場に周知するかが曖昧なままでは、導入後も現場の定着が進みません。班長やライン責任者を巻き込み、シフトごとの教育スケジュールと問い合わせ窓口をあらかじめ決めておくことが重要です。導入範囲を最初から全ラインへ広げず、パイロットラインで一度運用を経験してから対象を広げる進め方も、失敗を避けるうえで有効です。
削減効果はベンダーが提示する一般値をそのまま使わず、導入前後の入力ミス件数や段取り替えにかかる時間を自社で計測することも欠かせません。実測値に基づく効果測定があれば、追加ラインへの展開や次年度以降の投資判断も説明しやすくなります。
MESのリニューアル導入前に確認しておきたいポイント

候補を絞った後は、対象ラインの規模だけでなく、既存MESとのデータ移行や特殊端末の調達期間まで確認します。比較表の機能欄だけでは見えにくい条件を事前に検証することで、導入後に運用が止まるリスクを抑えられます。
小規模ライン・単一工程からでも導入効果は見込めます
ライン数が少なくても、入力ミスや紙・Excelへの二重記録が常態化している工程があれば検討価値があります。一方、既存の画面で現場が問題なく運用できているなら、投資してまで刷新する必要はありません。
既存MESとの役割分担・データ移行を決めます
リニューアルは実績収集ロジックそのものを作り直す取り組みではないため、どこまでが画面刷新の対象で、どこからが既存MESの改修になるのかをあらかじめ切り分けておく必要があります。切り分けが曖昧なまま進めると、開発途中で対象範囲が広がり、スケジュールと費用の見積もりが崩れやすくなります。
特殊端末の調達期間を早めに確認します
防塵・防滴・耐衝撃の産業用端末は一般的な端末より調達に時間がかかりやすく、実機が届かなければユーザビリティテストも進みません。契約前に候補ベンダーへ標準的な納期を確認し、選定プロセス全体のスケジュールに織り込んでおくことが重要です。
特に海外製の産業用端末は輸入手続きや在庫状況によって納期が変動しやすいため、複数の候補ベンダーに同じ台数・仕様で見積もりを依頼し、納期のばらつきも比較材料に含めておくと、選定後の計画変更を避けやすくなります。
まとめ

MESのリニューアル選定では、現場UIの陳腐化サインと対象工程・端末を特定し、画面UI刷新特化型、端末更新型、統合型から方向性を選びます。その後、現場UI・産業用端末対応、既存PLC連携の維持可否、費用体系と拡張性という評価軸で候補を比較し、現場オペレーターによるPoCで手袋操作やアラート視認性まで確認することが重要です。
パッケージ・クラウド・フルスクラッチの選択は、機能数ではなく、標準化できる工程と自社独自の工程をどこで分けるかによって判断します。既製品では特殊な段取り替えフローや複雑な設備連携に対応できない場合、無理に業務を合わせると現場の二重入力が残ります。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、製品選定前の要件整理、既製パッケージと既存MESをつなぐ連携、独自業務に合わせた個別開発まで支援しています。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
