業務システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用は、対象となるシステムの性質によって考え方が大きく変わります。全社の基幹業務を支えるERPのモダナイゼーションでは、稼働後も複雑な運用保守体制と高額なランニングコストが継続的に発生しますが、見積管理・案件管理・勤怠管理・経費精算といった特定部門で完結する業務システムのモダナイゼーションは、対象範囲が限定される分、運用保守がシンプルになり、ランニングコストも大幅に抑えられる傾向にあります。とはいえ、Excel・VBA・Accessなどで属人的に構築された老朽化した業務システムを放置し続ければ、目に見えにくい運用コストが静かに膨張し続けるという固有のリスクも抱えています。保守・運用費用を検討する際は、まず「放置した場合のコスト」と「モダナイズした場合のコスト」を対比して考えることが出発点になります。IT予算全体で見ると、基幹システムの保守費用は経営会議で継続的に議論の俎上に載る一方、部門システムの保守費用は「現場の細々とした経費」として見過ごされがちで、これが結果的に非効率な運用の長期化を招く要因にもなっています。
本記事では、業務システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用・ランニングコストに焦点を当て、老朽化した部門システムを放置した場合のコスト構造、モダナイゼーション後のランニングコストの目安、基幹システムと比較して運用保守がシンプルになる理由、そしてコストを最適化するための実践的なポイントまでを体系的に解説します。限られたIT予算の中で、どの業務システムから優先的にモダナイズすべきかを判断する材料としてお役立てください。基幹システムのモダナイゼーションほど大規模な投資判断を要さない分、部門システムは複数の候補を並行して比較検討しやすく、放置コストとモダナイズ後コストの差分を具体的な数値で把握できれば、経営層への投資稟議も通しやすくなります。
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老朽化した部門業務システムを放置した場合のコスト構造

業務システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用を考える際、まず押さえておくべきは「放置コスト」の存在です。ERPのような基幹システムの老朽化は経営レベルの危機感として認識されやすい一方、部門特化型の業務システムは規模が小さいがゆえに問題が見過ごされ、じわじわとコストが積み上がっていく傾向があります。ここでは、老朽化した部門業務システムを放置した場合に発生する3つのコスト構造を整理します。放置コストは「見えやすいコスト」と「見えにくいコスト」に大別でき、保守ベンダーへの支払いのような見えやすいコストだけを見ていると、本質的な問題である見えにくいコストを過小評価してしまう点に注意が必要です。
Excel/VBA/Accessへの依存と属人化リスク
部門特化型の業務システムをモダナイズせずに放置すると、見えない運用コストが肥大化する特有の構造に陥ります。現場部門で独自に作られたExcelマクロやAccessなどのツールは、担当者の頭の中だけで仕様が管理される「属人化」を引き起こしやすい典型例です。仕様が明文化されていないため、担当者の異動や退職によって完全にブラックボックス化し、データ整合性や内部統制上の大きな課題を生み出します。基幹システムであれば専門の情報システム部門が体系的に保守を行いますが、部門システムは現場の一担当者が片手間でメンテナンスしているケースも多く、その担当者が不在になった瞬間に保守そのものが機能不全に陥るという、部門システム特有の脆さを抱えています。とくに見積管理や案件管理のように営業部門が独自に作り込んだExcelシートは、マクロの改修履歴が残っておらず、担当者が退職した途端に「誰も直せない」状態に陥りやすく、小さな仕様変更のたびに外部のExcel専門業者へスポットで高額な修正費用を支払わざるを得なくなるケースも少なくありません。
手作業残存による隠れコストの膨張
システムが老朽化すると、他システムとの連携ができず、データの手入力や修正といった手作業による対応が残ります。これにより、本来の業務量に対して運用負荷が異常に高くなり、目に見えない人件費(隠れコスト)が膨張し続けます。加えて、古い技術や独自仕様のシステムは、改修時の影響範囲の特定が難しく、対応できる人材も限られるため、少しの機能追加やトラブル対応でも保守費用が高止まりしやすくなります。部門システムの場合、こうした手作業のコストは月次の保守費用として明示的に計上されにくく、現場の残業時間や機会損失という形で見えないまま蓄積していく点が、基幹システムの保守コストとは異なる厄介さです。たとえば経費精算業務であれば、紙の領収書を回収し、担当者が手作業で科目を仕訳し、上長が個別に承認する一連のフローに月あたり数十時間の工数が費やされているケースも珍しくなく、これを時給換算すると年間で数百万円規模の見えないコストが発生していることになります。こうした隠れコストは決算書や予算計画には現れにくいため、経営層が老朽化した部門システムの問題を過小評価しやすい要因にもなっています。
モダナイゼーション後のランニングコストの目安

システムのモダナイゼーションを実施することで、一般的に年間運用費の20〜40%の削減が期待できるとされています。部門特化型の業務システムにおいては、特に「SaaSへのリプレース」を選択した場合に、この効果がより明確に表れやすい傾向があります。基幹システムのモダナイゼーションでは、インフラのマネージドサービス化やコンテナ化によって運用コストを60〜90%削減できる可能性がある一方、その効果を刈り取るまでにFinOps体制の構築や運用監視設計など相応の準備期間を要します。部門システムはそもそもの絶対額が小さいため、削減率よりも「意思決定から効果発現までのリードタイムの短さ」が投資判断のしやすさに直結します。
SaaS移行時のライセンス費用感
勤怠管理や経費精算といったクラウドSaaSへ移行した場合、機能がクラウドに最適化されているため、1ユーザーあたり月額数百円〜数千円程度の安価なサブスクリプション(ライセンス)費用に収まることが一般的です。従業員数百名規模の企業であっても、月額のライセンス費用は数万円〜数十万円程度で済むケースが多く、ERPのライセンス費用やインフラ維持費が年間数千万円規模に達することもあるのと比べると、ランニングコストの桁が大きく異なります。SaaSを利用することで、自社でサーバー(インフラ)の維持管理費を抱え込む必要がなくなり、法改正や機能追加に伴うシステムのアップデートはベンダー側が自動で行うため、自社でのテストや改修開発にかかる費用もほぼゼロに抑えられます。見積管理・案件管理システムであれば、案件数やユーザー数に応じた従量課金プランを提供するSaaSも多く、繁忙期・閑散期で利用規模が変動する部門であっても、無駄なライセンス費用を払い続けずに済む点もランニングコストを抑えるうえで有利に働きます。
運用支援コストの早期フェードアウト
稼働直後(ハイパーケア期間)は、定着化のためのコンサルティング支援費用が発生しますが、業務システムは単一の部門のみで利用するケースが多く、現場への定着が早いため、数ヶ月後には人的な支援を外し、安価なライセンス費用のみのランニングコストへ移行しやすいのが特徴です。基幹システムの場合、複数部門にまたがる複雑な業務プロセスを支える運用サポート体制を長期間維持する必要がありますが、部門システムは対象ユーザーが限定的であるため、問い合わせ対応やヘルプデスク機能もSaaSベンダーの標準サポートで十分にカバーできることが多く、自社独自の運用保守チームを大規模に抱える必要がありません。ハイパーケア期間の目安としては、稼働後1〜3ヶ月程度、パートナー企業やベンダーのカスタマーサクセス担当が操作方法の問い合わせやマスタ設定の微調整に伴走する契約を結んでおくと、現場での混乱を最小限に抑えつつ、その後の運用体制を自走化しやすくなります。
基幹システムと比べて運用保守がシンプルになる理由

ERPのような全社的な基幹システムのモダナイゼーションでは、稼働後も複雑な運用保守が求められますが、部門特化型システムは以下の理由から運用保守が圧倒的にシンプルになります。運用保守がシンプルになるということは、突発的な障害対応やトラブルシューティングにかかる工数も比例して小さくなるということであり、限られた人員で情報システム部門を運営している中堅・中小企業にとっては、この「保守負荷の低さ」自体が部門システムのモダナイゼーションを優先すべき理由の一つになります。
「非競争領域」ゆえの「Fit to Standard」の徹底しやすさ
IT資産のポートフォリオ管理において、総務、人事、会計(経費精算)などのバックオフィス業務は、自社の差別化要因にならない「ビジネス価値が低く、業界内で標準化されている非競争領域」に分類されます。基幹システムのように独自の複雑なビジネスロジックをフルスクラッチで再構築する必要がなく、部門システムにおいては、自社独自のロジックを捨て、最新のSaaS製品が備える標準機能に業務フローを合わせる「Fit to Standard」のアプローチをトップダウンで徹底しやすいのが最大の理由です。カスタマイズを増やすほど保守コストが上がるという構造は基幹システムと共通していますが、部門システムは業務プロセス自体を標準に合わせやすいため、そもそもカスタマイズの必要性が生じにくいという点で決定的に異なります。ERPのモダナイゼーションでは、会計・購買・生産といった複数モジュール間のデータ連携やアドオン開発の整合性を維持するために専任のシステム保守要員を継続的に確保する必要がありますが、部門システムは単一の業務領域に閉じているため、保守担当者が兼務であっても十分に対応できる規模にとどまることがほとんどです。
独自カスタマイズを持たないことで得られる恩恵
独自のカスタマイズ(アドオン開発)を行わずに標準機能を利用することで、SaaSベンダーが提供する最新のアップデートをそのまま享受できます。基幹システムのように「アップデートのたびに自社のカスタマイズ部分が壊れないかテストする」という膨大な保守工数が不要になるため、維持管理コストを最小化できるのです。また、部門システムは連携する外部システムの数も基幹システムに比べて少ないため、障害発生時の影響範囲の特定や原因切り分けも短時間で完了しやすく、運用担当者一人あたりがカバーできるシステム数も相対的に多くなります。この「保守の軽さ」こそが、部門システムのモダナイゼーションが投資対効果に優れると評価される最大の理由です。実際に、勤怠管理システムを老朽化した独自開発から標準的なSaaSへ刷新した企業では、これまで情報システム部門が月に数十時間かけていた打刻データの手集計・給与システムへの再入力作業がAPI連携によって自動化され、保守担当者の工数そのものが不要になったという声も多く聞かれます。保守工数の削減は、単なる費用削減にとどまらず、限られた情報システム部門の人員をより付加価値の高い業務へ再配置できるという副次的な効果ももたらします。
コストを最適化するための実践的なポイント

部門特化型の業務システムだからといって、モダナイズしさえすれば自動的にコストが最適化されるわけではありません。ランニングコストを継続的に抑えるためには、稼働後も意識すべきポイントがあります。基幹システムの場合はFinOpsチームや専任の運用監視担当を置いてコスト最適化を継続的に行うのが一般的ですが、部門システムの規模ではそこまでの体制は不要な一方、意識的にレビューの機会を設けなければコスト最適化の取り組みそのものが忘れられてしまうという別の課題も存在します。
ライセンス数・プランの定期的な見直し
SaaSのライセンス費用はユーザー数に比例して増加するため、退職・異動によって発生した不要なライセンスを放置すると、じわじわとランニングコストを圧迫します。基幹システムであればライセンス管理を情報システム部門が一元的に統制していることが多いですが、部門システムは現場の担当者がアカウント発行・削除の運用を担っているケースもあり、退職者アカウントの解約漏れが積み重なりやすい点にも注意が必要です。四半期に一度など定期的にライセンス利用状況を棚卸しし、不要なアカウントを解約する、利用頻度の低い部署は下位プランへ切り替えるといった見直しを行うことで、無駄なコストを継続的に排除できます。また、機能の重複するSaaSを複数部門がそれぞれ契約しているケースも珍しくないため、全社横断でのSaaS利用状況の可視化を行い、統合できる契約がないかを確認することも有効なコスト最適化策です。棚卸しの担当者を情報システム部門だけでなく各部門の運用責任者にも割り振り、四半期ごとの定例チェック項目としてカレンダーに組み込んでおくと、属人的な見直しに頼らず継続的にコストを最適化できる体制を築けます。特に案件管理・見積管理系のSaaSは営業部門・製造部門・経理部門がそれぞれ類似の機能を持つ別々のツールを契約してしまいがちで、年次契約の更新タイミングをずらして棚卸しを怠ると、統合の機会を逃したまま重複コストを払い続けることになりかねません。
「新たなシャドーIT」を生まない運用ルールの整備
部門システムのモダナイゼーションは着手のハードルが低い分、稼働後の運用ルールが後回しにされがちですが、ここを軽視すると数年単位で見た際のコスト最適化効果が目減りしてしまいます。SaaSへ移行した後も、標準機能でカバーしきれない一部の業務を再びExcelで補完し始めると、せっかくモダナイズしたシステムの隣に新たな「シャドーIT」が生まれ、数年後には再び属人化・ブラックボックス化した仕組みが積み上がってしまいます。これを防ぐには、標準機能で対応できない要望が出た際に、個人の判断でExcel運用に戻すのではなく、情報システム部門やモダナイゼーションを支援したパートナーに相談し、SaaSの追加機能やAPI連携で解決できないかを検討する運用ルールを社内に定着させることが重要です。部門システムは意思決定のスピードが速い分、こうした「なし崩し」のカスタム運用が発生しやすいため、稼働直後のルール整備が長期的なコスト最適化を左右します。あわせて、SaaSベンダーが公開しているAPIやノーコード連携ツール(iPaaS)を活用し、どうしても標準機能で足りない部分は「Excelに戻す」のではなく「軽量な連携アドオンで補う」方針を最初に決めておくことで、将来的な保守コストの再肥大化を未然に防ぐことができます。年に一度は稼働状況とコスト構造を棚卸しし、当初想定していたランニングコストとの乖離がないかを確認する定例レビューの場を設けることも、部門システムのモダナイゼーション効果を長期的に維持するうえで欠かせません。
まとめ

本記事では、業務システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用・ランニングコストについて、老朽化した部門システムを放置した場合のコスト構造、モダナイゼーション後のランニングコストの目安、基幹システムと比較して運用保守がシンプルになる理由、コストを最適化するための実践的なポイントを体系的に解説しました。部門特化型の業務システムは、Excel・VBA・Accessへの依存による属人化と隠れコストの膨張という放置リスクを抱える一方、SaaSへのリプレースによって年間運用費を20〜40%削減できる可能性を持っています。基幹システムに比べて対象範囲が限定され「非競争領域」に該当する業務が多いことから、Fit to Standardを徹底しやすく、独自カスタマイズに伴う保守負担も発生しにくいという点が、運用保守をシンプルに保てる最大の理由です。稼働後もライセンスの定期棚卸しとシャドーITを生まない運用ルールの整備を続けることが、長期的なコスト最適化の鍵となります。基幹システムのモダナイゼーションが全社規模のプロジェクトとして長期的な投資判断を要するのに対し、業務システムのモダナイゼーションは対象部門を絞ればスモールスタートで着手でき、放置コストの可視化さえできれば投資対効果を早期に実感しやすいという利点もあります。まずは自社の部門業務システムがどれだけの隠れコストを生んでいるかを可視化することから始めてみてください。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
