人事・労務・採用のAI活用事例|採用・労務・人事評価を変える実例

採用応募者の書類選考から面接のフォローアップ、勤怠管理や給与計算、人事評価・人材育成まで、人事・労務・採用の業務範囲は広く、担当者の工数は膨大です。近年、AI・生成AIの実用化が進むにつれ、これらの業務を自動化・効率化する取り組みが大企業から中堅・中小企業まで広がっています。

この記事では、人事・労務・採用の各業務シーンにおける具体的なAI活用事例を紹介します。レポートや文献で実在が確認された事例と、現場で広く報告されている一般的な活用パターンを組み合わせ、自社導入の参考になる情報をお届けします。

人事・労務・採用のAI活用の全体像は、以下の完全ガイドで体系的に解説しています。

▼全体ガイドの記事
・人事・労務・採用のAI活用 完全ガイド|進め方・事例・効率化まで体系的に解説

人事・労務・採用でAI活用が広がる背景

人事・労務・採用でAI活用が広がる背景

人事部門は長年、高度に反復的な作業と膨大な書類処理を担ってきました。採用シーズンには数百件から数千件の応募書類を選考し、入社後は労務・勤怠管理、評価面談の準備・記録、研修企画など多岐にわたる業務が積み重なります。こうした業務量の多さが、AIへの注目度を押し上げています。

グローバル・国内の導入状況

SHRM(米国人材管理協会)が2025年に実施した調査によれば、グローバルでは約46%の企業がAIを人事業務に積極的に活用しており、前年比で12ポイント超の増加が確認されています。そのうち約70%が採用プロセスへのAI適用を最優先領域として位置づけているとされます。

日本国内でも、パーソル総合研究所が2025年に行った調査では、約90%の企業が人事領域へのAI活用を「実施済みまたは検討中」と回答しています。ただし、本格的な運用段階に達しているのは20〜30%程度にとどまり、大企業では専任のAI推進チームを設ける動きが進む一方、中小企業では具体的なアクションプランが描けていないケースも多い現状があります。

AIが人事業務と親和性が高い理由

人事・採用業務がAIと相性が良い理由は、業務の構造にあります。採用選考・勤怠集計・給与明細作成など、多くの処理が「大量のデータを一定のルールに沿って処理する」という繰り返し作業で成り立っているからです。こうした処理をAIに委ねることで、人事担当者はより判断が必要な高付加価値業務——面接における深掘り・組織設計・人材育成計画——に集中できるようになります。

加えて、生成AIの登場により、面接フィードバックの文章化・求人票の下書き・社内規程の検索対応など、これまで人が時間をかけてきた「文章業務」の自動化も現実的になりました。定型作業から情報処理・文章生成まで幅広く対応できる点が、人事部門でのAI活用を後押ししています。

人事・労務・採用のAI活用シーンの全体像

人事・労務・採用のAI活用シーンの全体像

人事・労務・採用のAI活用は、大きく4つの領域に整理できます。「採用業務(書類選考・面接・オファー)」「労務管理・勤怠(集計・コンプライアンス確認)」「人事評価・人材育成(評価フィードバック・スキル可視化)」「社内問い合わせ対応(規程検索・手続きガイド)」です。

採用業務でのAI活用シーン

採用業務では、応募書類のスクリーニング・動画面接の分析・面接メモの自動生成・候補者とのメール対応自動化など、多くの場面でAIが活躍しています。エントリーシートや職務経歴書の読み込みから評点付けまでを自動化するシステムは、選考の初期段階にかかる工数を大幅に削減できます。

労務管理・勤怠でのAI活用シーン

労務管理では、勤怠データの異常検知・36協定違反の予測警告・シフトの法令遵守チェック・給与計算前の誤り自動フラグなど、コンプライアンス関連の確認作業にAIが投入されています。これらは手作業で行うと見落としが発生しやすく、AIによる自動検知が特に効果を発揮する領域です。

採用業務におけるAI活用事例

採用業務におけるAI活用事例

採用業務は、AIが最も早く、最も広く導入が進んでいる人事領域です。書類選考・動画面接の評価・面接記録の自動化など、各ステップでAIの活用が報告されています。以下では、実際に報告された事例を業務シーン別に紹介します。

エントリーシート・書類選考の自動化

エントリーシートの大量選考にAIを活用する企業が増えています。LINEヤフー株式会社では、過去の採用データをもとにしたスコアリングによりエントリーシートの評価時間を約60%削減したと報告されています。ソフトバンク株式会社では、IBM Watsonを活用して600字の自己PR文を自動解析し、評価工数を680時間から170時間(約75%削減)に圧縮した事例が公開されています。

AIによる書類選考は、過去の採用実績(入社後のパフォーマンスデータ等)と応募書類の記述を照合し、優先度の高い候補者をリストアップする仕組みが一般的です。最終判断は必ず採用担当者が行い、AIが自動却下するのではなく「優先度付け」に留める設計が重要なポイントです。不合格判定を受けたファイルを人手で再確認する運用をとる企業もあります。

動画面接・面接記録の自動化

キリンホールディングス株式会社では、動画による一次面接にAIを導入し、応募者の回答内容・声のトーン・表情などを分析するシステムを活用しています。一次面接の工数を約50%削減しつつ、地方在住者など遠隔地の候補者も均等に評価できる体制を実現した事例として紹介されています。

面接記録の自動化も進んでいます。株式会社日立製作所では、面接内容の自動書き起こしと記録生成をAIで行い、面接後の記録作業工数を大幅に削減しています。これにより面接担当者は会話に集中できるようになり、面接の質の向上にもつながると報告されています。また、松屋フーズホールディングス株式会社では、店長昇格選考に「SHaiN」と呼ばれるAI面接システムを活用し、集合型選考から自動評価へと移行しています。

社内公募・配属マッチングのAI化

採用後の配属・社内公募にもAIが活用されています。テルモ株式会社は2025年3月、グローバルな社内タレントマーケットプレイス「Terumo ONE Connect」を立ち上げました。研究開発・人事・IT・財務の約7,000名(FY2026末までに10,000名規模へ拡張予定)のスキルと経歴をAIが分析し、最適なポジションや短期プロジェクトを推薦する仕組みです。試行期間中に3件の部門異動支援、33のプロジェクトチーム組成、841件の社内ネットワーキング接続が実現されました。

株式会社サイバーエージェントでは、2023年春の新卒入社時に、約170名の新卒社員を100以上の事業部門に配属するAIマッチングシステムを導入しました。本人の希望・認知テスト結果・性格特性を組み合わせて最適な配属先を割り出し、長期的な定着率と成果向上を目指す取り組みです。

労務管理・勤怠管理におけるAI活用事例

労務管理・勤怠管理におけるAI活用事例

労務管理・勤怠管理の現場では、月末の勤怠集計ミスの修正や36協定違反リスクの確認など、細かな確認作業が担当者の負荷になりがちです。AIエージェントを活用することで、こうした確認業務を自動化し、コンプライアンスの質と効率を同時に高める取り組みが広がっています。

勤怠データの自動確認・修正依頼

製造業の現場では、打刻漏れや未入力の勤怠データをAIが自動検出し、従業員へチャットで修正依頼を送信、修正フォームの作成まで完結させる運用が報告されています。こうした仕組みの導入により、月末の勤怠締め作業工数が30時間から18時間程度に削減(約40%削減)できた事例が確認されています。

小売・サービス業では、シフトと実績の比較をAIが自動化し、休憩時間不足や連続勤務日数超過などの法令違反候補をリアルタイムで管理者に通知するシステムが活用されています。1店舗あたり週2.5時間程度のコンプライアンス確認作業が省力化できた事例が報告されています。

36協定遵守の予測・警告と給与計算前チェック

IT・情報サービス系企業では、月途中の段階でAIが週次の残業時間推移を分析し、36協定の上限を月末に超えると予測される従業員をあらかじめフラグアップする仕組みが導入されています。この予測的アプローチにより、四半期あたりの36協定違反件数が約35%削減された事例が報告されています。

医療・介護分野では、夜勤明け後の最低休息時間など複雑なシフト規制をAIが草案段階でチェックし、スケジュール差し戻し率が22%から12%に改善した取り組みが確認されています。また複数拠点を抱える企業では、給与締め日前にAIが未承認残業・控除ミスなどのエラーを自動検出し、月次で5時間程度の修正作業を削減したとする報告もあります。

人事評価・人材育成・社内問い合わせのAI活用事例

人事評価・人材育成・社内問い合わせのAI活用事例

採用・労務に続き、人事評価・人材育成・社内問い合わせ対応の分野でもAI活用が進んでいます。特に評価フィードバックの文書化や社内規程の検索対応など、生成AIが得意とする「文章系の業務」との相性が良く、現場の負担軽減に大きく貢献しています。

評価フィードバックの文章化と人材データの可視化

人事評価の場面では、評価者がメモや箇条書きで残した評価コメントを生成AIが整理・文章化し、被評価者へのフィードバック文書として仕上げる活用が広がっています。定性コメントのバラつきを平準化し、評価者が一人ひとりに丁寧なフィードバックを届けるための時間を確保できるというメリットがあります。

また、SmartHR株式会社が提供するクラウド人事システムでは、蓄積された従業員データをAIが分析し、最適な人材選定や配置をサポートする機能が開発されています。スキルマップの自動生成や人材データのダッシュボード化など、従業員の能力を可視化・活用するためのAI機能が人事領域で実用化されつつあります。

社内問い合わせ対応の自動化(就業規則・福利厚生・手続き案内)

人事部門への社内問い合わせは、育児休業の取得条件・有給休暇の申請方法・各種手当の対象要件など、繰り返し聞かれる質問が多くを占めます。これらの対応にRAG(検索拡張生成)技術を組み込んだ社内チャットボットを導入することで、問い合わせの一次対応を自動化できます。

大手製造業や情報サービス系企業を中心に、社内規程・就業規則・手続きフローをナレッジとして読み込ませた専用AIチャットボットの導入が進んでいます。こうした仕組みを整えることで、人事担当者が同じ質問に何度も回答する工数を削減し、より付加価値の高い業務に時間を充てられるようになります。また夜間・休日の問い合わせにも自動対応できるため、従業員の利便性向上にもつながります。

人事異動・配置転換計画へのAI活用

NECソリューションイノベータ株式会社(福島市)では、年次の公務員人事異動(約2,000名規模)にAIを活用した人事異動推薦エンジンを導入しました。在職年数・性別比率・資格・過去の配属履歴などを複合的に考慮した推薦を自動生成し、候補者選定時間を25%、異動計画の草案作成工数を17%、条件確認作業工数を92%それぞれ削減したと報告されています。

人事・労務・採用のAI活用で得られる効果

人事・労務・採用のAI活用で得られる効果

AI活用によって期待できる効果は、単なる工数削減にとどまりません。選考の客観性向上、コンプライアンスリスクの低減、従業員エクスペリエンスの改善など、多面的な効果が報告されています。

業務工数の削減と人事担当者のリソースシフト

書類選考・勤怠チェック・社内問い合わせ対応といった定型業務の自動化により、人事担当者は繰り返し作業から解放されます。採用領域では書類選考工数を50〜75%削減した事例が複数報告されており、労務領域でも月次の勤怠集計・修正作業が30〜40%程度短縮された取り組みが確認されています。

こうした工数削減の恩恵として重要なのが、人事担当者のリソースシフトです。繰り返し作業から解放されることで、採用担当者は深掘り面接・候補者との関係構築、労務担当者は制度設計・コンプライアンス対応の高度化、人材開発担当者は個別のキャリア支援や研修企画といった、より付加価値の高い業務に時間を投資できるようになります。

選考の客観性向上とコンプライアンスリスク低減

AIによる標準化されたスコアリングを活用することで、選考担当者の疲労や無意識のバイアス(学歴・性別・外見への先入観など)が最終評価に影響しにくい環境を整えることができます。ただし、AIシステム自体が過去のバイアスを学習してしまうリスクもあるため、採用AIの公平性検証と人事部門・法務・情報セキュリティによる継続的なガバナンスが不可欠です。

労務管理においては、AIによる予測的な違反検知により、36協定超過・シフト法令違反などのコンプライアンスリスクを未然に抑制できます。問題が発生してから対処するのではなく、発生前に警告・是正を促す「予防型の労務管理」への移行が可能になる点が大きな価値です。

自社でAI活用を始めるための進め方

自社でAI活用を始めるための進め方

人事・労務・採用のAI活用を検討する際、闇雲にツールを導入するのではなく、段階的に進めることが成功の鍵です。以下では、実際の取り組みから見えてきた進め方の基本ステップを紹介します。

ステップ1: 課題・ボトルネックの棚卸し

まず、現在の人事・労務・採用業務の中でどこに工数がかかっているか、どこでミスや漏れが発生しやすいかを可視化します。「月末の勤怠集計に毎回10時間かかっている」「書類選考シーズンに1人で200件以上を処理している」など、定量的な現状把握が出発点です。

AIが得意とするのは「大量・反復・ルールが明確」な業務です。こうした特性と自社の課題を照合し、最初に取り組む領域(採用書類選考、勤怠チェック、社内問い合わせ対応など)を一つ絞ることが推奨されます。

ステップ2: セキュリティ・ガバナンス体制の整備

人事データには応募者の個人情報・従業員の評価情報・給与情報など、極めて機微な情報が含まれています。AI導入に際しては、エンタープライズグレードのセキュア環境(プライベートクラウド・企業向けSaaS)を選択し、入力したデータが外部のモデル学習に使われない仕組みを確認することが必須です。

また、AIガバナンス委員会(人事・情報セキュリティ・法務・コンプライアンスの担当者で構成)を設け、利用ガイドライン・個人情報保護対応・AIの出力に対する最終的な人間判断の担保などを明文化することが推奨されます。採用AIについては、個人情報保護委員会の行政指導事例(リクルートキャリアの事例)に見られるように、候補者の同意なく予測スコアを外部提供することは認められていないため、コンプライアンス確認は特に重要です。

ステップ3: 小規模PoC(実証実験)からスタート

最初から全社展開を目指すのではなく、1つの業務領域・1部門に絞った90日程度のPoC(概念実証)を行います。PoCでは工数削減効果に加えて、AIの出力精度・人事担当者の利用定着率・候補者からの受容性なども評価します。面接要約のAI出力におけるハルシネーション(事実と異なる記述)の発生率を5%未満に抑えるなど、品質基準をあらかじめ設定しておくことが重要です。

PoCを通じて効果が確認できた領域から順次本格展開に移行し、横展開の際はRAG(社内ナレッジ連携)やシステム連携(HRIS・ATSなど)を加えた高度な活用へと発展させていくのが一般的な進め方です。

まとめ:人事・労務・採用のAI活用事例から見えるポイント

まとめ:人事・労務・採用のAI活用事例から見えるポイント

人事・労務・採用の各領域でAI活用の事例が積み重なってきています。書類選考の工数を大幅に削減したLINEヤフーやソフトバンクの採用AI、社内人材の最適配置を支援するテルモの「Terumo ONE Connect」、公務員人事異動の効率化を実現したNECソリューションイノベータの事例など、実践的な取り組みが国内でも着実に広がっています。

これらの事例に共通するのは、「AIが最終判断を下すのではなく、人間の意思決定を支援する」という設計思想です。採用・評価・異動のいずれにおいても、最終的な判断は人事担当者・採用担当者が行い、AIはデータ分析・文章化・ルールチェックなどの前処理を担う役割分担が標準的です。

個人情報保護・採用公平性・36協定遵守など、人事領域特有のコンプライアンス要件をしっかり押さえた上で、課題の棚卸し→セキュリティ体制整備→小規模PoCの順に進めることで、リスクを抑えながら成果を確認し、確実に本格展開へとつなげることができます。AI活用による工数削減効果を土台に、人事担当者が戦略的・人間的な価値創出に集中できる組織づくりを目指してみてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。

 

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